いい具合に壊れる
そんな感じで、いくら仕事が少ないからと言ってもそんなに退屈はしなかった。なんだかんだとすることはあるし、リーネとトーイは勉強もあるしな。その二人を見守ってるだけでも楽しいぞ。
そして、冬用の風呂を作ったおかげで、毎日風呂に入れたのはよかった。この辺りは雪はあまり降らず、大体は雨だったことで貯水槽に水が溜まってくれて、それで風呂の水を賄えたのは助かったよ。
その上で数日に一回は村まで納品にも行く。そのついでにレンガも手に入れる。てか、レンガ工場(と言ってもちょっとでかい民家程度の規模のだが)で使う諸々の道具についても、鉄製のものはだいたい俺が引き受けてる。だからそれと交換にレンガをもらってくるんだ。
他にも、調理ナイフや鍋といったものは、なんだかんだと必要になるからな。村自体がまだできて間もないから、やっぱり道具が十分に揃ってないんだよ。『あれが欲しい』『これも必要だ』ってのが当分でてくるだろう。で、そういうのが一通り揃ってくると今度は、古い道具が壊れ始める。こうして鍛冶屋の仕事は続いていくってことだ。
今世の俺の親父は、憎ったらしいことにその辺りの加減も絶妙でな。いい具合に壊れるんだよ。壊れるのが早すぎると評判が下がるし、壊れなさすぎると今度は商売あがったりになる。そういう部分を俺はまだ習得できていなかった。正直、ちゃんとしたものを作る自信はそれなりにある。だが、ちゃんとしすぎてると今度は仕事が減っちまう。この辺りの匙加減が巧いのも<腕のいい鍛冶屋>ってことなんだろうなあ。
でもまあ、当面の間は大丈夫だろう。五年後、十年後くらいだな。村が完全に落ち着いて、道具が行き渡ってそのサイクルがどうなるか、だ。
とは言え、今の時点では当面先のことだし、あんまり気にしてても仕方ない。それに十年後ともなればリーネはもちろんトーイも<大人>だ。仕事をしてくれてれば、三人、力を合わせてなんとかやっていくさ。
なんてことを考えつつ家に戻ると、林の中でバタバタと何かが暴れる気配が。
「まさか…!」
思わず顔がにやけつつ入っていくと、俺が仕掛けた罠に、ウサギが掛かってた。
「よっしゃあ!」
ついつい声が出てしまう。
「すまんな。お前の命、ありがたくいただかせてもらうぜ」
言いながら俺は、容赦なく息の根を止めた。久々ではあるものの、思ったほど心は揺らがなかった。こっちでの暮らしが身に沁みついてるからだろうな。
「リーネ! トーイ! ウサギが捕れたぞ!」
ウサギを掲げつつ玄関を開けると、
「まあ!」
「やった!」
二人が嬉しそうに出迎えてくれたのだった。




