殺してやるぞ正道六騎士
横道もいよいよ終幕。こっから完全ノンストップで突き進んでまいります。ちのけがおおめ。
◆ ◆ ◆
「おじさん。来たよ」
この後ろまでがリアリティーある草原で、ボクの立つこの先からは『凝らす』までもなくのワイヤーフレーム。
パンゲアの果ての果て。そうする旨味が無いから誰も近付かなかったこの場所に、ボクだけが立っている。
今となっては簡単なことだった。ここを知っているヒトを虱潰しに、数珠繋ぎに聞き込み続け、そいつの元に空間転移するだけ。行こうと思い立ってから、ここの場所が知れるまでパンゲアの時間で半日とかからなかった。
おじさんは、ここに来れば自分が何者か解るんじゃないかと言っていた。ここを目指していたけれど、その道半ば馬に蹴られてこの世を去った。
無意味だと解ってはいるけれど、ボクがこの目で見て、彼の無念を晴らしてあげたいと思った。
「見ての通りだよおじさん。あんたの足しになるものなんてない」
だけど、ここは単なる"終点"。人々のイメージが枯渇した果て。なにかを授ける・授かるような高尚なものなど、ここにはない。
「何か、遺してあげられる物があればよかったのにな」
母様ツテで得られたのは、ボクの身体には少々だぼつく外套だけ。他のモノはおじさんの死と共に土に還り、パンゲアの礎となった。
まだ、これをここに置いてゆくわけにはいかない。もうすぐ始まる最後の一戦。ここに溜め込んだ重火器だけがボクの武器だ。
だからって。何もないのは寂しすぎる。悩んで迷って、拳銃一丁を地面に突き入れた。ボクがパンゲアの端っこで、小間使いとして燻ってた時にくれたあの銃だ。もう、今のボクには必要ない。
「フィルくーーん。もういい? 大丈夫ーー?」
草原の遠くからサリ、サリと草を踏み鳴らす音がする。ボクの『いまの』相棒、ライル・ガンパウダー。向こうで待ってろって言ったのに。感傷に浸る暇すら与えてくれないのか。
「ああ、もういいよ。そっちは」
「そりゃあもうぎっちぎち。あんたのチカラとあたしの銃器が合わされば、そりゃあもう神にだって勝てちゃうわ」
成る程。そりゃあ頼もしい。ノリノリで助力してくれて助かるよ。命をタテに脅したんじゃ、何をするにしてもつまんないものな。
「けどさ。ホンキなの? あたしが言えた義理じゃないけどさ、愚策だと思うよ?」
「構わない。ここで勝てなきゃ、ノゾミ・バシュタールなんて大将首、絶対に届かない」
彼女が『造った』武器を一つ一つ外套に詰めてって。"敵"が出向くのじっと待つ。
"目を凝らす"。青の反応が迫って来ている。ピースメーカーが信者に王都への移動を促す中、こんな辺境に好き好んでやって来る者なんてただひとり。『かかった』。あとはこいつを徹底的に叩き潰すのみ。
「隠れてろライル。戦いは十分もありゃあ終わる」
目を凝らす、までもない。奴の姿がこの肉眼で視えた。あれは誰だ? いや、誰だっていい。六騎士の誰かでさえあれば。そもそも、それ以外の駒を動かす気などないはずだ。ノゾミ・バシュタール。ボクが邪魔なら、向こうも今ある最高の戦力で潰しにかかるはず。
『へぇ。逃げないんだ。笑える。僕に勝てると思ってるの?』
疾風を巻き上げ急ブレーキ。そのまま直角にここへと降りてくる。あれは風の魔力の応用か? 白の外套にピースメーカーのエンブレム。フードをはね上げ、だいぶ若々しい少年の顔が顕となった。
「お前……確か、サマエルだっけ? 正道六騎士の」
イザク、バベル、タマエは殺した。あとの奴の名前は知らない。
『そうだよ。今更それ聞く? これから殺されるしかないってのに』
「訊くとも。間違ってたら殺り損だからな」
おじさんに託された外套を被り、その中に両手を突っ込む。ここまでは計画通り。落ち着け。焦るな。必ずやれる。正道六騎士、案内してもらうぜ。お前らのアジト、大司教の座す大聖堂へ。
※ ※ ※
・ノゾミ・バシュタールが方舟計画を発動させる一時間ほど前。
「痛、っつぅ……」
「あ。起きた。大丈夫ー?」
視界の変化に目が慣れない。頭を振って意識を保つ。こっちはパンゲア。それでいいな。いいんだよな?
「その様子じゃ、ダメっぽいね」
「見ての通り。門前払いってやつ」
アルカディア・コードとやらをこの身に取り込んでから、ボクはヒトの気配さえ掴めばそこへと『ワープ』出来るようになった。武器は充分に調達できた、となれば次に向かう場所は唯一つ。
ノゾミ・バシュタールがどんな奴かは知らない。けど、同じコードを食んだ仲だ。ボクと似たような波長を発しているに違いない。
それがビンゴ。いちいちフォボスを探して許可を取るなんて馬鹿馬鹿しい手順はいらない。後はそこまで飛んでゆけばいい。
「発想は見事! だったんだけどねぇ」
「そりゃあ対策だってしてるよなあ」
奴の波長を捉え、そこまで『飛ぼうと』した瞬間。カッと目を見開いたイメージが、ボクの視界総てを呑み込んで。気が付けばカビ臭いボクの部屋。今にして思えば甘い考えだった。こっちにそれが出来るんだ。向こうが対策を立ててないわけがない。
「焼かれたの? 脳味噌」
「灼かれてはいない。ぎりちょんセーフ」
ボクの中の生存本能が、無意識の内にログアウトボタンを押したのだろう。何かもっとやばいのが来る前に、ボクの意識は現実世界へと『逃げていた』。
「参ったな。この方法は捨てるべきか?」
圧し負けた事自体はどうだっていい。問題は、他に向こうまで行く手段が現状見つからないことだ。多少の有象無象が束になったところで敗ける気がしないが、大元締めに辿り着けなきゃ何もかも無意味。ただでさえ長期戦は不得手なんだ。生身の信者を山とぶつけられたら勝ち目はない。
「いや、結構いいセン行ってたと思うよ? あたしは」ライルは土を媒介に重火器を次々量産しながら、「そのヒラメキ、捨てるには惜しいと思うなあ。他になんか無いの? 門前払いされた天の岩戸にコンニチハする方法」
「無茶言うなよ。そんなもの、あるわけ……」
待てよ。門前払い、門前払い・か……。ボク『だから』門前払いされたワケで。そうじゃなければ。
「OK解決。良いこと言ったライル・ガンパウダー」
「へ? あたし、なんか言ったっけ?」
「ボクらはずっとおたずね者だぜ。しかも向こうは幹部級である六騎士を半分も殺されてる。討伐に半端なやつをよこす訳がない」
「いや、いや。わかるように言ってよ」
「だから。呼ぶんだよ、ここに。誰でもいい、誰かひとり。一緒に連れて飛べば。向こうも門戸を開かざるを得ないってこと」
…
……
…………
「ふぃ、フィルくーん。来たよ、来ちゃったよぉ……」
「ご苦労さん。予想通り、大きいのが釣れた」
ずっと頭上で浮いてるあれは風の魔力か? 王都からここまで"それ"で来たのか? しかも全く疲れがない。凄まじい魔力の持ち主だ。持久戦になるとこっちが不利か。
『笑える。戦う前から僕を倒せる気でいるんだ。"取らぬ狸の皮算用"ってコトワザ、意味知ってる?』
「知ってるよ。取ってしまえば万々歳ってことだろ」
元より、他に進むべき道はない。誰であろうと関係ない。かかって来いよ六騎士の何某。完膚なきまでに叩きのめしてやる。




