避難場所くらいには
そうして外が暗くなり始めた頃、俺も、新しい部屋の床を半分ほど張って、そこで今日のところは終わりにしておいた。地面に、風呂を作るために穴を掘った時に大量に出てきた石の残りを敷いて、そこに横木を渡して、さらにその上から板を打ち付けていくって形でな。なるべくがたつかないように石の向きを調節したり軽く地面を掘って石を埋めて高さを合わせたりしたことで、少々時間が掛かってしまったが。
でも、そのおかげで、取り敢えずさらに部屋っぽくはなったな。
後は椅子でも置いとけば、俺が鍛冶の仕事をしてる間の避難場所くらいにはなるだろう。
まだ少し雨漏りはしてるが。
で、鍛冶屋としての作業場がある<母屋>に戻ると、
「お疲れ様です♡」
リーネが笑顔で迎えてくれて、テーブルの上には、パンと具だくさんの肉スープが並べられていた。
『ああ、これがあたたかい家庭ってやつだよな……』
改めてそう思う。前世の俺にはほとんど縁がなかったものだ。女房も最初の内は、リサもやっぱり最初の内は、一応は用意もしてくれてたが、そこに笑顔があったのは本当に最初だけだったよ。
俺がいちいち食事にケチをつけたりしてたから、すぐに笑顔も消え失せ、しまいにはそれこそレトルトのおかずを温めただけみたいな食事になってたな。
しかも俺はそれにさえ文句をつけてて。
今、リーネが頑張って作ってくれたものにケチをつけたいと思うか? 別に完璧でなくても十分に美味いしリーネが俺のために作ってこれたもんだぞ? 感謝こそすれケチをつける理由なんてないだろ。
本当は、女房の時やリサの時もそうだったはずなんだよな。最初は俺のためにちゃんと作ってくれてた。決して食えないようなひどいものじゃなかった。なのに俺は感謝もせず労いもせず、味が濃いだの薄いだのいちいちケチをつけるばっかりで……そうするのが当たり前だと思ってた。
自分以外の誰かが自分のためにしてくれることに、何一つ『当たり前』なんてものはないはずなのにな。
俺だって、仕事して金稼ぐことを『当たり前だろ!』とか偉そうに言われたらムカついてたじゃねえか。それと同じだってなんで分からない?
はあ~、もう、凹むぜ……
だが、過去を悔やんでるだけじゃなんにも始まらん。過去には戻れないんだ。前世の人生そのものをやり直すことはできない。俺が経験したのは<タイムリープ>じゃない。完全な別人に生まれ変わる<転生>だ。
だからこそ、今の人生を悔いなく生きなきゃな。
「リーネ、トーイ。本当にありがとう……」