動物除けの罠を仕掛ける時には
あと、柵の外側には、木の枝をしならせて固定。仕掛けに触れたらその木の枝にバシッとはたかれるという罠を仕掛けておいた。これは、動物を捕えるためのじゃなく、イノシシやクマといった獣を追い払うための仕掛けだ。
この辺りはクマは滅多にいないが、現れたら厄介だからな。敢えて人間の気配をさせて単にちょっと痛い思いをしてビックリするだけの鬱陶しい罠も仕掛けておいて、しかもそこに罠があると人間が見たらすぐに分かるように白い布も吊るしておいた。
動物除けの罠を仕掛ける時にはそうするようにって習慣があるんだ。そうやってちゃんと分かるようにしていてそれでも引っ掛かるような奴は<ただの間抜け>ってことで言いがかりを付けさせなくできる。
「前の罠ほどは危なくないが、それでも気を付けろよ」
リーネはもとより、トーイには特に念入りに告げておく。彼も、以前のそれで懲りてるからちゃんと聞き分けてくれた。
それに、家から何十メートルも離れたところの柵の外だしな。柵から外には出ないようにも言い聞かせてある。
子供は、特に男の子は好奇心旺盛で危険を省みないって印象があるが、トーイについてはそこまでじゃない印象だ。これは、村人同士の衝突でほとんどが死に、自分の母親も目の前で死んでいったのを見てしまったことで、自分の殻に閉じこもってしまったってのが大きく影響してると思う。
そんなトーイでも、鳥を捕まえることで自分も役に立とうと夢中になってしまって罠に手を突っ込んでしまったりすることもあるんだから、注意は怠っちゃいけないだろ。
実際、麓の村でも、勝手に森に入った子供が、猟師の仕掛けた罠に掛かって死んだという話があった。そしてそれは、
『間抜けな子供の方が悪い』
として唾棄されるような話だった。まあ精々、罠を仕掛けた猟師から見舞いとして獲物の一匹も寄越してもらえることもあるという程度の話だ。親としてもせっかくの家畜を失うのは痛いものの、
『まあ、また作ればいいか』
とすぐに気持ちを切り替えるのが当たり前だった。
こんな世界でも人間は生きて、子供を作る。それを思えば前世の世界だとか、<ぬるま湯>もいいところだな。そんなんで文句ばかり言ってる奴らなんざ、ここじゃそれこそすぐ死ぬだろう。
『ごちゃごちゃ煩えよ!!』
とかキレられて殺されるのがオチだ。
『てめえは生きてんだろ!? じゃあ死なねえようにしろ!! 文句があるならとっとと死ね!!』
とか言ってもらえたらまだマシな方だろうさ。下手すりゃ一言もなくいきなり殺されることだってあると思う。
だが俺は、リーネやトーイが愚痴をこぼしても、キレたりしないでおこうと思ってるんだ。