彼女に責任を負わせることがないように
朝食が終わると、リーネとトーイには、薪集めに出てもらった。薪を集めるためのカゴは元々この家にあったし、それを使ってもらう。
基本的には落ちている枯枝を拾ってきてもらう形だが、適当な大きさに整えてもらうのに必要だと思って、鉈も持って行ってもらった。でも、その前に、
「トーイ、鉈はリーネだけが使う。お前はまだリーネが使っているのを見ておくだけでいい。分かったな。これは命令だ」
「……」
トーイに釘をさしておく。加えてリーネにも、
「リーネも、いくらトーイが触りたがっても俺が許可を出すまでは触らせちゃダメだ。いいね?」
「はい…!」
背筋をピンと伸ばして、緊張した様子で応えてくれる。これは、リーネに判断させないためのものでもある。<判断>には責任が伴う。責任を負わない判断なんてのは子供のすることだ。こうやって釘をさしておくことで、リーネが危険な判断をしないで済むようにするんだ。もし、リーネが危険な判断をして万が一のことがあって彼女に責任を負わせることがないようにな。
そして、トーイにねだられても、
『トニーさんがダメって言ってたでしょ?』
と言えるように、後ろ盾になるためのものでもある。命令には根拠も必要だしな。
こうして二人を送り出し、俺はまた仕事に戻る。
そして鎌の刃の部分がだいたい出来上がった頃、
「ただいま戻りました」
「……」
リーネとトーイが帰ってきてくれた。正直、鉄を打ちながらも、二人に何か良くないことが起こらないか、トーイが鉈を勝手に使って取り返しのつかない大怪我とかしないか、心配してたりもしたんだよな。
なんかよ、よくないことを匂わせるようなことをしたら『フラグが立った』みてえなこと言うじゃねえか。実際にはそんなこと頻繁に起こりゃしねえんだけど、それでも不安はある。だから逆に、よくないことを考えまくんのはどうかなって思ってよ。
フラグをひたすら立てまくって陳腐化させんだよ。
まあ現実でそんなことして何の役に立つんだ? って話ではあるけどよ。でも、そうしてよくないことをいろいろ考えてたところに無事に帰ってきてくれたらそれだけで嬉しいじゃねえか。無事であるだけで幸せだって感じられるじゃねえか。
そして、
「どうだった? トーイは?」
リーネに尋ねると、
「はい、すごくいい子でしたよ。わがままも言いませんでしたし」
とのことだったので、
「そうか。偉かったな。トーイ」
彼の頭を撫でながら労う。こういう些細な普段の振る舞いが大事なんだって、今ではすごく思うんだよな。