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さっさとズラかるぞ

その倉庫には、燃え残った小麦の袋が結構残っていた。だから取り敢えず、十キロくらいの袋を十五、運び出して荷車に乗せる。


倉庫にはまだ十数袋は無事なのが残っていたが、これ以上積むと坂を上れなくなる可能性がある。綺麗に舗装された道ならまだしも、未舗装のあれを上るのは厳しいと思う。


それに、ここに長居する気にもなれない。


「よし、さっさとズラかるぞ」


「はい…!」


リーネも大きく頷いた。彼女も早く立ち去りたかったんだろう。引き際はわきまえたい。


だが、坂を上り始めて半分も行かないところで、


「くそっ! ダメか?」


俺が引っ張ってリーネが後ろから押してくれても段差が乗り越えられなかった。するとトーイも、


「ん…!」


とリーネに手を差し出して、


「降りるの?」


そう訊いた彼女に頷いて下ろしてもらうと、リーネの真似をして荷車を押し始めた。あくまで彼女の手伝いをしたいということで俺のためじゃなくても、今はその気持ちだけでもうれしい。


が、根性論や<いい話>ではどうにもならないことは世の中にはある。


「仕方ない。いくつか小麦を下ろして、後で取りに来よう」


手持ちの道具じゃ段差そのものをなくすにも時間が掛かりそうだったので、小麦の袋を残す方を選んだ。


幸い、五袋下ろしただけで段差が越えられて、先を進むことができた。段差を超えたところで再度積むことも考えたが、この先も道は悪い。しかも、途中で水も汲まないといけない。なのでまずは十袋を確実に家まで持ち帰るのを優先する。


それから残した五袋を取りに戻り、明日以降も可能なら倉庫に残った分も取りに来よう。


日が傾き始めた頃には家に戻れて小麦の袋を下ろし、すぐに置いてきた分を取りに戻る。


「よし、行くぞ!」


かなり日が暮れてきた中で五袋を積んで急いで坂を上る。完全に日が暮れてしまうと荷車を曳いて上るのはかなり危険だ。道が見えなくなったらそれこそ荷車ごと残して自分達だけで家に帰ることを考えた方がいいだろう。


しかしこれも、すっかく暗くなったところでぎりぎり家に辿り着けた。


もっとも、かなり急いだから、くたくただ。


トーイも、上る時には一緒に押してくれた。大した力にはなっていないのは確かでも、彼が荷車から降りて軽くなった分は楽になってるのは確かだから、ありがたい。


だから俺は、


「ありがとう、トーイ! 立派だったぞ。ママもきっと褒めてくれてる」


彼の前に膝を着いて目線を合わせて、そう言った。『ママもきっと褒めてくれてる』なんてのは本当にただの詭弁だが、まあ、気分の問題だ。するとトーイも、


「……」


黙ったままだが、月の光がわずかに差し込んでくるだけの暗闇の中で頭を下げてくれたのだった。



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