人間サマ舐めんなよドラゴン野郎!
そろそろと1クール。タイトルを考えるのかめんどくさい。
「親ってなんだよ親ってぇ……」
右に八、左に八。眉間から口角までずらっと横に並んだ目。不揃いで血の色がこびり付いた牙。獲物を捕えて離さない頑丈な四本の脚。マザー・エルドランとでも言ったところか。さっき死に物狂いで倒したアイツが文字通り子ども扱いとは恐れ入る。
「おじさん! 早くヤツを」
こうなった今、ボクは全くの無力だ。銃があるんなら何とかできるんだろ? とっとと片付けて終わりにしよう?
「悪いなボウズ。そりゃあ無理だ」
「WHIT?! ナンデ!」
言っておじさんの方に目を向ければ、今しがた仕留めた竜をケツに敷き、俯いてゼイゼイと息を吐いている。
「ちょっ、なんでグロッキー!?」
「酒をかっ喰らった人間に無茶言う、なっつうの……」
知らないよ、そんなのあんたの都合でしょう!? こういうことがあると解ってて、どうして酒をやめられないかなあ!?
「だから、あとは手前ェがやれ」
「えっ。今、なんて」
なんて言って縄を切り、ボクを自由にした上で、投げてよこしたこれナンナの……。ってまた銃!? オーマイ勘弁しろや、前のよりちょっと砲身が長いけど、だから何?! 向こうさんボクらより何十倍もデカいんですけど??
「貸すんなら貸すでそっちのデカいのにしてよ! こんなんじゃカスリもしないっつーの」
「止めとけ。グレネードランチャーはピーキーすぎてお前には無理だ」
無理だと切って捨てた理由はすぐに解った。銃は確かに強力だ。けど、使い続ければ発射の反動が腕や肩に伝わり、遂には痺れて暫く使い物にならなくなる。
おじさんの両腕がいまもなお細かに痙攣しているのは、酔いだけが理由じゃないのだろう。
「それは良い、良いんだけどおおお」
けど、それはここで命張る人間に言うことじゃないよね?! 竜の野郎、弱ったおじさんじゃなくボクと目を合わせて来やがった。ちくしょうめ、向こうはパンゲアで死んだ恨み辛みの集合体だ。ネガった人間を優先的に潰したいって訳かよコンニャロウ。
なんて勢い込むのもつかの間。ボクとおじさんのすぐ間に、異様な空気の流れが生じる。これはヤバい。直感で飛び退いた二秒後、今の今まで立っていた地表が深く『抉れた』。
「えっ、何この……何?!」
これってもしかして、空気弾? 子どもには無くても親にはあって当然ってそんな感じの武装ですか? 冗談じゃないよ!
「よぉし、行ってこい。後は任せた」
頼みのおじさんは横になってなお、震える手で壜を口に運んで動く気がない。というか命の危機だっつぅのにまだ呑んでんの??
『ROARRRRRRRR!!』
そりゃあ狙い定めますよねわかります。滞空する竜の口が開き、中で空気が渦を巻く。貰った時点で一発アウト。ボクに残された手段はただひとつ。おじさんに渡された銃を手に、勢い込んで駆け出すのみ。
『GRRRROARRRR!!』
空気弾をバラ撒く怪物相手に、こっちはひたすら走るだけ。落とす影はボクを覆う程に大きく、どれだけ駆けてもやり過ごせない。
抗う手段といえば、手の中にあるこの銃だけ。他の人達が普通に使える魔法はボクには無い。撃ってみるか? 無理無理、ここからじゃ届かない。よしんば当たったとして、あの硬い表皮越しに何が出来る?
(あのクソッタレ……。よくも、よくも、こんな……)
ここは仮想世界パンゲアだ。息切れも脚の疲労も何もかも見せかけで、情報過多で脳の処理が追いついていないだけだ。でも、その脳が間もなく限界を迎えつつあるのはわかる。持久戦じゃ『死人』の集合体たるあいつには絶対敵わない。
「どうしろって……いうんだよ……クソッタレぇ……」
駄目だ、意識が遠のいてゆく。やっと。やっとボクを束縛するしがらみから脱け出せたのに、その先にあるのがこんなオチだなんて。
(ふざけんな)
なんだろう。だんだんむかっ腹が立ってきた。おじさんに対して? それはそう。けど、それだけじゃない。
(ふざけんな……!)
ボクをこんなにして棄ててった母様、孤児だからとこき使った元・店長。こちらの言い分も聞かず無理難題を押し付けたピースメーカーのあの女――。
(ふざけんな!!!!)
どうにもならないからと蓋をして背を向けていた。これが運命なんだと受け容れてさえいた。けど今は違う。全然違う。ボクはまだ、何も成してはいないじゃないか。死んでたまるか。諦めるものか!
「あれは」
ランナーズ・ハイと怒りのサンドイッチで、意図せずして視界が拓けた。ここはもう手は無いだって? 出来ることならまだあるじゃないか。
急に闘志が湧いてきた。邪魔なスカートを捲くり上げ、渡された銃を握り締め、再び弾け飛ぶように駆け出した。
(疲れは一旦、忘れろ)
ここじゃ駄目だ。場所を移せ、あの化け物をおびき寄せる!
『GRRRROARRRR!!』
向こうも、ボクひとり殺せず苛立っている。豆粒みたいな標的が大きくジグザグに動いてちゃ、狙いなんてそうそう付けられないものな。
(あの時と、同じだ)
目標が出来てキモチが一点に向いたからなのか。死す前の走馬灯を目にしているだけなのか。竜の一挙手一投足が、こちらを見やる目玉たちの動きが。とんでもなくスローモーションに視える。瞳の動きも。その周囲を走る血管も。次にどの足がどう動くかさえも。手に取るように解る。
(ここだよ。絶好のポイント)
そう言葉にしたが、唇は動いていない。まばたきも、息を吸って吐くのも、心臓を動かすことさえも忘れ、銃を握る右手にすべての神経を集中させる。
――BANG!
重たい引き金を気合で引き切り、左手を右の手に添え衝撃を殺す。弾は狙い通りに最短距離を進み、ボクの眼前・頭上に鎮座した『岩』の中腹を貫いた。
そうとも。はじめから竜を撃つつもりなんて無い。ボクの狙いはハナっからこっち。豆粒が怪物を下すのには、いつだって自然のチカラを借りなきゃでしょうが。
『GRORRRRRRR!!??』
空を飛ぶ竜よりも高くそびえる大岩が、音を立てて軋み始めた。もう少し刺激が欲しいか? 思う存分くれてやる。同じ場所にもう二発、下支えする接地面をこそぎ取る。
竜は。あの怪物は、パンゲアで死んだ者たちの怨嗟の集合体だ。生者を喰らい、その憂さを晴らす以外にすべきことは無い。だから、目の前でオブジェクトがどんなに破壊されようと、気に留めて回避するようなこともない。
昔、『外』でバイトをしていた時。テーブルの角にスネをぶつけて、その上に載った水をぶち撒けてしまったことがあったっけ。これも同じだ。支えを削られ、不安定になった岩が、ボクを狙い降下する竜目掛けて崩れ落ちて来る。
『ROARRRRRR!!!』
竜の動きも。舞い散る土埃も。何もかもが遅すぎて、ボクひとりがこの世界に取り残されたみたい。
崩れた岩の第一陣が竜の頭を引っ叩き、続く二陣三陣が雨あられとやつの体に降り注ぐ。ここから動く必要はない。逃げ切ったからだ。後はもう範囲外で眺めているだけでいい。
哀れ、十六つ目の怪物は自分よりも巨大なオブジェクトに呑まれ、それを墓標にし、二度と立ち上がらなかった。
・次回の更新は5/18(水)を予定しております。




