<用心>ってヤツは必要なんだ
この辺りは雪はあまり積もらないが、農閑期は春以降に向けての様々な準備期間ということもあって、それぞれ家にこもりつつもすることはいろいろある。収穫物を保存するために乾燥させたりというのは最初のうちすることだが、カビないように気を付けるというのもその一つだ。
カブに似た野菜を薄切りにして天日干しにしたものなんかも代表的な保存食だな。千切り大根と同じ理屈だ。あとはやっぱり、小麦粉を使ってパンを焼くのが一番ポピュラーか。パンは一年中食べるものでありつつ、冬は特に他に食べられるものが極端に減るから、どうしたってメインに食べることになる。
干したカブの薄切りや同じく干した野菜類及び干し肉を水で戻してスープにして、それにパンを浸して食うのが、冬の定番メニューだ。俺個人としては白い飯と味噌汁が恋しくなるものの、ないものはないから泣き言を口にしても始まらん。
それに、リーネやトーイと楽しく食事をできれば、それでも十分に気がまぎれる。もしこれが俺一人の食事だったら、
『せめて食事だけでももっと彩のあるものを』
と思ってしまっていたかもしれない。
そこまでじゃなくても、リーネが作ってくれた<血のプディング>がまた食べたくなってきた。だから、また罠を仕掛けてネズミやウサギくらいは採ってもいいかもしれない。
ネズミやウサギは冬眠しないみたいだから、たまには採れるんじゃないかな。
そう思って、俺はさっそく、改めて罠を仕掛けることにした。ただし今度は、またトーイが怪我をした時みたいなことはあってほしくないから、罠を仕掛けた場所を厳重に縄で囲って人間が立ち入らないように敢えて目立たせるようにする。
と、その作業をしていた時、俺は気付いた。
「これ、矢だよな……」
狩人が獲物を狙った<流れ弾>と言うか<流れ矢>が飛んでこないようにと仕掛けておいた木の板に、細い棒が突き刺さっていたんだ。
折れて鏃の部分も見当たらなかったが、たぶん間違いない。鏃の部分は再利用するために狩人が持ち帰った可能性もあるな。
ここに人家があることを知らせるための目印はいくつもつけたとは言え、それでも見落とされることだってあるだろうし、狩人によっては分かった上で敢えてギリギリまで近付いてくる奴もいるだろう。
だからこそこういう風に<用心>ってヤツは必要なんだと思う。これがなかったら、もしかしたらリーネやトーイが怪我をしていたかもしれない。そう思うとゾッとする。
失敗によって学ぶこともあるのも確かかもしれないにせよ、それは命があってこそだ。命に係わるような失敗なんかない方がいいんだよ。




