第5話:旧シエラ迷宮攻略
俺たちは旧シエラ迷宮に向けて飛んでいた。ミカエラを中心にし、その斜め後ろを左右に分かれて俺とルシアが飛んでいた。
「この速度で、あと30分程度で旧シエラ迷宮につくのか?」
「はい、ロード様。以前私が確認した時は、ここからおよそ30分ほどの距離でした」
俺の質問にミカエラが答えた。どうやら彼女は過去に訪れたことがあるようだ。
2人を見ると、ルシアとミカエラはその綺麗な天使の翼を広げていた。ルシアは漆黒の翼、ミカエラは純白の翼である。今まで気にしていなかったが、俺の知り得る範囲で、天使たちは全員白い服装だ。彼女たちは2人とも白いドレスを身に付けていて、どちらも胸元が開けたドレスを着ており俺としては時々目のやり場に困る。
現在はシエラ奴隷市場として奴隷たちの売買が行われているらしい。すると音もなく突然、異界のゲートが現れる。久しぶりにこの目で、直接見たが、何よりも驚くべきことがあった。
「魔力を出していないだと!」
俺は今の今まで、気づけなかった自分に腹がたった。1年前から、あいつらを倒してきたというのに、何故気づけなかったのか。慢心していた。楽に倒せたことから、あいつらが魔力を持っているか否かなど気にも留めていなかった。ルシアも驚いているらしく
「まさか、本当に魔力を出していないようですね。ミカエラあなたは知ってた?」
「いいえ。知らなかったわ。あんな禍々しい見た目をしているにもかかわらず、魔力を微塵もだしていないなんて予想外だったわ」
俺は平静を取り戻し、2人に告げる。
「まあ良い。幸いなことにゲートは出現したばかりだ。《インヴェーダ》どもの数は少ない。ここは俺が――」
対処しようと思ったが、ルシアから声がかかる。
「お待ちください。ロード様。ここは私に任せて頂けないでしょうか?」
ここ最近、俺ばかり《インヴェーダ》を討伐していたからな。ルシアにもたまには討伐してもらうか。彼女の実力であれば、たかが1万にも満たない《インヴェーダ》など楽勝だ。彼女はこの1年必死に努力していたから、一年前の彼女の実力とはまるで違う。俺はルシアに顔を向ける。
「わかった。お前に任せる」
ルシアが《インヴェーダ》に向かって飛んでいく。《インヴェーダ》の集団の中央の上空約1000メートルに停止し、魔法を行使させていく。ルシアに大量の魔素が集まり、魔力が練られ、彼女の右手に収束する。そうして、彼女は右手を下に向け魔法を発動した。
「潰れなさい。カタストロフ・グラビティ」
その瞬間、《インヴェーダ》の周辺の空気が重くなり、地面にクレーターができる。《インヴェーダ》も当然、クレーターのシミとなって消えた。異界を繋ぐゲートは粉々に崩れ去った。それを見たミカエラは感嘆の声をあげた。
「はぁ、すごいわね。いったいいつの間に。あんな魔法を。もしかしてロード様がお教えになったのですか?」
俺は手を左右に振りながら答える。
「いやいや、違うな。俺は教えてなどいない。ルシアの前で魔法を何度か使ったことはあるが、それだけだ。彼女が勝手に覚えただけだ。実に優秀だな、ルシアは。彼女にはいつも助けられている」
ミカエラは、ふふっ、と笑い声を漏らす。
「では、それもロード様のおかげですわね。彼女は昔から人一倍、正義感が強くて、忠誠心が強い子でしたから。きっとロード様のお役に立ちたかったのでしょう。先ほどの言葉、ぜひともルシア本人に言ってあげてください。絶対に喜びますので」
俺もこの前褒めたばかりだが、もっと彼女を褒めた方がよいのか少し悩む。
「うーん、この前も褒めたが、もっと褒めた方が良いのか?」
俺が、唸りながらミカエラに聞くと、彼女は嬉しそうに綺麗な金髪を揺らす。
「はい! 彼女は天界ではあまりいい思いをしなかったでしょうから、その分もロード様には褒めていただけたら、私も嬉しいです」
天界でのルシアがどのような扱いをされていたのか、俺は深くは知らない。この話題はまた別の機会の方が良いだろう。今はそれよりも、勇者たちに奴隷として使い捨てられた奴隷を救助する方が優先だ。
「ミカエラ、ルシアと合流してシエラ迷宮まで急ぐぞ。《インヴェーダ》と遭遇しない限り、寄り道はしない」
ミカエラは頷き、2人でルシアの入り場所まで向かった。その後は、幸いトラブルはなく、シエラ迷宮上空までたどり着くのだった。
「ここがシエラ迷宮か」
その姿を確認して俺はため息を付きたくなった。山の中腹に、いくつかの穴が開いており魔物たちが出入りしている。つまり、魔物が住んでいる。魔族であれば会話可能だが、魔物はインヴェーダと同じく、コミュニケーションが取れない。ルシアも嫌そうに言う。
「魔物がいるところに人間の奴隷を住まわせるなんて一体どういう神経をしてるのかしら」
ミカエラも浮かない表情で淡々と言った。
「まあね。それは私も思ったことよ、ルシア。それよりもすぐに奴隷たちを解放しましょう」
俺はミカエラの意見に賛成した。
「ああ、そうだな。思った以上に魔物が多い。永年、シエラ奴隷市場としてこの迷宮が利用されているならば、奴隷たちは安全かもしれないが、すぐに救助しよう」
俺は旧シエラ迷宮――現在のシエラ奴隷市場という迷宮に向かって、魔法を放った。
「アンチ・ストラクチャー・ムーブメント」
「なるほどね、それで私が軟禁されていたお城を部屋のランダム移動を止めたのね」
ミカエラが納得したように言うと、ルシアが自慢げに胸を張る。
「そうよ、ロード様にかかればAランクの迷宮の攻略なんて楽勝よ」
ミカエラは苦笑しているようだ。俺は2人に告げる。
「これから迷宮にいる勇者の奴隷とされていた者たちを救助する。魔物は見つけ次第、処理していく。人間達については、催眠暗示をかけて、彼女たちのいる場所まで案内させる。基本的に人間と魔族は殺さない。いいな?」
「「はい」」
2人が返事したのを確認して、俺は迷宮の入り口を管理している男の前に降り立った。その男は頭にバンダナを巻いており、その軽装からもシーフなどの冒険者のようにも見えるが、幸いここには、魔物がいない。
「お前は! え……ミカエラ様がなぜここに?」
冒険者の男は魔王である俺に警戒したが、大天使と一緒にいることで混乱しているようだ。まあ無理もない。魔王・大天使・堕天使の3人がいれば混乱することもあり得るだろう。申し訳ないと思うが、今は急いでいるので、俺はこの男の混乱が収まるのを待たずに、言葉をかけた。
「悪いが時間がない。お前たち人間は殺さないから、俺に従え」
言霊でその男を支配する。言霊で支配さえすれば、混乱していても強制的に落ち着かせることも可能だ。肉体はもちろん、精神干渉こそがこの魔法の真価を発揮するところだからだ。
「承知しました」
早速俺が要件を尋ねる。
「ここに連れてこられた、勇者の奴隷たちはどこにいる? 案内してくれ、魔物はこちらで片付けるから最短距離で頼む」
虚ろな目で冒険者の男が答え、迷宮内部に向けて歩いていく。俺たちもそれに続く。
「承知しました。こちらです」
迷宮内は洞窟のようで、俺たちの足音が響いていく。加えて、ゴブリンたちの声もよく通っている。先ほどから、キーという音が響いてくるから、ゴブリンの集団がいるのだろう。さらに奥に行くと腐臭が漂ってきた。俺が支配最した冒険者の男以外の全員が顔を歪める。ルシアが我慢しきれず、道案内の男に聞いた。
「ねえ、本当にここが最短距離なの?」
「はい。近寄りがたい方が良い隠れ家になると考えていまして。高ランク冒険者などによって、迷宮の構造が固定化されたときは、個々の近くに固定されるんです」
俺が頷いて、100メートル先に現れたゴブリンの集団を排除していく。
「なるほどな。フロストノヴァ」
進路上のゴブリン集団はすべて凍らせた。すでに凍死している。冒険者の男は気にせず、前へと歩いていく。そうして、俺たちは奴隷たちがいるとされる部屋の前についた。男が頭を下げて報告する。
「こちらの部屋が、奴隷たちのいる部屋とされます。」
誰も見張りにいないことが気になり、俺は質問する。
「普段から見張りはいないのか?」
「いいえ、普段は見張りがいますが、外界から侵入者や冒険者が現れた時は、急遽見回りすることになっています。その場合は、魔物がいない親友しやすいルートから見回りします」
「では、俺たちが遭遇しなかった理由はなんだ?」
「はい、恐らくは、魔物がいるルートを進んだからで合わなかったのでしょう。まだ、歩いて10分もたっていませんから、そこまで巡回が来なかったかもしれません」
俺は、顎に手を当てて納得する。
「わかった。ありがとう。お前は、ここに待機していろ、冒険者たちが来たら、大声で俺に知らせるように」
奴は再度頭を下げた。
「承知しました」
そうして俺たちは比較的にスムーズに、今回の目的である彼女たちの居場所までたどり着いたのだった。
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