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【悲報】俺氏、ウォータースライダー滑ったら異世界来た

中学三年生、女子です。初めて異世界系書きます。青二才ですがよろしくお願いします。

 寿司屋に行ったら必ず食べるものと言ったらなんだ? マグロ? エビ? サーモン? いくら? ……大半がそう答えるのではないだろうか。だが俺は違う。俺は――

 かっぱ巻きしか頼まない!

 「かっぱ巻き」それは俺の人生になくてはならないものであり、俺と寿司屋の心を繋ぐ糸。あの青い雫したたるような新鮮なきゅうりと、口内に広がる酢飯の風味。そして黒々と光るしなった海苔。全てがマッチし、俺の舌をとろけさせるのだ。

 そんなかっぱ巻き。SNSで行われた「二十万人が投票した! お寿司人気ランキング」でランク外であった。そしてトップ三がサーモン、中トロ、うに。……どれも寿司界の王者たちだ。確かに旨いのは分かる。分かるが、なぜかっぱ巻きがモブの立ち位置にいるのだ。それが許せない。一口で食べられる手軽さ、財布への優しさ。美味しさプラスそれらも兼ね備えたかっぱ巻きだぞ? ! せめてトップ五には入るべきだと俺は思う。

「ねえ安土、聞いてる?」

 昼休み。売店で買った焼きそばパンを片手にお寿司ランキングを見て衝撃を受けていた俺を、現実に引き戻したのはその甲高い声だった。俺は顔を上げ、声の主の方を向く。

「ああ、聞いていない」

「はぁ、これだから根暗は。……クラスでプール行く件についてよ」

 声の主は佐野玲子だった。パンツが見えるほど短いスカートに、派手な髪色。見るからにスクールカースト上位。昨晩「コードピアス」の最終回を見て号泣していた俺とは違う世界にいるような人間だ。

 そんな彼女が俺をプールに誘っている。意味が分からなくて聞き返したら、ため息を吐かれて、やっと言葉の意味を理解した。

「マジで行っていいんすか?」

「は? 私だって誘いたくて誘っているんじゃないの。誘わないと面倒なことになるから誘っているのよ」

 おいおい、派手な見た目なくせにツンデレとかやめろよ。ギャップ萌えしちゃうだろ……――

「キモい、マジきもい。何その目? マジきもい」

 どうやらツンデレではなく、本当に俺が嫌いみたいだ。ここまで「キモい」を連呼されたら、さすがの俺でもへこむ。だがクラスのイベントに誘われたのだ、テンション上げて行こう。

「で、来るの?」

「まあ、行ってあげてもいいだろう」

「あっそ。どうぞご勝手に」

 そして佐野は去って行く。

 ツンデレなのは俺の方だった。

 ***

 ついに待ちに待ったプールの日が来た。女子の水着を拝めるのは至福だが――暑い。とんでもなく暑い。夏休みの外ってこんなに暑いのか? 冷房の効いた部屋でドキドキメモリアルをプレイしている俺には分からない。だが、ここまで来たら――

 「楽しむ」一択だー!

 俺は雄たけびを上げて、プールに飛び込んだ。俺のはしゃぎ様を見て、一部のパーリーピーポーたちは引いている。はは。スクールカースト上位共よ。ついに上位互換の時が来たぞ。

 まずはウォータースライダーからだよな。うん、そうだ。プールと言ったらウォータースライダーだ。周りの奴らは「薬でもやったのか」みたいな目で見てくるが関係ない。俺は疲れ果てているウェイ系共を横目に、ドヤ顔でウォータースライダーに乗り込んだ。

「わぁぁ」

 無駄に大きな声を出して滑る。どんどん滑る。滑って滑って滑りまくる。水が掛かって気持ちがいい。……ああ、夏って最高!

 ――ん? 

 しばらく経って、俺は異変に気付いた。いつまで経っても水中にドボーンしないことに。まだまだ滑る。尻が痛いほど滑っている。

 ――もしやウォータースライダー、徐々に伸びているのではないか?

 俺の脳内に、そんな疑念が広がった。ウェイ系共の嫌がらせか、年末にするドッキリ番組のターゲットに選ばれたか。

 不安と若干ワクワク。だがしばらくして光が見え、喜びと若干惜しい。

「わぁぁ」

 無駄に大きな声を出して滑る。光あふれるゴールへと滑る。そして光に包まれた。尋常じゃない眩しさに、思わず目をつぶる俺。目をつぶっていると宙に浮かぶ感覚を覚え、それが終わるとやっと目を開けた。

 たどり着いた場所。どこだったと思う? 水中? 普通そう思うだろう。……それが違うんだなぁ。

 ――そう、異世界!

「……って、はぁぁぁぁ! ?」

 俺は自然と無駄に大きい声が出た。その摩訶不思議な光景に驚いて。

 たどり着いたのは、紫色の空の下に立ち並ぶアンティークな建物、そして赤紫色のタイルの上を歩くのはカラフルな頭に猫耳を生やした人々、という謎の場所だった。俺は目を擦る。だが景色が変わっていなくてもう一度擦る。それでも変わらず、今度は頬をつねった。典型的な目の覚まし方だが、放心状態の俺にできることはこれぐらいしかない。

 そこでお次はそこらへんにいる人――いや獣? ……よく分からない物体に訊いてみた。

「ここはどこですか?」

 しばらく沈黙が流れた。「沈黙」はコミュ障にとって大敵。俺は眉を下げながら頭を掻く。すると相手はガタイの良い体を揺らして笑った。濁っていてどことなくひどい笑い声だ。

「おめぇさん面白れぇなぁ! ここがどこって『ジャガール街』に決まっているだろ。そういう冗談、俺は好きだぜ!」

 相手は俺の肩を掴んで威勢よく言った。俺はなぜ一体、わけの分からない街で、わけの分からない人種に好かれたのだろうか。

「……は、はぁ」

 自分から訊いたにも関わらず、その曖昧な反応しかできない俺だった。

 そして展開は不気味な道に突き進んだ。その後、なぜか相手が営んでいるという酒屋に招待され、そこでワインを出された。ついでに餅のような得体の知れない何かも。

「俺はカーダル。この店の店長であり剣士だ」

 彼は俺に出した餅のような何かを食べながら言った。客に出した食事をつまみ食いとはとんでもない店だ。だがそれ以上に”この店の店長であり剣士だ”がパワーワード過ぎてそれどころではない。

「……は、はぁ」

 俺はというとさっきからその反応だ。

 だって普通に考えておかしいだろう。クラスでプール来て、ウォータースライダー滑ったら謎の世界に来ているんだぞ? 

 そこで俺は途端に冷静になった。

 ――え、何? もしかして俺、異世界ファンタジーラノベの主人公になっちゃったってわけ?

 餅のような何かを手に取り考える。そして冷や汗が出た。

 俺、コミュ障だよ? これから青色と赤色の髪のメイド姉妹出て来ても上手く喋れないよ? 傍観者は何を期待しているわけ?

 頭の中をはてなマークがぐるぐる駆け回っている。

「おめぇさん、名前は?」

「……名前?」

 俺はオウム返し。

「俺たち友達だろう?」

 カーダルと名乗った男は黄ばんだ歯を見せて笑う。仮にここが異世界だと仮定して、異世界の奴らの慣れ親しさに俺は驚いた。

「安土ときっす」

「安土ぃ? なんじゃその名前! おめぇさん、すげぇなぁ!」

 カーダルは目を皿にして驚く。その驚き様に俺も驚く。

「安土だから祖先が安土桃山時代の人なのかもしれないっすね」

 俺は適当に言ってみた。するとカーダルは異国語を聞いたように、ぽかんという顔をした。こいつがただ単に馬鹿なだけなのか、やはりここが異世界なのかどちらかだ。そこで俺は異世界だと確信するために更に話を進めた。

「あ、そうそう。カーダルさんかっぱ巻き知ってます? きゅうりと飯と海苔の食べ物っすよ」

 さすがにかっぱ巻きを知らない日本人はいない。いたとしても、そいつは多分森の奥で暮らしている奴だ。

「知らねぇなぁ。そもそも"きゅうり”ってなんだ?」

 カーダルは首を極限まで傾げて答える。きゅうりの発音もおかしかった。

 ――やっぱり

 やっぱりここは異世界だ。かっぱ巻きを知らないだと? 反吐がでるぜ。

 そう確信したとき、俺は机を勢いよく叩いて立ち上がった。その音にカーダルと店にいた客は驚く。

「どうしたんだ? おめぇさん」

 カーダルが訊く。

「俺は――」

 俺はゆっくりと口を開く。そして吐き出すように言った。

「俺は異世界でかっぱ巻きを流行らせる!」




☆異世界で決心した安土だったが次回――! ?

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