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すべての恵みに深き感謝を…

うなされているトーイに声を掛けた時、俺は極力、穏やかな優しい声になるようにした。彼を恫喝した時の声と同じじゃマズいと思ったからだ。それが功を奏したのかどうかは分からないにせよ、落ち着いてくれたのは確かだ。


そうしてトーイが起きるまでの間にリーネは朝食の用意をし、俺は麓の集落へ向かう用意をする。水については、桶を持って行って帰りに水場に寄ればいいだろう。


家の外で、荷車の点検をする。途中で故障されたら目も当てられないしな。すると、縄で縛ってある部分が一部緩んでいるのが分かって、改めて蔦を使って縛り直した。


車軸とかも念入りに調べる。


そうしているうちに、リーネが、


「用意できました。あと、トーイも起きてきました」


ドアを開けて声を掛けてくれた。でも、笑顔を作ってはいるものの、やはりぎこちない。完全に、


<相手が機嫌を損ねないようにと作った笑顔>


だった。一昨日までの彼女の笑顔じゃなかった。


とは言え、今さら悔やんでも過去はなかったことにはならない。だからここから新たに信頼を勝ち得ていくしかないんだ。


「おう。分かった」


俺も笑顔を作るが、こっちもぎこちない笑顔になってしまったのが自分でも分かる。マジで一昨日までの関係が恋しい。当たり前にあったものが失われることの痛みを感じる。


家に入ると、


「!」


トーイが俺を見てビクッと体を竦ませるのが察せられた。こっちも先は長いな……


が、嘆いていても始まらん。席に着き、


「すべての恵みに深き感謝を…」


一応、建前としてここの連中がよくやる祈りを俺とリーネが捧げると、トーイも慌てて手を組んだ。やたら長ったらしい祈りの言葉もあったりするらしいが、ここのそれは、『いただきます』とそんなに変わりないからありがたい。


実はリーネと二人だけの時にもやってたんだ。それこそ『いただきます』という程度の気軽さで。でも今は、改めて意識してそれを口にした。俺としては、


『リーネが最後のチャンスをくれたことに感謝』


って気持ちも込めてのものだった。


朝からまた血のプディングとウサギ肉のスープといういつものではあるものの、文句は言わない。前世の俺は、こう何度も同じメニューが出てくると、


「手抜きすんな! 旦那が仕事で疲れて帰ってきたってのに、お前はそれを労うこともできないのか!?」


って怒鳴ってたな。実際に何度もそう怒鳴った。俺は女房のことを労ったことなんてなかったのに、我ながらよくまあそんなことを言えたもんだと思う。


情けない。



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