死者を悼む
体を洗ってやった男の子に、すでに見付けてあった布を掛けてリーネに任せ、俺は、男の子が埋もれていた家の瓦礫をさらにどけて、鍋二つと何着かの服とを引っ張り出してきた。
それを、古びた荷車に積み込んでいく。それからようやく、
「リーネ、その子を連れてきてやってくれ……」
沈んだ表情で男の子と一緒に待っていた彼女に声を掛けて、男の子の母親の近くまで行き、
「母親が、迷わず天国に行けるように祈ってやれ……」
そう声を掛けて、三人で祈った。
こんな世界にも、<天国>という意味の単語はあった。前世で聞いた<天国>っていう意味の単語とは少々違っていたが、まあ、方言とかそういう感じなんだろう。
そして祈りを終えて、
「さっきは怒鳴って済まなかったな……でも、仕方ないんだ……今はな……」
俺は、男の子の方は見ないまま。母親の体に布を掛けて、その上でまた、祈った。
こうやって死者を悼むことも、たぶん、合理的な意味はないと思う。だが、同時に、悼むことで自分の中で区切りが付けられることもあるというのは、学んだ。
そのくせ、日用品を得るために<火事場泥棒>をしているんだからとんでもない欺瞞だと言えばその通りだと俺も思う。言い訳のしようもない。
だが、これ自体がこの世界の<常識>なんだ。自分達が住んでるのとは別の村が戦場になったと聞けば、それこそ村人総出で火事場泥棒に向かうなんてことも珍しくもない。俺も、それに付き合わされたこともある。
<平和で便利な世界>
とは、根本的に違うんだよ。
ただ今回は、この辺りの集落の連中が避難民として集まってた集落が襲われたようで、俺達以外には誰もいなかった。
そして。
『結局、殺しそびれたな……』
俺の両親の死体も、見付けてしまった……
愛情なんて欠片も感じねえ、憎いだけの両親だったが、こうやって死んじまったら、なんか虚しさしか感じないな。こんな死に方をするために生まれてきたのか? こいつらは……
墓を作るでもなくそのまま放置だが、一応は、祈りだけは捧げてやった。そんな俺の真似をして、リーネも祈りを捧げてくれた。
『これでも、家族の誰にも看取ってもらえなかった前世の俺に比べれば、マシかもしれねえからよ』
口には出さないが、心の中でそう告げて、その場を後にする。
そして、さらに、
「……」
リーネが見詰めていた先に、中年の男女の死体。
「もしかして、叔父さんと叔母さんか……?」
「……うん……」
「そうか……」
まさか、リーネの村の連中も合流してたのかよ。だったら、もし、こんなことになってなければ、リーネが知ってた料理のレシピが、伝わってたかもしれねえのにな……