できる人間に肩代わりしてもらう
リーネやトーイとの生活そのものは、本当に安定してきた。しかも、村でレンガ造りが始まったことでレンガが手に入るようになり、そのレンガを用いて改めて暖炉を作り、ついでに冬用の風呂も作ることにした。
その構造は、要するに、
『浴槽そのものもレンガで作り、浴槽の下で火を焚いて湯を沸かしつつそれ自体を暖炉として利用する』
というものだ。
暖炉の作り方自体は、何度も手伝わされたから知っている。ただ、レンガを大量に作る手段がこれまでなかったからできなかったんだよ。
でも、村の中にレンガ工房ができたことでそれを購入すればいいだけになったからな。
そうだ。自分一人で何もかもやろうとすれば、それこそ原始人みたいな生活を続けるしかなくなる。だが、
『できる人間に肩代わりしてもらう』
ことで、いろんなことができる。この時点でもう、
『自分一人の力だけで生きてるわけじゃない』
ってのが分かるじゃねえか。自分の代わりに便利なものを作ってくれる用意してくる誰かがいるから今の暮らしができるんだって、前世の人間達は忘れてたよな。俺も忘れてた。だから、
『自分一人でも生きていける!!』
とか、今じゃ噴飯ものの思い上がりをしてたよ。お前が使ってたそのネットが見られる便利な道具、自分で作ったのかよ!?
って話だよな。今だって、美味い料理が食べられるのは、リーネとトーイのおかげじゃねえか。嫌な奴ら相手に商売して神経をすり減らして帰ってきてそれを癒してくれてんのは誰だよ? 少なくとも俺自身じゃねえ。一ミリも俺一人の力で生きてねえ。
それを思うと、村の連中だって必要なんだ。俺が気に入らないからって『死んでいい』わけじゃない。
ブルーノをはじめとした、命を落とした子供達については悼みつつも、な。
こんな気持ちになる奴が他にもいたから、徐々に改められていったんだろう。ここにいつそんな社会ができるかは分からないが、なんだかんだでそういう流れにはなっていくんだとつくづく思う。
ましてや、子供を労働力として使わなくてもいろんなことができるようになってくれば、なおさら。
はやくそうなってほしいと、レンガを積み上げながら思う。リーネとトーイも手伝ってくれてる。
モルタルも同時に手に入れたから、それを練ったり塗ったりするのを手伝ってもらってるんだ。
もちろんこれも、一日じゃ無理だから、鍛冶の仕事もこなしつつ、少しずつ進める。
「これができれば、真冬でもお風呂に入れるんですね?」
リーネが目をキラキラさせて訊いてくる。よっぽど風呂が気に入ってくれたみたいだな。
このところ、寒くて風呂に入れなかったからなあ。