俺自身へのブーメラン
そうしてオバサンに鍋を渡した後、さらに村に入っていくと、今度はいかめしそうな顔をした中年男が、
「くそっ! なんでだよ!!」
とかイラついてた。見ると、男が手にしているいかにも使い込まれた鋤が割れている。金属疲労で劣化してたのが限界を迎えたんだろうな。
「鋤、要りますか?」
俺が新しいのを手にしながら声を掛けると、
「おお! 助かった! それをくれ! 金なら払う!」
まさしく『地獄に仏』と言いただけな表情で中年男は声を上げた。
「ちょっと待ってろ!」
言いつつ家に入って、
「おい! 金はどこだ!?」
「なにあんた!? なんに使う気!?」
「バカヤロウ! 道具が壊れたんだよ! ちょうど行商人が来てるから今買っとかねえと仕事ができねえ!」
とか何とか、女房らしい相手と言い合ってた。懐かしいな、この感じ。互いをこれっぽっちも敬ってねえのに打算だけで一緒に暮らしてる感。
フィクションじゃ、『こんな調子でも本当は』なんてのもよくあるパターンだろうが、実際の人間関係じゃそうじゃねえのが多い。見たまんまってのがよ。だから熟年離婚とかも多かったんだろ? 旦那が定年迎えてずっと家にいるのが耐えられねえとかな。
お互いに敬ってるのならそうはならんだろ。
だが、他所様の家庭がどうとかは、俺には関係ない。売れりゃそれでいいんだ。
で、一通り言い合いして、
「死ね! ババア!!」
とか悪態を吐きながら中年男が出てきて、
「待たせたな、これで頼む!」
って小袋に入った金らしきものを差し出してきた。俺はその中身をちらっとだけ確認し、
『銅貨三百枚ってところか……』
と判断して、
「その壊れた鋤とも合わせて交換で」
申し出た。
「おう! もちろんだ!」
中年男はホッとした様子で口にして、割れたのも差し出してくる。
「まいどあり」
言いながら鋤を渡すと、
「ありがてえ! これで仕事ができる!!」
嬉しそうに笑顔になった。まっとうに仕事をやろうって姿勢があるだけ立派じゃないか。これでもうちょっと女房を労わろうって態度がありゃ、穏やかにも生きられるんだろうが、『類は友を呼ぶ』とも言うしな。ロクでもないのを呼び寄せるのは自分がそういうタイプだからってのを自覚した方がいいと思うね。
俺自身の経験からの実感だ。
まあでも、こいつらも、周りにゃ自分らと同じようなのがほとんどだから、それをおかしいとは思わないんだろう。そうやっていつもイライラしてて何が楽しいのかなとは思うものの、完全に前世の俺自身へのブーメランではある。




