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いい品物があるんだが

そうして何とか穏やかな暮らしを取り戻し、さらには、


「ふん……どうやらそれなりに村っぽくなってきたみたいだな……」


麓の村の様子がかろうじて確認できる場所から見下ろして、俺はそう判断した。だから、家に戻って、


「そんなわけで、村に品物を売り込み行こうと思う。念のため二人には家で待っててほしい。どんな奴らがいるか分からないしな」


と告げた。そんな俺に、リーネは、


「大丈夫ですか……?」


心配気にそう言う。


「ああ。見たところ普通にしてるみたいだ。なに。ヤバそうならとっとと逃げ帰ってくるよ。で、俺が留守の間、リーネを守ってくれよ、トーイ」


「……」


まだ俺に対してはほとんど口をきいてくれないものの、少し大きくなった印象のあるトーイは、しっかりと頷いてくれた。俺のことはともかく、リーネを慕ってくれてるのなら大丈夫だ。


そして俺は、ここまで作りためたプラウや(スペイド)や鎌や包丁の一部を荷車に積んで、下っていった。


するとそこには、ちゃんと<村>があった。あの時の<地獄絵図>などもはや微塵も感じられない。死体は綺麗に片付けられ、一部壊れたままの建物も見られるものの、新しく建て直し中の家がいくつも見られる、


<人が暮らしている集落>


の姿になっていたんだ。死体はどうせ、どっかに穴でも掘ってまとめて埋めたかしたんだろう。死臭ももうない。


だから俺は、近くを通りがかったちょうど今の俺と同じ歳くらいの若い奴に、


「プラウや(スペイド)を必要としてるヤツを知らないか? いい品物があるんだが」


と話し掛ける。するとそいつは、


「本当か!? ちょうどいい! 壊れちまって困ってたんだ!」


それこそ『地獄に仏』とばかりに明るい表情になって言った。


「なら、壊れたヤツと、少しばかりの野菜とで交換でどうだ?」


物々交換を持ちかける。


「ああ、それでいい! 頼む、こっちだ!」


若い男は俺を自分の家に案内した。そこには男の女房らしい女と、子供の姿。


言葉が通じるから、そんなに遠くから来た奴らじゃないだろう。同じように戦争から逃れてきたのがたまたまここに辿り着いたのかもしれない。だがその辺については詮索しない。こうして落ち着くまでの間にそれこそ、


『お天道様に顔向けできない』


ようなこともしてきたかもしれないしな。下手に突いて蛇を出すような真似をする必要もないだろう。


そうして男は、綺麗に真っ二つに折れたプラウと、刃がすり減った鎌を出してきた。


「元々古くなってたんだが、でかい石にぶち当たってポッキリとな。何とか縄でガッチガチに縛って騙し騙し使ってたんだが、さすがに無理があってよ。あんた鍛冶屋か?」


「ああ、そうだ。ここには鍛冶屋はいないのか?」


俺のその問い掛けに、男は、


「そうなんだよ。この村はまだできたばっかりでな。鍛冶屋はまだいねえ。半日歩いた隣の村まで行かないと駄目だったんだ」


とボヤいたのだった。



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