ホーリーサイド細マッチョ
毎回週末に、で何ですが、ここからまたも新展開。ショタに女装させてるだけじゃ画面がもたなくなってきたので、ちゃんとしたヒロインの参戦です。
◆ ◆ ◆
「ヨー、よーYOヨー、お姉さん、俺たちと遊んでかない?」
「安くするよー? 初回サービスしちゃうよぉ?」
「キミクラス何? 剣背負って剣士? かわうぃーねえ、女の子なのに剣士やってんだあ」
"仕事"をしに外に出ると、三回に一回はこういう事態に出くわすの。線の細いイケメンたちがあたしを囲って、酒を片手に店に入れと手招きしてきて。
「ほんと? ほんとに? こんなあたしでも?」
「もちもちのロン。大歓迎」
「キミみたいなカワイイ子が来てくれたら、俺たち幸せ過ぎて死んじゃうよお」
でも、実際にそういう『こと』に及んだことはない。外套を脱いでこの『カラダ』を見せ付けると、決まってみんなあたしから離れて行っちゃうの。
「あ……あはは、は……。ご、ごめんね! 今、丁度用事……思い出しちゃって」
「ごめんごめんでも流石にこれは無理……ヤバいっしょこれ、ガチすぎっしょ」
「また、その……ね? 機会あったら。さいなら!」
なんでかなあ。ひとよりすこーし腹斜筋が割れてて、三角筋が筋張ってて、僧帽筋と広背筋がぐわっと盛り上がってるだけなのに。
「ホント。軟派なオトコってこれだから」
なんて、自分で自分を慰めて。仕事に向かって気持ちを切り替える。教えられた住所はここで合ってたはず。『パンゲア・ジェノサイド・クラン』。大量殺戮なんて、こんな辺境で名乗って恥ずかしくないのかしら。
「さあって、お仕事お仕事★」
背負った剣をぐいと抜き、アバカム代わりにどかんと一発。おカネのため、あぁいや……世界の平和のため。きょうもお掃除、頑張りまぁす。
※ ※ ※
「なんだぼうず。水商売は廃業か」
「うっさいな。黒歴史。忘れて」
崩壊した辺境伯の館を後にし、ボクは金品を。おじさんは酒をたんまりと奪い、近くの木陰でひとやすみ。あの破廉恥極まりない装備は『保持』という形で取り外し、やっといつもの状態に戻る事ができた。
主のいない館ってやつは寂しいもので、チカラで縛りつけていた従者たちも、コレクションされていた女たちも、総て去ってもうここには誰もいない。また物好きがここを拠点にするのかも知れないが――、ボクたちにはもう関係ない。
「まあ好きにしなよ。今後これでお前が稼いでくれるんなら、俺としては願ったり叶ったりだ」
「やらねーよ。もう何度も言わすなっつーの」
金のウィッグに藍色のアイライナー、朱の口紅に黒のランジェリー。欲しくもない装備を皮の鞄に押し込めて。二度と着るものかと封をする。
「それにしてもさ、おじさん」
「何だ」
「ほんとに……覚えてないの? 今までのこと」
再び酒をかっ食らうその時まで、さっきのおじさんは普通じゃなかった。銃を使わず、戦闘スタイルもコロコロ変わる。
「だから言ったろ。死にたくなきゃ酒を絶やすな。俺から言えるのはそれだけだ」
あれはおじさんにとっても不本意なことだったのか? 問い質すも論点ずらしではぐらかされ、話すつもりはないらしく。こちとらいのちに関わる問題だ。ちゃんと説明してほしいけど。
「解ったよ。言いたくないんならもう聞かない」
「ああそうだ。そうしろ」
無理強いは関係悪化の要因よ。清らかな関係を続けたきゃ、適度な落とし所を見付けなさい。母様がむかし所属していたギルドで話していたことばだ。全くその通りだとボクも思う。尤も、そう話した当人が、その翌日にギルドを脱退していたのだけど……。
「さ、このクソ長い荒野も後少しだ。とっとと街に入ろうぜ」
「同感」
正気を取り戻すまでに呑んだのが二十。残りは十。放っておいたらまた『あぁなる』のは自明の理。急がなくては。荒野に咲いた一輪のオアシスに別れを告げ、次の街へと駆け出した。
※ ※ ※
「はい、きょうのお仕事おーわりっ」
剣についた血を外套の裾で拭き取り、仕留めた証を順に床に並べる。門番の手、構成員たちから引っこ抜いた舌、親分から引き千切った目玉。こんだけあれば報酬をケチることはまず無いでしょ。この仕事はビビったら負け。ビビらせたら勝ち。パパがいつも言ってたことば。
「ねぇパパ。『ビッキー』、毎日頑張ってるよ。明日はきっと逢えるわよね? 」
懐にしまったくしゃくしゃの写真にキスをして、戦利品を"タッパー"に詰めていく。
鈍色の髪にマリーゴールドのセクシーな瞳。あたしの大好きなパパ。あたしに殺しを教えてくれたパパ。ああ、早く逢いたいなあ。




