第7話:首飾りについての質問
ルシアは刀で武装していた男の背中にまたがり、聖剣をその首筋に当てていた。おそらく、一瞬で聖剣を光の中から取り出したのだろう。その男は、ルシアの剣が怖くないのか、俺に犬歯をむき出しにして叫んでいる。
「あの奴隷たちは高かったんだぞ! どう責任を取る」
俺としては奴隷とされた彼女たちを救っただけだが、こいつらにとってはそれで金を稼いでいたのだろう。俺とまともに話し合いができるので切るのであれば、少しくらい手を差し伸べてやってもいいかもしれない。奴隷業は許さんがな。俺がルシアに指示を出す。
「ルシア、悪いがお前はそのまま、その眼帯の男を押さえていろ」
ルシアはその男に対して、油断を崩さないまま、笑みを浮かべて俺を見上げる。
「はい。ロード様。この男は私が抑えていますので、お好きなようにしてください」
俺はルシアに、分かったと返事をして、その地面にうつ伏せにされている男の前まで移動して、しゃがんだ。俺の視線がまだ高いが、それでも立っているよりはよいだろう。俺はさっそく、その男の顔を見ながら、問いかける。
「俺の質問に答えたら、お前に対する扱いを考える」
「ふざけんな!」
男がまた叫ぶので、もしかしたら交渉はできないかと心配になる。俺は、異空間にしまっておいた銀色の首飾りを取り出し、この男の顔の前に出す。男はわけがわからないようで、怪訝な顔をしている。
「この首飾りのことを知っているか?」
男は短く、知らないとだけ答えたので、俺は続けて質問した。
「では、この首飾が出土する迷宮に心当たりはないか?」
男はまたも、わからないと言った。俺はやはり期待外れだったかと思い、立ち上がる。
「質問に答えてくれたことは感謝する。俺は魔王ロードだ。改めてお前の名前を聞かせてほしい」
男は舌打ちをしながら、名乗った。
「俺は、ゲッシュだ。俺をこれからどうするつもりだ?」
男は必死に顔を上げて俺を見る。俺は考えていることを男に伝えた。
「いや、どうもしない。お前はすぐに解放する予定だ。だが、俺を殺そうとしたら、容赦しない」
俺は威圧するように魔力を開放し、男に見せつける。男は青ざめた表情になり、絞り出すように言った。
「……わかった」
俺は戦意を喪失したゲッシュを確認したのち、ルシアとミカエラに声をかけた。
「この迷宮での、すべきことは終わった。俺とルシアは魔王城に戻る。ミカエラ、お前は天界に戻るのだな?」
ルシアは拘束していた男から手をはなし、俺の隣に来る。ミカエラは俺とルシアを見ながら別れの挨拶をする。
「ええ、私はこの後、天界に戻ります。ロード様、このたびは私をお救い下さりありがとうございます」
俺に頭を下げた後、ルシアに向き直って、ルシアの手を取る。
「ルシア、助けに来てくれて本当にありがとう。うれしかったわ」
ルシアは首を横に振る。
「いいえ、あなたは私の親友だもの。助けるのは当然よ」
するとミカエラはルシアから手を放し、俺たち二人を見る。
「改めて、この度はありがとうございました。天界に戻り次第、国王ウルヴァリオンが得体のしれない商人からどのようにして、首飾りを手に入れたのか、また、その商人らしき者の情報についても集めてみたいと思います。わかり次第、お伝えします。ひとまずはそれでよろしいでしょうか? また、それ以外にもなにか恩返しできることがあるでしょうか?」
俺は、笑顔で対応する。
「いや、ひとまずはそれで十分だ。だが、また何かあれば、その時に改めて、お前に相談したい。その場合は、どうすれば良い?」
ミカエラはかわいらしく、自分の耳をトントンと叩いて言う。
「先ほど、お仲間の方にしていたみたいに、魔法通話でも大丈夫です。もしくは、私の頭に直接語りかける、思念通話でも問題ありません」
俺は、首を縦に振り
「わかった、その時は思念通話でお前に語り掛けるとしよう。何かあれば、お前からも直接、俺やルシアに繋げてきてもいい」
そういって、俺はミカエラと握手をした。握手を交わしたあと、俺は少し後ろに下がって、転移魔法陣を展開した。ルシアは俺の横に来て、腕を絡めてくる。また、彼女の健康的な柔らかい双丘が俺の腕に当たるが、もう慣れてきた。ミカエラはそれを見て、クスクスと笑っている。ミカエラとルシアは互いに手を振っている。
「では、魔王城に戻るぞ。またな、ミカエラ。テレポート」
そうして、俺たちは大勇者ブレイズたちによってひどい目にあわされた、大天使ミカエラとその奴隷たちを救助したのだった。