003. 大変申し訳ありませんでした
「ええ……、本当に申し訳ないのですが貴方がこんな事になった原因がこちらにあるからなのです……」
リュスカは悔しさを滲ませながら話し始めた。
「伊織さんはこの世界の他にも別の世界があって其々の神が創造しているというのを考えたことありますか?」
伊織は何を突然これまでと関係ない話をいきなりしているのだと驚きの顔をした。
「関係ない話ではないですよ。この世界の皆さんは“ラノベ”というのですか?そういったモノが実はただの空想世界ではなく、実在している世界なのですよ。それが私が創造神として存在する世界です」
――それが?――
伊織は興味がない振りをしながらもリュスカの話を聞いていた。
リュスカは伊織に優しく微笑んだ。
「私が神である世界は“ルフォール”といいます。ルフォールには日本と似た考え方・教えがあって万物の神が存在すると考えられています。日本では“八百万の神々”と言われている存在です。ルフォールの神でその中にティリエという名の女神がいるのです」
――ティリエ?女神?――
「そう、この神はあろうことかルフォールの世界からこちらの世界にやって来ていたのです。このことは神同士が諍いを起こさないために決められた禁忌。それをティリエは犯したのです。こちらの世界の神もあちこち監視していたのですが何故隙をつかれてしまいました」
――神様のくせに隙があったんだ……――
「ええ、元々神同士の“不可侵条約”の上で成り立っていた事ですから、他の世界の神が侵入なんてしてくる事はないと思っていたんですよ」
――ふーん、それでこの世界はその女神に勝手された――
リュスカは伊織の言葉に小さく頷いた。
「ティリエは女神なのにルフォールの世界でも色々な悪戯をしていて、丁度他の神たちはその修正・後処理に追われてしまっていて……私たちの監視の目も緩んでしまっていた……というわけです。言い訳でしかないですね……こんなの」
リュスカは目を伏せ溜息を吐いた。
「それからはティリエは自由奔放に誰にも咎められることなく時間だけが過ぎていったのです。そのうちにティリエはこの世界の人間に興味を持ち、貴方に目をつけた」
――何故、俺なの?――
「ティリエは……男好きなのです。特に貴方のような男性が……」
――……あっ……――
「何か思い当たる事があったようですね?」
確かに伊織は中学生か高校生くらいの時から変な女性に執拗に追い掛け回されていた。ただそれが姿が全く違う女性たちであると思っていたからだった。
「貴方の人生を神であるはずの者が自分勝手な欲望で貴方を刺し、貴方の本当の死因を誤魔化すために車道へと貴方を突き飛ばし車に跳ねさせた……」
――……てか、俺はまだ死んでいませんよね?!――
伊織は困惑した顔でリュスカの肩を掴み強く揺すった。
「あぁ、すみません……。貴方にわかり易く説明するための単なる“言葉の綾”ですよ」
リュスカは何かを含んだ感じににっこりと笑ってみせた。
「だから、貴方に最初にお話しした通りルフォールの世界の不始末・不手際によるものなので、まずは三つの選択肢の中からこれからの貴方の人生をどうするか決めてください」
伊織は目を瞑りリュスカが話していたことをよく考えた。
――やはり俺は俺の今まで生きてきた人生にそれなりに満足してるつもりだから。こんな形で人生が変えられたのは納得できないが、このまま終わったとしてもそれが俺の人生だったと……――
「あぁ、もうっ!ウダウダ言ってないで転生してくださいっ!」
――へっ?!だから俺は転生とかしたくない……――
「細かい説明はしている時間が無くなってしまいました。申し訳ありませんが、……樋口伊織さん、貴方に対する女神・ティリエの行いのお詫びとして私たちの世界・ルフォールへ転生してもらいます」
リュスカはニッコリ笑いながら伊織の額に手を翳した。
「貴方にはきちんとお詫びとして私の加護なども追加しておきますね。……それではよい人生を……ルフォールで……」
今まで樋口伊織が横たわるベッドがある空間で過ごしていたはずなのに、いつの間にか真っ暗な闇の中にいた。