百年も人生経験積んでその程度か!?
こうして改めて一歩一歩、リーネとトーイからの信頼を勝ち得るための日々が始まった。それを『面倒臭い!』とキレる奴もいるだろうが、俺はそんな奴は信頼しない。それを『面倒臭い!』とキレる奴は、自分が楽をしたいだけだからだ。自分は努力せず周りの人間の努力を当てにして自分だけがいい目を見たいからだ。
前世の俺がまさにそれだ。
前世で八十年も生きてきて、今世でもすでに二十年生きてきて、それで前世の自分と同じとか、それこそ、
『百年も人生経験積んでその程度か!?』
って話だろう? 『説教臭い』? 上等だ。そんなことホザく奴のために俺は生きてるんじゃねえ。他人の言葉に耳を貸さず自分の考えだけでご立派な人生を送れるんなら勝手にそうしとけ。俺にゃどうでもいい話だ。
翌朝、今日は残った小麦を回収しに行こうと思う。
が……
「ちっ……やっぱり来やがったか……」
かろうじて麓の村が見えるところまで来た時、村の中を何人かが動いてるのが見えた。明らかに何かを漁ってる動きだ。<火事場泥棒>だな。
ここで俺達まで出向いたら奪い合いになってリーネとトーイにも危険が及ぶかもしれねえ。そんなことは俺は望んでない。
だったら、取り敢えずまあまあ確保できたんだから今は無理せず撤退だ。欲をかけばロクなことにならない。
それに、いずれ麓の村に居付く奴らが現れて、また新たな集落として機能し始めるかもしれねえ。そうなれば<商売>だってできるようになるだろう。人間って奴はしぶといからな。ゴキブリ並みに。
とは言え、商売相手としてまっとうに関われるのは向こうにも余裕ができてからだ。火事場泥棒なんてことをやってる時は、後ろめたさも手伝って攻撃的になるしな。俺だってそうしてる時に他の奴らと鉢合わせたら、
『殺られる前に殺れ!』
ってな感じになってた可能性は高い。だからこそ今はトンズラする。
帰りについでに水も汲んでいったから、戻ったらおとなしく鍛冶の仕事でもするさ。
こうして家に戻り、俺は取り敢えず<犂>と呼ばれる農具を作り始めた。畑を作るにゃ欠かせない道具だ。頻繁に使うしその所為で消耗も激しいから作れば必ず売れる。鍛冶屋にとっちゃ、犂や鋤や鎌は作らなきゃいけねえ売れ筋商品なんだ。
農耕が発達するにあたって、その辺りの農具の発明は大きかっただろうな。そしてそれを作れる鍛冶屋は、今のこの世界じゃ食いっぱぐれのねえ仕事なんだ。ただし、それなりのものが作れることが大前提ではある。
ヘボいもの作ってりゃたちまち噂は広まって相手にもされなくなるんだ。




