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【完結】ロード・オブ・ザ・パンゲア ~母を訪ねて何千里、魔法の才に恵まれなかったボクは、銃と映画でテッペンを目指します~  作者: イマジンカイザー


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これが噂のあたしあたし詐欺

◆ ◆ ◆


「パパの馬鹿。大馬鹿。馬ッ鹿野郎……」

 ちゃんと栄養を摂ったのに、腹斜筋がヘタってしようがない。力を込めても大胸筋が思うように膨らまない。足元のレンガを拾ってぎゅっと握ってみる。亀裂が走るだけで砕けない。いつもなら秒で粉々に出来るのに。

 ずっと捜し続けて来たパパと再会できたのに。肝心のパパはあたしのことを覚えてなくて。意地を張っての物別れ。

(あたしから謝るべき?)

 ノー、NO・NO。悪いのは忘れたなんて言って拒絶なんかするパパの方。そもそもなんで忘れるの? 忘れるってなんなの。パパはパンゲア最高の賞金稼ぎなのよ。そこいらの有象無象にやられるなんてあり得ない。


「お客様、追加のご注文がないならそろそろオアイソを」

「うっさいわね。今立とうと思ってたの」

 あんなよわよわな筋肉で。しこたま酒を呑んでいて。あんなパパをあたしは知らない。姿を借りた別人? そんな筈ない。どんなにスキンを変えようと、他の誰かが成り代わろうと、そうじゃないと見破れる自信がある。

「なんなのよ、もう……」

 だからこそわからない。あれはパパであってパパじゃない(・・・・・・)。じゃあ何なの? あたしと離れた三ヶ月。パパはどこで何をしていたの……?


『パパぁ、捜したよぉ。こんなところにいたんだあ』

『やだなぁ。わたしだよわたし。パパの愛娘のライア。何も言わずに置いてって。寂しかったんだからあ』


 悩んで迷って、道端で聴こえた不気味な声。関係ないや、そういうヒトもいるんだと聞き流してしまいそうになったけど。


『お前がそう、なのか? すまねえな。こちとら、過去の記憶ってやつがまるで無いもんでよ』


 ちょっ、待ってよ。対応してるのあれパパじゃん! ナンデ!? あんなの間違いなくワナでしょ!? どうしてパパが引っ掛かってんの!?



※ ※ ※



「ほぉら、いっぱい食べて。久々に逢えたんだもの。ぜぇーんぶわたしの奢りっ」

「そりゃあありがたい。ありがたいんだが……くれるってんなら酒をくれ」

 おかしい。何か変だ。いや、いつもヘンではあるけれど。

「じゃあこれ。ヘネシーの15年モノ。バパ、昔から好きだったでしょ」

「おう気が効くじゃあねぇか。さんきゅー」

 あのおじさんが、今さっき逢ったばかりの『娘』と仲良く卓を囲んでいる。それでもなお、出された料理に手を付けないのは流石というか何というか……。

 娘ならさっきも居た。筋肉モリモリ細マッチョウーマン。確かにあっちよりは取っ付きやすいし、なんとなく面影もある。あるけれど。


「なぁに? わたしの顔に何かついてる? 『おにいちゃん』」

「え。あ、いや……特に……何も……」

 けど、実際おにいちゃんだなんて呼ばれると、そんなことどうでも良くなって。だっておにいちゃんだよ!? こんなに可愛い妹におにいちゃんって言ってもらえるんだよ!? 他に何もいらなくない?

「おにいちゃん。パパ、ご飯いらないって。わたしだけだと余っちゃうし、食べてくれる?」

「うん。うん。食べるよ、おにいちゃんに任せんしゃい」

 なんだろう。この子に言われるとなんもかんもどーでも良くなっちゃう。砂糖菓子みたいに甘ったるくて、聴いてると背筋がそば立っちゃう胸キュンボイス。民間伝承のセイレーンってこんな感じなのかな。成程、引っ掛かって抜けなせないのも頷ける。

「や、待って。セイレーンって」

「どうかした? おにいちゃん」

「ううん。なんでもない。なんでもないよお」

 ま、いっか。難しいことは考えなくて。おじさんは娘が見つかったし、ボクには妹が出来た。大事なことはそれだけだ。


「さぁーって。お腹もいっぱいになったことだし」

 ライアちゃんは軽く伸びをし、おじさんに蠱惑的な眼差しを向けると。

「わたしね。パパに頼みたいことがあるの。クエストを一つ請けてるんだけど、ひとりじゃちょっと厳しくて」

 なんて言いながら、彼女が指差すのは街外れに立つ物々しい色合いの建物。周りの連中は守護者か? ただのプレーヤーにしては顔が厳つすぎるんだが?

「あそこ。パンゲア内に蔓延る極悪ギルドの辺境支部なんだって。非合法な手段でおカネを毟り取るやつらがいっぱいいて、街のみんなはずうっと困ってるんだって」

 なんとなく話が見えてきた。アレはやくざの詰め所のひとつで、カチ込むのに兵隊がほしいってことだな。

「パパお願い。大事なクエストなの。成功させなきゃいけないの。手伝って」

 おじさんの腕に自分のそれをぐるんと回して。あぁあこれは反則だよ。如何に唐突かつ理不尽でも聞かざるを得ないじゃないか〜っ!

「おう。分かったよ。お前の頼みじゃ聞かないわけには行かないからな」

「ほんとぉ!? ありがとぉ! ありがとうパパ! 愛してるぅ!!」

 いや、いやいや。アレはちょっとまずいんとちゃう? ボクら完全に無関係ですよ。あんまり日向の道を歩けないんだし、関係ないことに首突っ込むのはやばいって。

「おにいちゃん。おにいちゃんも、協力してくれるよね? ね?」

「あっ、うん。モチのロン。正義のためのお仕事だもんね。張り切ってガンバルゾー」

 おいおい、何を馬鹿なこと言ってんだ? ライアちゃんが頼んでるんだぞ? 断るだなんて論外でしょ論外。

 気持ちがぐちゃぐちゃだ。考えていることがコロコロ変わる。そもそも兄ってなんだ。ボクはひとりっ子だ。腹違いでもない限り子どもなんて。

「おにいちゃん。何してるの? 早く早く」

「ごめんごめん。今いくよ」

 駄目だ。何が正しいのかわからない。いくら集中しても気持ちがどこかに流れていく。最初に違うだろと止めておくべきだった。どうすればいい。どうにもならない。こんな搦手、ボクらだけじゃどうしようも――。


「何ァに、やってんだ、この野郎おおおおおお!!!!」

「ぶへらっ!?」


 ボクのすぐ隣を色付きの風が通り過ぎ、ライアちゃんが横っ飛びに弾け飛ぶ。

 えっ、何それ、横っ飛び!? ナンデ? なんて思って目線をずらせば、どこかで見たようなしなやか筋肉。


「また会ったわねヒョロガリ。あんた、パパ巻き込んで何してくれちゃってんのさ」

「ナニってあんた。そっちこそ何してくれちゃってんの。あれはおじさんの実の娘なんだよ?」

「娘」ビッキー、だっけ。彼女は露骨に呆れた顔をして。「本ッ当にどうかしちゃったのね。あれ見ても、まだそう言える?」

「は……?」指を差されて、反射的にそちらを見やる。吹っ飛ばされて生じた土埃が晴れて、晴れて……。えっ。


「クソが……何なんだよふざけやがって……」


 ライアちゃんは。あの銀髪は。あの可愛らしい顔はどこへ行った。

 残ったのはつるんと禿げ上がった頭に嫌味な目つき。中肉中背の中年男。なんなんだこれは。なんだったんだ今までは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 美人局ですらなく、変装とは…! さて、どう見ても偽物にお仕置きをする流れですが、ここから真の親子の絆の再確認が始まる…のでしょうか? 次回も楽しみにしてますね…
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