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第4話:国王との触れ合い(物理)

「どうしたのじゃ、勇者ブリーズ。立ち上がるのじゃ! そして我を守るのじゃ!」


 俺が言霊(コトダマ)で支配している勇者ブリーズに対して、国王が必死に命令している。

 俺が魔力を込めて命令したのだ。

 当然、この国王では、俺の言霊から支配を奪うことはできない。


「無駄だ。お前の乏しい魔力では、俺がブリーズにかけた支配を解くことはできない」

「黙るのじゃ! 我はこの国の国王、ウルヴァリオン・アプラ3世であるぞ!」


 怒りの眼差しを俺に向けながら、ウルヴァリオンが唾をまき散らすかのように大声で叫ぶ。俺と敵対する人間はどいつもこいつも冷静に話しができないな。俺は、最後にもう一度だけチャンスを与える。


「俺はお前を殺す気はない。だから少しは冷静になって俺と話さないか?」


 俺の言葉を聞いた国王ウルヴァリオンはますます怒る。緑ではなく赤を基調とした服を着ており、金色の王冠を被っている。赤い服を着ていることも相まって、その激昂ぶりはまるで火山が噴火しているかのようだ。


「貴様、この我が冷静じゃないと申すか!」


 俺はこいつもダメそうだと諦め、言霊による支配を行う。


「もうよい。お前は落ち着け。そして俺の質問に答えろ」


 国王ウルヴァリオンはいやらしい笑みを浮かべ笑う。


 (なに?! 俺の言霊がこの国王に通じないだと!)


「ワーハッハッハッハッ! 魔王ロード。貴様が特殊な言葉で、相手を支配するのはすでに知っているのだ! ゆえに我は、この首飾りで対策済みなのだ!」


 玉座にいる国王ウルヴァリオンはとても自慢げに、俺にその首飾りを見せてくる。まあ良い。言霊が効かぬならば、力ずくでねじ伏せればよい。そう判断し、俺は漆黒のコートを(ナビ)かせ、一歩、また一歩と歩み寄る。


「な、なにをする気だ!」


 俺が国王ウルヴァリオンに近づくと奴は急にうろたえたように声を出す。


「見てわからぬのか? 言霊が貴様には通用しないようだ。ならば力づくで白状させるだけのことだ」

「ま、待つのだ!」


 やはりこの国王はバカなのだろうか?

 既にチャンスは1度与えたのだ。

 それを自ら断っておいて、今更、俺に待てと言うなど、呆れるしかない。


 俺は奴の言葉を気にせず、進む。

 ますます奴の顔色は怯えの色が強くなる。

 俺が奴の眼前までたどり着き。奴の首をつかみ上げる。


「やっ、やめぇ、やめ……ろ……」


 俺は、国王ウルヴァリオンをルシアと大天使ミカエラがいる前に放り投げた。奴は何回か転がり、やがて止まった。


「魔王ロード様の慈悲を無視して、命があるのだから喜びなさい」


 見下すような笑みを浮かべて、ルシアが国王ウルヴァリオンを踏みつけた。


「ぐふっ」


 奴はルシアに背中を踏まれたまま、ミカエラをみ助けを乞うように、手を伸ばす。


「お、お願いします。大天使ミカエラ様、我を、私を助けてください」


 ミカエラは悲しそうに瞳を閉じて告げる。


「あなたも私が助けてとお願いした時は、助けてくれませんでしたね。幸い、ロード様もルシアもあなたの命までは奪うつもりはないようですので、そのまま反省してください」


 国王ウルヴァリオンの顔が絶望に染まる。

 ルシアは楽しそうに告げる。


「喜びなさいな。あなたは魔王ロード様から命だけは奪わないでもらえるのだから。我が主、ロード様に恐怖とともに歓喜に打ち震えるがいいわ」


 俺は、ルシアとミカエラの二人の元まで戻り、踏みつけられている国王ウルヴァリオンに尋ねる。


「いくつか聞きたいことがある」


 俺が低い声で告げるとウルヴァリオンは僅かに首を振る。


「わ、わかった。なんでも答える」


 本当は、《インヴェーダ》の脅威についても人類と話し合って、共に戦いたい。だが俺が強制的にこいつの精神を支配して、無理やり《インヴェーダ》共と戦わせても、今後の人類と魔族の共存共栄は致命的に望めなくなる。


 共存など、他の魔王たちが反対するだろうが、それでも俺は、この世界を守るために人間達とも協力したい。それがこの世界が所属する並列世界の管理者ソラリスとの約束でもあるのだから。何より自分の世界が異界からの侵略者によって、滅ぼされるのにそんな世界で魔王を名乗っていても意味がない。だからこそ、こんなことはさっさと解決させて、俺は《インヴェーダ》との闘いに専念したいのだ。


 俺はそう思いつつ、質問を始めた。


「まずは大勇者ブレイズが妊娠させた女性たちは、奴隷市場に売られたらしいが、彼女たちは今どこにいる」

「しるか!」


 こいつはまだ俺に嘘が通用すると勘違いしているようだ。


「ルシア、こいつの背中から足をどけてやれ」

「はい、ロード様」


 ルシアから解放されると理解した国王ウルヴァリオンが安心した表情を浮かべる。だが、甘い。


「グハァ」


 起き上がろうとした背中を俺が踏みつけてやる。ルシアは骨折させないように手加減していたが、俺はもう少し力を加える。


「ごほっ」


 国王ウルヴァリオンが血を吐く。


「死にたくなければ、さっさと喋れ。その傷では、早く治療しないと死ぬぞ?」


 本気で焦ったように、血を吐き出しながら答える。


「場所なら……知っている」


 やっと、答える気になったようだ。


「ほう、どこだ?」

「あ奴らは、シエラ奴隷市場にいる」

「シエラ奴隷市場ですって!」


 大天使ミカエラが驚きの声をあげた。


「なにかまずいの?」


 心配そうにルシアがミカエラに尋ねた。恐らく何か良くないことがあると、ルシアがミカエラの表情から悟ったのだろう。ミカエラは少し落ち着きを取り戻す。


「ええ、そこはこの国の中でもかなり警備がきびしいのよ」


 俺が、ミカエラに安心させるように言う。


「安心しろ、この世界の人間は俺の脅威にすらならない」


 だが、ミカエラの暗い表情は変わらない。ゆっくりと口を開く。


「……そこのシエラ奴隷市場はもともと迷宮で、かつてはシエラ迷宮と呼ばれていました」


 俺は舌打ちをして、同意する。


「確かにそれは面倒だな」


「や、やめ、ごふっ」


 ボキッという音と共に、国王ウルヴァリオンがさらに血を吐く。


 どうやら、少し力んでしまったようだ。


「済まない。思わず、力が入ってしまった」


 俺は形だけの謝罪をした後、ヒールをかけてやった。このままでは、すぐに死んでしまうからだ。少しだけ治療してやる。


「どうだ、これで少しは楽になっただろう?」


 国王ウルヴァリオンは己の血で汚した床の上でもがきながら、俺に懇願する。


「お願いします。なんでもしますから、私を殺さないでください」


 もはや国王としての威厳の跡形もないが、俺にとっては好都合だ。この方が、すんなり答えてくれるだろう。ケガを完全に治療してやる。


「ヒール」


 優しい光が国王ウルヴァリオンを包み込む。


「もうこれで、答えられるだろう。さっさと答えろ。大勇者ブレイズによって妊娠させられた奴隷たちは、その旧シエラ迷宮にいるのだな?」


 俺に踏みつけられたまま国王が肯定する。


「はい。彼女たち奴隷は旧シエラ迷宮にいます。明日の正午に彼女たちを購入する貴族たちが引き取りに来ます」


 俺は、その迷宮を知っているミカエラに尋ねる。


「ミカエラ。その旧シエラ迷宮までは、ここからどのくらいでたどり着く?」


 ミカエラは己の頬に手を当てる。


「そうですね。ここから空を飛んで、約1時間くらいです」

「では、今はまだ夕暮れ時だから、時間的には余裕だな」


 俺は、国王を踏みつけたまま、もう一つ確認する。


「では、もう一つ質問だ。貴様のその首飾り、迷宮から出土したというのは、その宝石の部分だけか?」

「いいえ、これは、首飾りごと出土したのです」


 ルシアが疑問を口にする。


「ロード様、その首飾りについて何か疑問に思うことが、おありなのですか?」


 俺は頷く。


「ああ、通常の迷宮であれば、魔石くらいしか出土しないはずだ。それが、首飾りごと出土したのが、どうも気になってな」


 ルシアが冷静に指摘する。


「ですが、冒険者たちが潜ってそのままなくなり、彼らの遺品の1つがその首飾りだったという事はないのでしょうか?」


 俺が、疑問の中心となる部分を打ち明ける。


「この首飾りには、正確には魔石を除いた部分だが、そこから魔力を微塵も感じない」


 ルシアとミカエラが目を見開く。


「確かにこれは、首飾りの部分からは全く魔力を感じないですね。あなたもそう思う? ミカエラ?」


 ミカエラもルシアに賛同する。


「そうね、正直言われるまで私も気が付かなかったわ。魔石からは、魔力を感じていたから、普通だと思っていたわ」


 俺は2人の意見を聞いた後、改めて、国王を問い詰める。


「おい、これは、誰が見つけたのだ? 

 誰から手に入れた? 

 知っていることをすべて答えろ」


「わ、わかった!」


 国王は狼狽(ウロタ)えながら知っていることを話していく。


「それは、冒険者が見つけたと聞いた! 私が手に入れたのは怪しいフードを被った者だ! 顔までは見えなかった!」


 ルシアが目を細めて威圧する。


「あなた、ふざけてるの?」


 国王は怯えながら、全力で否定する。


「違う! 本当だ! 私はこれしか知らないんだ! 怪しくても魔王の言霊対策になるから買ったんだ。だから、そのフードの奴の顔も知らない。問い詰めたら、では要らないのか脅されたから、顔までは分からなかったんだ」


 ミカエラは困ったような顔になりながら、俺たちに提案する。


「その怪しい人物なのだけれど、旧シエラ迷宮に連れていかれた奴隷たちを解放したあと、私の方でも天界に戻って他の天使たちに聞いてみるわ」


 ルシアが首をかしげて、確認する。


「いいの? ミカエラ?」


 ミカエラは笑顔で頷く。


「ええ、私は助けられているだけで全然お礼が出来ていません。せめてものお礼として、このくらいは役に立たせてください」


 俺としてはミカエラは十分に役立っていると思い、彼女を労う。


「そんなことはないぞ、大天使ミカエラ。お前は十分役に立っている。

 本来、天使は魔族に敵対しているが、お前はここまで俺たちを十分手助けしてくれた」


 ミカエラは頭を下げる。


「とんでもありません。ルシアは私の親友でしたし、その彼女を助けてくださいました。それだけでも十分ありがたいのに、今回私までロード様はお救い下さいました。これはほんのお礼の気持ちだと思って下さい。これでも、まだ返しきれないくらいだと思っていますので」


 俺は踏みつけていた国王ウルヴァリオンから足を離し、きちんとミカエラと向き合う。


「ありがとう、ミカエラ。それでは、旧シエラ迷宮に勇者の奴隷となった女性たちを助けた後は、天界に戻ってそのフードを被った人物について調査してほしい。わかったら、知らせてくれると助かる」


 俺は手を差し出す。

 ミカエラも手をだし、俺と握手する。


「承知いたしました。ロード様」


 俺は、這いつくばりながら、逃げようとしていた国王ウルヴァリオンの首をつかみ上げる。


「悪いが、この首飾りを俺にくれるか? そうすれば、お前はここから解放する。当然、命の保証もしよう」


 国王ウルヴァリオンは思いっきり首を縦に振る。


「わ、わかった! だからもう許してくれ!」


 その返答に俺は満足する。


「良いだろう。お前を許してやる」


 国王ウルヴァリオンは首飾りを俺に渡した後、俺の視界から消えるように逃げていった。


 それを見たルシアは笑顔になって、俺とミカエラに言った。


「それでは、クズ勇者に妊娠させられ、捨てられた彼女たちを助けに行きましょうか」


 そうして俺たちは、王城から立ち去り、旧シエラ迷宮へと向かった。


最後までお読みいただきありがとうございます。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでOKです!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] インヴェーダの侵攻から世界を守るために魔王が様々な手を尽くす。 非常に斬新で面白いストーリーだと思います。 [一言] 応援しております。 これからも頑張って下さい!
[良い点] 新たな視点からのファンタジー。 とても面白い、と思いました。 魔王ロードの純粋に守りたい、という気持ちは素直に感激したほどです。 いい作品に出会いました。ありがとうございます。 [一言…
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