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ムカつくアイツの脳天に一発

三話目です。今後だいたいこういうことをやっていきますよ……

という意思表示。

「見て分からねえか? 止めてンだよ。お前も大人なら、弱い者いじめで悦に浸るのはやめな」

 自分のこの目で見ているものが信じられない。今の今までボクを威圧していたあのおじさんが、店長の胸ぐらを掴んで『やめろ』と言う。ナンデ? 出逢って五分も経ってないのに!


「オウオウオウ、弱い者いじめだってェ、お客様よう」

 店長の注意がおじさんの方に向いた。即座に側転を打ち、ふたりから距離を取る。

「奴はここの従業員。そいつの母親が宿代がわりに置いてったんだ。つまりは奴隷! 俺の意のままにしていい下僕! わかるか? 解ってくれるよな? お客様よォ」

「悪いが、その理屈には同意しかねる」

 掴んでいた手を離し、一歩二歩と後ずさる。逃げの一手? いや違う。これから逃げ出すような腰抜けは、両の瞳をあんな風にギラつかせたりはしない。

「ストレスのはけ口が欲しいってンなら来いよ、相手になるぜ」

「ほォ〜……」店長は品定めするようにおじさんを見て、鼻で笑う。「よう兄ちゃん。見たところ杖も簡易魔法陣も持たないようだが、そんなナリで何しようってんだ?」

 魔法を行使するには、イメージして『飛ばす』ための杖か、手に陣の紋様を描かなくてはならない。前者は杖がなければ何も出来ず、後者はわかる人が見れば次に何をしてくるか解ってしまう。

 店長が嘲り笑うのも無理はない。ポンチョで上半身を覆ってはいるけれど、紋様どころか杖もない。全くの丸腰だ。それで以て止めろと言って、一体誰が聞くというのか。

「今ならまだ間に合う。聞かなかったことにしてやるぜ。あんたが土下座して謝るってならよォ、お客様ァ」

「くどい」おじさんは店長の言葉を切って捨て。「その言葉、そっくりそのまま返してやる。この子に誠心誠意謝るなら、命までは取らないでおいてやるよ」

 本当に、そのままやる気か? 無茶だよ、やめた方がいいって。目でそれとなく訴えるけれど、あちらはそもそもボクを見てさえいない。

「OK、タマの取り合いがしたいんだな。請けてやるよ」おじさんはポンチョの中に右手を埋め、何かを探る。衣擦れ……じゃない。この硬さは、金属音?

「来いよ。ドタマぶち割ってやる」

「ハッハア。こりゃあ儲けたぜ。ソーセージ用の肉が、そっちからやってきたんだからなア!」

 店長の右腕で紅蓮の炎がとぐろを巻いた。元『ピースメーカー』護衛騎士団崩れの炎使い。一線を退いてなお、その魔法力に陰りはない。ボクが見ただけでも、十五の無銭飲食・無賃宿泊者があれに焼かれ、その日の夕食にされたんだ。

「燃えよ炎、集え我が腕に! 我が敵を灼き尽くせ! エビル・フレイム・バースト!」

 勢いを増す炎を伴って振り被り、呪文を詠唱。ああ、もうダメだ。あのおじさんも黒焦げのウェルダン肉にされてしまう! 逃げろよ、逃げ……!!


 ――BANG!


 燃え盛る炎を放たんとしたその瞬間。店長の脳天に穴が開き、鼻から上が潰れたリンゴみたいに弾け飛んだ。腕に控える炎は行き場を失い霧散する。

「なんだ……? ナニ、しやがった……?」

 店長は両手をまじまじと見つめ、おじさんの方を向く。その時ようやく、自分の顔に目玉が乗っかって無いと気付いたらしい。そしてそのまま糸の切れた人形めいて崩れ落ちた。

「だから言ったろ。謝っとけって」

 おじさんの声に引っ張られ、そちらに目を向けた。上半身を包んだポンチョの隙間に何かが見える。薄く灰色の煙を昇らせて、黒く、硬く、細く尖ったあの形状――、まさか……まさか!

「あ、あああ、あんた! それってまさか、拳銃か!?」

「ああ、そうだが……それがなにか?」

 なにか?

 なにか、だって?

 問題だよ。大! 問題だから騒いでんだよ!

「パンゲアでの戒律を知らないのか!? ここじゃ銃は野蛮、不粋、禁忌! 所持してるだけで問答無用で『ピースメーカー』に狙われるんだぞ!?」

 身分や人種を持ち込まず、殆どのことがプレイヤーの自由意志に委ねられるこのパンゲアにとって、数少ないタブーが『銃の所持』だ。

 ボクらが産まれるよりずうっと前。現実(リアル)では銃の発明と大量生産により戦争は複雑化し、やがて文明を傾けるほどの被害の発端となった。銃によって不幸になった人たちは星の数ほどいる。

 ここパンゲアは人々の理想をカタチとしたものだ。銃のような人類悪の象徴はいらない。故に、持つ者は徹底的に排除する。パンゲア内で秩序を護る教団『ピースメーカー』から徹底された教えのひとつだ。


「知るか。ンなこと、いま初めて聞いたぜ」

 こ、こ、ま、で懇切丁寧説明してやったというのに! 向こうは知らぬ存ぜぬ澄まし顔。記憶がないと言っていたけど、こいつは死ぬのが怖くないのか!?

「店長を殺ったくらいで得意気か? このパンゲアにはもっとずっと強力な使い手がごじゃまんといるんだぞ! 教団守護の六騎士、犯罪ギルドのシニスター・ウィンドウズ、モンスター使いが集うネビュラホール」

「だから、知らねぇつってんだろ」なんなのだ。この自信はなんなのだ。他のユーザーが耳にすれば震え上がって土下座するほどの強豪たちだぞ?!

「知らねえもんは知らん。だから、会いに行く」

「はあ?」

「お前が言ったんだろうがボウズ。答えを知りたきゃ探しに行けって。上等だやってやろうじゃないか。意味なく生かされたこの生命、全部使って世界の果てまで突っ走るのよ」

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