<稼ぎ>がなけりゃ
俺が受け取った野菜のカゴを荷車の上で傾けて野菜を移し替えようとしてると、
「ああ、いや、カゴごと持ってってくれたらいい。その代わり、そこの調理ナイフも一本、貰えないか? 今あるヤツがもう古くて」
と若い男が言ってきたから、
「ああ、もちろん。古いナイフをもらえたら助かる」
野菜の詰まったカゴを置き、包丁(調理ナイフ)を手渡しながら言う。すると、
「あんた、うちにもナイフをおくれ!」
声を掛けられて振り向いたら、いかにも恰幅のいい<オバサン>が、持ち手の部分からすると明らかにアンバランスな小さな刃のナイフを持って立っていた。
俺が若い男とやり取りしてるのを見て、ナイフとかを売りに来たんだと察したんだろう。
「はいはい、どうぞ」
古いナイフを受け取りつつ、俺は新しい調理ナイフを手渡した。もちろん、持ち手を相手に向けてな。
「あたしが旦那と一緒んなったときに用意したナイフなんだけどさ、さすがにもう使い難くてね」
「それはそれは。大事に使われたんですね。このナイフもさぞかし本望でしょう」
切れ味が悪くなったら自分で研いで、研いで、研いで、二十年三十年と使ってきたんだろうな。正直、これじゃ渡したナイフと釣り合わねえが、それについては、
「これも持ってっておくれ! 今度は鍋も持ってきてくれると嬉しいね」
足元に置いてあった袋に入った根菜を渡してくれた。
「まいどあり。じゃあ今度持ってきますよ」
「頼んだよ!」
言いながらオバサンは急ぎ足で、向かいの家に入っていった。料理中だったんだろうな。
で、改めて若い男の方を見ると、こちらは先の方がポッキリと欠けた包丁だった。なるほどこれは使い勝手も悪いだろう。
「まいどあり」
こうして思った以上の売り上げがあったことで、俺はそれ以上は長居することなく、村を後にした。あんまり一度に野菜とかをもらっても、腐らせちまうからな。
で、家に戻ると、
「おかえりなさい、トニーさん!」
「……」
リーネとトーイが俺を出迎えてくれた。それがまたホッとする。こんな風に笑顔で、トーイはそこまでじゃないが…出迎えてくれたら、気分いいよな。
そして、<稼ぎ>としての野菜を荷車から下ろすと、
「すごい! 今夜はごちそうですね!」
「わあ……!」
今度はトーイも驚いたような表情をして、感心してくれた。もしかしたら俺のやってることが<仕事>なんだとようやく実感してくれたのかもしれない。<稼ぎ>がなけりゃ、それは<趣味>と同じだもんな。