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不義理をしない

とまあ、俺が手にした<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>のクオリティは、取り敢えず絵の巧さと字の綺麗さではまあまあ悪くない出来だと思う。


内容自体も、俺が読めない単語以外はおおむね記憶にある通りだ。しかし、読めなきゃリーネとトーイに教えることもできねえから、


「すまん、いくつか読めないところがある。銀貨三で教えてくれ」


あくまで<代読の依頼>という形で仕事として頼んだ。ここで、


『友達だろ? タダでやってくれよ』


みたいなことを言ったら一発で嫌われる。この世界はまだまだ売り手側が強い。その商売をしてる奴できる奴が少ない業種だと特にな。他を当たろうとしてもその<他>がないんだ。


で、普通の代読の相場がだいたい銀貨三だったからそれで頼んでみる。するとエリクも、


「おう、任せとけ」


すんなりと応じてくれる。何度も言うがこうやってスムーズにいくのは、


『不義理をしない』


からだ。筋を通さねえ奴は相手にされない。前世を知る俺には少々納得のいかねえものがあっても、歯向かったって何のメリットもない。嫌われてますます生き難くなるだけなんだよ。


ちなみに、<代読>も代書屋の仕事の一つだ。『文字が書けねえ』ってのはだいたい翻って『文字が読めねえ』だからな。もちろん、書けなくても読めるってことはあるだろうが、そんなのは一部のややこしい漢字くらいだろ? ここには漢字はない。その分、文字を覚えるのは覚えやすい。それでも書けない文字は読めもしない。


手紙を代書屋に代筆してもらって送っても、受け取った方も代書屋に読んでもらわねえと読めなかったりするんだよ。


そうして、読めねえ部分を教えてもらう。実は九割方読めるんだが、ちょっと曖昧な分もついでに教えてもらった。まあ、このくらいは<知恵>ってことだな。


すると、まったく意味が分からないという意味で『読めない』単語は、ま、<気取った詩的な表現>ってやつだった。例えば、頭巾ちゃんの被ってる頭巾についての描写で、


『母親に作ってもらった<ウトゥレの花>のように赤い頭巾』


てのがあったんだが、その『<ウトゥレの花>のように赤い』ってのが付け足された部分だった。これは、俺の記憶にあるものにはなかった表記だ。なるほど、これがさらに写本されることで<赤い頭巾>ってのが受け継がれていくわけか。


俺が知ってるヤツには『お母さんに作ってもらった頭巾』としか書かれてなかったからただの<頭巾ちゃん>だったものが<赤ずきんちゃん>になった瞬間ってことだな。



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