すごく貪欲になってるのを
そんなこんなで<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>の絵本とペンとインクと紙とこの日の<売り上げ>を持って家に帰った俺を、
「おかえりなさい♡」
「おかえり」
リーネとトーイが迎えてくれる。
「ただいま」
応えて、俺が、
「ほら、絵本だ。あと、ペンとインクと紙もある」
言いながらそれらを出してくると、
「わあ♡」
「お~!」
二人は目を輝かせて受け取ってくれた。
「ありがとうございます!」
「ありがとう!」
クリスマスプレゼントとかでずっとほしかった玩具をもらえた子供のような喜びように、俺自身も嬉しいのと同時に面映ゆい気分にもなった。前世ではゆかりにまともにプレゼントを渡したこともない事実があるからな。
そして思う。
『前世の俺も今世の俺も同じく<俺>のはずなのに、ずいぶんと違うよな』
ってな。それはもちろん、俺が前世の自分の行いを反省したからというのもあるだろうが、同時に、
『肉体そのものは全く別人のそれ』
というのもある気がするんだ。何しろ、前世の俺は死ぬまで自分の考えを変えなかった。間違ってるのはいつだって自分以外の人間で、俺自身は常に正しいと本気で思ってた。それを疑いもしなかった。だから、女房やゆかりにも見捨てられ、会社に勤めてた時に世話してやった部下らが尋ねてもこないことに、
『恩知らずな奴らだ!』
と憤ってもいた。だが今なら分かる。今の俺が前世の俺の部下の立場なら、顔なんて見たくもないだろう。ましてや女房や娘に見捨てられた糞爺なんて、変に同情してるふりを見せたらすり寄ってくるかもしれない。そんなのはマジでごめんだ。
などと考えられるのは、肉体が前世の俺とは別だからっていうのもある気がするんだよな。そのおかげで<別の視点>を持つことができたって言うか。
人格や性格や心というのは、肉体側のフィードバックにも影響されるんだろうなって実感はある。
なんてことはまあさて置いて、俺はさっそく、二人のために絵本を読み聞かせてやった。
「むかしむかし、あるところに、とても心優しい娘がおりました。母親に作ってもらった<ウトゥレの花>のように赤い頭巾をたいそう気に入っていつも被っていたその娘は、『頭巾ちゃん』と呼ばれていました……」
トーイを膝に抱き、リーネは椅子を寄せて俺に体を預けるようにしているのを感じながら、俺は絵本を読み上げる。
二人はそれこそ、食い入るように真剣に見て、聞いていた。
新しいものを知ることに対して、すごく貪欲になってるのを感じるな。




