だいじょうぶ…ですか……?
「だいじょうぶ…ですか……?」
ゆっくりと浮かび上がるような感覚の中、遠慮がちにそう問い掛ける声が俺の耳に届いてきた。
<こちら>に来てから聞き慣れた言葉。どうやらまた<転生>したわけじゃなさそうだな……
手は…動く。
脚も…動く。
体中痛いが、あの時と同じ感覚はない。命に別状はないということか……
うっすらと目を開けると、俺の顔を覗き込んでいる誰かと目が合った。するとその<誰か>は、怯えたように少し顔を引く。
『女の子……?』
まだ十分に働いてない頭でも、その程度は理解できた。そうだ。倒れていた俺を心配げに覗き込んでいたのは、明るい茶色の髪を肩の辺りまで伸ばした、まだ十歳には届かない感じの女の子だった。
明らかに泥と土埃で汚れた顔をしていたものの、間違いなく可愛らしい造形をしてるのが分かる、<美少女>だ。
まったく、その手の趣味の持ち主なら垂涎物のシチュエーションだろうな。こんな美少女に心配してもらいながら意識を取り戻すとか。
だが、今の俺にはそんなことをありがたがっている余裕はない。
「ああ……ありがとう。体中が痛いが、どうやら死に損なったらしい」
俺はそう応えながら慎重に体を起こす。横になっていた時には何ともなくても、頭を持ち上げて負荷が掛かった途端に急変、なんてこともあるからな。が、それも大丈夫なようだ。
「あそこから落ちて骨折もしなかったとは、この強運が俺に与えられた<チート能力>ってところかな……」
そう呟きながら見詰めたのは、少なく見積もっても高さ二十メートルはありそうな急斜面、と言うか、ほとんど<崖>だな。この斜面の上の道を歩いていて足を踏み外して滑落したんだ。一緒に逃げていた村の連中は、助けには来てくれなかったか。まあ、自分達が生き延びるだけで精一杯だろうからな。無理もない。俺だって村の連中の立場ならそうしただろう。勇者でも魔法使いでもない、<ただの人間>には、できることなんてたかが知れてる。
この少女も、俺のいた村じゃ見たことのない顔だった。多分、人種そのものが違う。言葉こそ共通してるが、隣国の人間だろう。しかも、俺と同じように戦火を逃れて難民として逃げている途中に仲間に置きざりにされたクチだな。
薄汚れた顔と整えられていない髪、粗末な身なりを見て、加えて、この辺りに集落なんかないはずだということから、すぐに察することができた。
「お前も仲間とはぐれたのか……?」
「……」
問い掛ける俺に、女の子はおずおずと頷いた。
やれやれ……どうしたものか……