それは楽しみです♡
マジで、
『厳しい環境を生き延びた奴が優秀で有能』
だったんなら、過酷な家庭環境を生き延びた奴はそれこそ優秀で有能じゃなきゃおかしいだろうが。
でもそんな奴は、俺が勤めてた企業に就職もできなかったぞ? そもそも俺が勤めてた企業の人事は、独自の基準を作ってそれにそぐわない大学の学生は書類の段階で落としてたらしいしな。
分かるか? 厳しい環境を生き延びた奴が優秀で有能だってんなら、なんで上澄み部分の大学に入れない? もうその時点で、
『厳しい環境を生き延びた奴が優秀で有能。なんてのは嘘』
って話だろ?
だから俺はそんな嘘は信じないってだけなんだよ。
そうしてまた日々は過ぎ、
「よう。待たせたな」
俺が品物を納品するために村に下りると、広場でエリクが声を掛けてきた。
「ご注文の絵本だ」
そう言って彼が見せてくれたのは……
『頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵じゃねーか!』
と俺が心の中で叫んでしまったとおり、<頭巾ちゃんとキ〇ガイ伯爵>と書かれた表紙の本だった。
マジか~……!
まあ、他の絵本でも内容的には陰惨なのは間違いないだろうからな。別にいいか。
だが問題は、俺がそもそも読めるかどうかだ。
「助かる。しばらく村に留まるのか?」
「ああ。明後日まではいるつもりだ」
「なら、金は明日持ってくる」
「分かった。本はその時に渡すのでいいな?」
「もちろんだ」
銀貨三百枚という高額取引で<後払い>なんて気の利いた仕組みはここにはねえ。あくまで現金と交換だ。エリク自身、金を払って絵本を譲り受けてるだろう。その仕入れ値がいくらかは知らないが、手間賃や輸送費も込みだからな。値切るつもりもねえ。銀貨三百で買うと言ったんだから銀貨三百だ。
明日まで待ってもらえるだけ上等だよ。
ただし、このエリクの余裕っぷりを見ると、もし俺がドタキャンしても他に当てがあるんだろうな。こいつも決してお人よしじゃない。
こっちが不義理をしてないから合わせてくれてるだけだってのは分かってる。
そして俺は、納品を終え、また少々の現金と小麦や野菜を手に入れ、家に帰った。
家に準備してあった銀貨三百枚の入った袋は明日持っていく品物と一緒に用意しておく。
それに気付いたリーネが、
「もしかして、絵本が届いたんですか?」
嬉しそうに問い掛けてきた。
「おお。明日、金と交換でもらってくる。そしたらもっとたくさんの言葉と文字を覚えられるぞ」
「それは楽しみです♡」
なんてやり取りをしたら、それこそ<フラグ>になりそうだが、少なくともこっちにそんなことは起こらないように注意を払う。
くだらない不注意で何かあったら、それこそ悔やんでも悔やみきれないからな。




