安全に湯を注げること
とにかく仕事をこなしながら、<湯沸かし器>の制作も行う。元々作ってあった<でかい鍋>を据え付けるための、
<足とハンドルのついた枠>
が出来上がる。それを風呂の脇の竈に設置して、でかい鍋と合体。
……と思ったら、枠が大きすぎて鍋が引っ掛からない!
ダメじゃねーか!!
仕方ないので鍋の方を叩いて変形させて、引っ掛かりを作った。そうして引っ掛けて、さらに枠の方も叩いて変形させ、鍋に密着させる。これで、少々殴ろうが蹴ろうが、人間の力じゃびくともしないようになった。
で、まずは試してみる。水を張って、竈に火を入れて、湯が沸くまでは他の品物を作って。
「湯が沸きました」
他の普通の鍋で湯を沸かしながらでかい鍋を見ててくれたリーネが教えてくれたから、
「おう、ありがとう」
応えつつ風呂まで行くと、グラグラと湯が煮立ってる鍋の様子が。
俺はその後ろに回り、ハンドルを握る。鉄のハンドルだが、持ち手の部分は火からは十分に離れてて熱くはない。でも、念のために持つ時には革手袋を使った方がいいだろうなと思いつつ、ぐいっとハンドルを持ち上げて鍋を風呂の方へと傾けると、ざあ!と湯が浴槽へと流れ込んだ。
「よし、成功だ!」
とは思ったんだが、傾く角度が足りなくて、湯の四分の一ほどが鍋に残ってしまう。
……これだから素人設計は……
などと自嘲しつつも、大事なのは、
『安全に湯を注げること』
だから、その面では確実に進歩したと割り切る。試しに、再度湯を沸かしてリーネとトーイにも試してもらったら、
「あはは、らくちんですね♡」
「うん……!」
二人とも笑顔で楽々湯を注ぐことができた。俺とリーネとトーイがやった三回と、普通の鍋で沸かした分とでしっかりと風呂が沸き、そのまま入った。
「これでリーネやトーイに完全に任せることができるな」
「そしたらトニーさんはもっとお仕事ができますね」
「うん……!」
リーネはホッとした様子で、トーイはなんだか自慢げな様子で。
子供にやらせることを自慢しなきゃならないのも情けないが。このくらいなら、
<家のお手伝い>
と言えなくもないかなと自分に言い聞かせる。二人が読み書き算術の勉強をする時間は作れてるし、たぶん、大丈夫だと思うんだ。
それに、もっと寒くなってくると、さすがに屋外の風呂だとそうそう気軽には入れなくなりそうだしな。竈に火を入れながらそれで暖を取りながら入るにしたって、ちと辛そうだし。
ま、そういうこともあるさ。
なんて考えてたら、秋も深まってきたある日、
「ん? あれは……!」
注文の品を届けるために麓の村に下りた俺の目に、一台の屋台の姿が止まったのだった。




