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ぎゃーっっ!!

トーイの右手首に食い込んだ蔓をほどこうとするが、さすがに痛みがあるらしく、


「あーっ!!」


悲鳴を上げて暴れる。だが、これを外さないことには話にならない。だから、


「リーネ! トーイを押さえ付けておいてくれ!」


俺が命じると、


「は…! はい……っ!」


リーネもオロオロとしながらもトーイの体を押さえ付けてくれた。可哀想にも思えるが、すぐに外さないと血がいきわたらなくてヘタすりゃ壊死する。痛いだろうがここはこらえてくれ!


祈るように俺もそう考えつつ、暴れるトーイの右手を押さえ付けて蔓をほどいていった。罠に掛かった動物達も、こういう思いをしたんだと感じる。だからこそ、命をいただくというのは軽く考えちゃ駄目なんだと実感する。


そうして何とか右手首に食い込んだ蔓を外したものの、強く食い込んだ上に全体重が掛かったことで肉が抉れてしまっていた。幸い、動脈までは損傷しなかったらしくて出血はそれほどでもなかったものの、見た目にもエグい。


「ああああああああ……!!」


トーイは悲鳴を上げながら泣いていた。だがまだだ、すまんが、まだ耐えてもらうぞ。


俺は瓶に溜められてた水を鍋で汲んで、トーイの右手首の傷に掛けて手でこすった。瞬間、


「ぎゃーっっ!!」


トーイが絶叫を上げる。そりゃそうだ。傷口をぐりぐりと抉るようなことをしたんだからな。でも、こうやって傷口を洗わないと、破傷風の危険性があるんだよ! 実際、怪我をしてそれを洗わずに放っておいた奴が、傷口が壊死した上に体が硬直し、それこそ全身の筋肉が同時に『つった』状態になってさらにあまりの苦痛に正気を失ってもがき苦しみながら死んでいったのを見たことがある。


たぶんあれが、破傷風ってやつだったんだろう。


正直、薬の類が手に入らないここじゃ、とにかく傷口を清潔にして菌の侵入を防ぐしかまともな対策法がない。だから傷口に着いた汚れや菌を洗い流すしかないんだ……!


もちろん、トーイに苦痛なんて与えたくない。トーイの悲鳴が俺の胸にも突き刺さる。だが同時に、これを躊躇なく行えないならそれは<優しさ>なんかじゃないと思う。ただの優柔不断だ。それができてしまう自分の残忍さにむしろ感謝する。


もっとも、そもそもこの対処が本当に正しいのか俺には分からない。『こうすればいい』と聞いたからそうしてるだけだ。それでも、他に手立てがないなら実行するしかないけどな。


そうして、トーイにとってはきっと無限にも等しい時間が流れて、傷口は、パッと見には綺麗になった。そうしてなるべく綺麗な布を巻き付けて守る。同時に、


「この布を、鍋に入れて煮てくれ」


リーネに頼んだ。交換用の包帯代わりにするために、煮沸消毒してもらうんだ。



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