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大人にとって都合のいい子

ところで、今日はまだ十分に水か残ってるので、せっかくだから風呂を沸かすことにする。竈に火を熾してもらって、湯を沸かしてもらった。


ただし、


「<でかい鍋>については危ないから、リーネもトーイも触らないように。分かったな?」


と念を指しておく。


「はい…!」


リーネはそうしっかりと返事をしてくれていたが、トーイの方は果たしてどの程度分かっているのか。リーネのことを手伝おうとしてくれるのは非常にありがたい。<大人にとって都合のいい子>だと思う。だが……


俺はこの時、なぜか予感めいたものがあって、作業が一段落ついたところで家の外の様子を窺った。するとトーイが、リーネが他の鍋に気を取られていたところであの大きな鍋に手を伸ばそうとしていたんだ。


『やめろ!!』


ついそう怒鳴ってしまいそうになった俺だったがそれをかろうじて飲み込んで、


「トーイ……!」


敢えて抑えたトーンで彼の名を呼んだ。すると、


「!?」


トーイの体がビクッと跳ねて、怯えた表情で俺に振り返った。そんな彼に対して俺は、


「リーネの手伝いをしようとしてくれたのか……?」


とにかく感情を抑えて静かに問い掛ける。そんな俺に、


「……」


やはり怯えた様子でトーイは頷いた。それに気付いたリーネが、


「ごめんなさい…! 私がちゃんと見てなかったから……! 本当にごめんなさい……!」


自分のことのように詫びてくる。俺がトーイをぶん殴ると思ってしまったのかもしれない。けれど俺は、


「ああ、うん。そうだな。今度から気を付けてくれ。でも、怒ってるわけじゃないんだ。リーネやトーイの力じゃ上手く扱えないから俺に任せてくれればいいと言ってるんだ。怪我をしたら元も子もないからな。


トーイ……リーネを手伝おうとしてくれる気持ちは嬉しい。それは大事なことだ。でも、だからって大怪我したらリーネが悲しむだろ? これは大人の仕事なんだ。トーイはトーイにできる仕事をしてくれたらいい。トーイが今のリーネよりも大きくなったらこの仕事を任せてもいいかもしれない。だけど今は俺に任せておいてくれ。これは命令だ」


『怒ってるわけじゃない』というのは実は少なからず事実じゃなくて、正直、頭に血が上りそうになってたのはホントのところなんだが、ここで俺がただ自分の感情を爆発させるだけの姿を見せてちゃ、手本にならないと強く思った。だから敢えて抑えて、淡々と必要なことだけを諭すように心掛けたんだ。


これは、俺自身にとっても<試練>になったと思う。


<親>ってのは、<親になるための具体的な勉強>なんてすることなく、子供ができたら親ってことにされるよな。つまり親は、親になってから親としての在り方を勉強することになるんだ。


それを改めて実感したよ。



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