表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】ロード・オブ・ザ・パンゲア ~母を訪ねて何千里、魔法の才に恵まれなかったボクは、銃と映画でテッペンを目指します~  作者: イマジンカイザー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/93

お前なんてただの通過点


『生きていることを恥とも思わぬ愚者が、いい加減、死に腐れッ』

 戰場を地下道に選んだのは、自らの有利を理解してなのか? 反響する声で位置が掴めない。

 鼻先で迫り来る疾風(かぜ)を感じる。僅かに首を反らす。軽いハンターナイフがそこを通過し、古ぼけた壁の煉瓦に深々と突き刺さった。

「ふざけんな、あんたが死ね」

 最早視覚は当てにならない。ビッキーは目を閉じて耳を澄まし、水の音・煉瓦の音にだけ集中する。

「そ……、こっ!」

 煉瓦に刺さったナイフを引き抜き、雷の魔力を右腕と左足に集中。気配の元へと投げつける。

 舐められたものだ。カラダを使ったステゴロならこちらにも分がある。これでも喰らえと放たれたナイフは、何にヒットするでもなく虚空に消えた。

(外した!?)その隙を突き、ビッキーの左肩に突き刺さる。躱されたことも、反撃を喰ったこともどうでもいい。問題はそれがほぼノータイムだという事実だ。今ビッキーの動体視力は雷の魔力で研ぎ澄まされている。多少素早い程度の攻撃など簡単に避けられる筈なのに。

 読まれている(・・・・・・)? こちらの挙動を先読みし、そこにカウンターを仕込んだというのか?

(成る程、さすがは六騎士サマってわけ)

 あれがモノに頼るだけのサンシタなら、そもそもカナエ・バシュタールは死んでいない。命懸け。そう、命を賭けねばならぬ。手段を選んでなんかいられない。


『逃げるか? いいだろう、逃げてみろ』

 ビッキーは臭いのきつい水路に『敢えて』飛び込む。稲妻を全身に纏わせての肉体強化。鼻が曲がるような下水の飛沫を派手にぶち撒け、出口へ向かって駆け抜ける。

(誘い出されたわね)

 たとえ魔法に依る肉体強化(バフ)がかかっていようと、水の抵抗をゼロにできるわけがなく。投げナイフが腿の裏に、背中に、左肩に突き刺さる。

「ぐ……う、うぅっ!」

 覚悟の上の負傷だ。身体じゅうに循環する雷で痛覚を麻痺させ、無理矢理に突っ走る。

『馬鹿め。そんな気休めが何になる!』

 筋肉を誤魔化して走れてはいるが、蓄積するダメージに嘘はつけない。舞う飛沫も少しずつ減っており、ふたりの距離はだんだん狭まってゆく。

 これが攻撃に転じれば脅威だったかも知れないが、彼女はひたすら逃げているだけ。この地下道を脱すれば勝機があると? それこそ馬鹿げている。礼拝堂から一歩外に出れば、ピースメーカーの信者と衛兵に囲まれ袋叩きに遭うだけだ。


「あっ無理、そろそろ限界……」

 バグ技のようなインチキでダメージを誤魔化してはきたが、やはりインチキは長く続かない。強烈な頭痛がこれ以上の運用にNOを突き付け、ビッキーは道半ばで汚水に半身を沈めてしまう。

『逃げて逃げて、結局貴様は何がしたいのだ』

 汚水にまみれ、戦うすべもなく。ただ延命の為に逃げ続け、その結果がこれか。訳がわからない。六騎士アンリは透明の外套を拡げ、中にしまわれたナイフから特別刃渡りの広いものを抜き出して。

『無駄な足掻きはもう終い。せめてもの情けだ。一瞬でその頸を刈ってくれよう』

 反りの無い鋭利なナイフ――、いや『ショートソード』というべきか。逆向きには未だこびり付く赤黒の染み。カナエ・バシュタールはあれで刎ねられて死んだのか。同じ得物で自分を殺そうというのか。

「ふ。ふふふ」だがしかし。ビッキーの顔に諦めの二文字はない。今まさに、頸を刈られる寸前であろうとも。

「あたしさ。才能がないって散々言われてたんだよね。稲妻をイメージできても、集中集束させるのに向いてないって。パパはどっちもできたのに。悩んで凹んで傷ついたっつーの」

『何?』

「だから、内に秘めて使うことにした。カラダ鍛えるのは性に合ってたし、実際これひとつで生きてきたから、他の方法あんまり知らないんだよね」

『今更何だ。何が言いたい』

 不気味だ。これが、今ここで殺される人間の言葉か? 隠し玉があるというのか? 今ここで撤退するか? 馬鹿馬鹿しい。向こうは刺されに刺されて動けない。ハッタリに敗けて逃したとなれば、大司教の怒りの矛先は自分に向くだろう。

『もういい。さっさと死ね』

 悩む必要などない。もう既にここは自分の距離だ。両手でソードを握り、半分汚水に埋もれたままの咎人目掛け振り被る。

「けどさ。もう、そんなのどうでもいいわけ」

 ビッキーは、今の今まで自分自身にかけていた雷の魔力を『解除』する。後回しにした激痛に意識を奪われそうになりながら、広げた右掌をアンリに向けた。

「こんなところでバシャバシャ水かぶって。そんなキラキラしたものたくさんぶら下げてさ。始末屋のくせにあんた……。馬鹿じゃないの?」

 しまった! などと声を上げた所で時遅し。アンリの目に映るのは、汚水がふつふつと沸騰し、微弱な電気を帯びる異様な絵面。

 ビッキーは自身に宿る雷の魔力を適切に集束できない。故に放出を諦め、それを身体能力強化に割り振った。だがこの状況ならば。互いに水に浸かり、水を浴び。加えて向こうは"金属"をたっぷりとぶら下げていると来た。

『こ、こ、こ、こ・れ・は! あっ、あぁああああ』

 内に秘めた魔力を最大限解放。水面から放出された雷は、この場で一番『金属(ナイフ)』を身に着けたアンリに向かって一直線。

 ビッキーが狙っていたのはこれだった。透明で、暗がりで、足場も悪ければ肉弾戦はほぼ無意味。生き残る為に知恵を働かせ、相手の能力と姿、自分のチカラを仰ぎ見て導き出した逆転の一手。

 上手く行くかどうか不安ではあった。たとえそうは見えなくとも正道六騎士がひとり。強引に行かれたら勝ち目はなかった。

 始末屋を名乗っていながら間抜けな女である。最重要抹殺対象を殺して、後はもうオマケとでも思っていたのだろうか。逃げる自分に警戒すらしないで、ご丁寧に追ってきてくれて。

『この……。虫けら……。大司教様の教えに背く……愚図……』

 それでもなお、ソードを手に頸を刎ねんとする根性は立派だ。事実今ビッキーに対抗する術はない。傷が深く、魔力は全部雷に回した。押し返せない。

『うぐ……うく……う……』

 ならば、今あるチャンスにすべてを懸けるまで。右掌にぎりぎりまで魔力を回し、高拡散される雷をひたすらに解き放つ。

「く、た、ば、れ、ぇえええええええてええええええええええッ」

 お前がどんな存在だろうと。

 言うことが如何に高尚だろうと。

 自分のしていることが人の道に反していようと。

 知ったことか。そんなことどうだっていい。

 お前はただの通過点。託されたこの命、この武器、むざむざすててなるものか。

『この……この……こ、の、ぉ……ォ……』

 奴の握るソードが手から滑り落ち、汚水の中に消えた。蒼く輝く光の中で、全身に仕込んだナイフたちは尋常ならざる熱を帯び。やがて糸の切れた人形のように棒立ちとなる。

 与えられた情報量に脳がついて来られず、オーバーフローを起こしたのだろう。脳味噌をそのまま電子レンジで加熱したかのような衝撃だ。たとえ生きていたとして、二度と落とした刃物を拾うことはないだろう。


「ざまあみろ。やってやった。やってやったわよ」

 痛みを堪え汚水から上がり、身体中に刺さったナイフを一本ずつ引き抜く。出血と、それに伴うダメージは雷で焼いて塞ぎ、気合で我慢する。

 カナエの居た場所はもう見えない。戻ってあいつの亡骸を埋葬する暇もない。奴は死んだ。自分は紙一重で生き残った。彼女はこの武器を好きに使えと遺してくれた。大切なのはそれだけだ。だからもう振り返らない。済んだことは済んだことだ。折り合いをつけて前に進め。


「あ、っと。その前に」

 前言撤回。臭い汚水に鼻を摘み、もう一度だけその身を沈めてゆく。

「よし、あった。貰ってくわよ、これ」

 通常、プレーヤーが死ぬと装備も道連れになって消えてしまう。だがレア度SSRとなれば話は別。気配さえ消せる透明の外套。やはりこれは超貴重装備だったか。

 ビッキーは奪った外套を身体に巻き付け透明になり、手探りで元来た道を戻ってゆく。果たして、この短剣は誰に、何のために使うべきなのか。それはまだわからない。




※ ※ ※



 王都・フォボス全体を見通せる高い高いピースメーカー大聖堂。その頂に座し、市民らを睥睨する彼女は大司教ノゾミ・バシュタール。このパンゲアの秩序を司る、『神』に最も近しい存在だ。


『ふぉっふぉっふぉっ。壮観でおじゃりますなぁ大司教さま。あなた様のお声ひとつで愚民どもがほら、あんなにも』

 殆どヒトのいない聖堂の祭壇に列席を許されているのは、正道六騎士がひとりニコラウス。綺羅びやかな装飾を全身に纏い、歯は金の総入れ歯。あからさまに他者を見下す、品『だけ』は良さそうな男である。

「だが、まだ足りない」大司教ノゾミは不満げにそう洩らし。

「気は熟した。始めようか、ニコラウス」

『ホウ、ホ、ホウ』ニコラウスは下卑た顔でニイと笑い、『だがしかし大司教さま、サマエルが戻ってないようでおじゃるが』

「問題ない。彼なら"発動"しても余裕で戻って来られるさ」

 ノゾミは怜悧な顔で席を立ち、高らかに右手を挙げる。大聖堂に光をもたらすステンドグラスが微かに揺れた。次いでフォボスの市民たちが揺れを察し、天を仰いで跪く。


「方舟にようこそ、我が臣民諸君。そしてさようなら、それ以外の異教徒共。パンゲアに巣食う穢れは私が根こそぎ、払ってみせよう」

 いま、このフォボス以外がどうなっているか。この場で天を仰ぐ市民たちにはわかるまい。彼女は今この場で、パンゲア崩壊の引き金を引いたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 環境を活かした戦い、良かったです! やっぱり感電は、電気系能力の基本にしてスタンダードですね! 地球を救った諸星家の長男とかスーパーマサラ人以外なら、これでイチ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ