第26話:波乱の幕開け
「では、早速依頼を受けたい。向こうで確認すれば良いのか?」
エミリーは笑顔で首肯する。
「はい。向こうの壁に依頼内容と、推奨ランクの記載された紙が貼られています」
そうして、彼女が指さした方向を見ると確かに大量の紙が重ならない程度に、びっしりと張られていた
「あそこか」
俺が場所を確認して、呟くと《ゴールデン》の片割れから声がかかった。
もとい、正確には、金色の鎖帷子を付けた兄の方だった。
「おう! これからお前も冒険者か! オレはこう見えても、Cランク冒険者だからな! わからないことは何でも聞いてくれよ!」
堂々と言っているが、Cランクだった。俺は内心でため息を吐きつつも、わからないことをいくつか質問していく。
「まずは、Cランクと言ったが、お前はどのくらい強いのか? 少しだけ手合わせ願えないか?」
実際に、Cランクの冒険者がどの程度の実力なのかこの目で確認したいと思って聞いたが、ゴルドは堂々と
「それは遠慮する! 見ての通りオレはこの体型だからな。戦闘には向かないのだ」
そう言いながら、己のでっぷりと膨らんだ腹を叩きながら断ってきた。
何故こいつは冒険者なのか、俺には疑問だな。
まあ、それ以外に聞きたいことは残っている。
それを聞くことにしよう。
「では、他の質問だ」
「よいぞ! このオレの知恵を授けてやろう」
俺は、気にせず質問を投げた。
「では、ここの依頼書には、『《インヴェーダ》討伐の応援依頼』と書かれているが、この《インヴェーダ》とは何なのだ? 何かのモンスターなのか?」
何がきっかけで、俺の正体がバレるかもわからないからな。念のため、最初は《インヴェーダ》についてどの程度周りの人間たちが知っているのか、把握しといた方が良いだろう。
「うむ、そうだ。それは最近世界各地で大量発生しているモンスターだそうだ」
ゴルドは気分がよさそうなまま、言葉を続ける。
「オレも何度か見たことがあるが、最悪な化物どもだ。Aランク冒険者でも、単独ではほぼ負ける。お前も気を付けた方が良いぞ」
なるほどな。Aランク冒険者でも単独では負けるのか。まあ、俺に挑んできた勇者も大したことなかったから、Aランク冒険者でも苦戦するかもしれんな。
正直、勇者でどのくらい《インヴェーダ》と戦えるのか見てみたいが、それは今後確かめることにしよう。
「わかった。ありがとう。それでは次の質問だ。このクエストは、推奨ではなく、必須ランクB以上とあるが、俺は受けることができないのか?」
ゴルドは、俺の肩に手をポンポンと叩き、首を横に振る。
「やめておけ、冒険者になって活躍したい気持ちはよくわかる。でもな、まずはしっかりと自分の力量を把握することが大切だ」
コルドはそう言って、別の紙を指差した。
そのクエスト内容は、『ビッグスライムの討伐』だった。
「ええぇ~~。ビッグスライムですか?」
シズクが嫌そうな声を上げる。俺が、左隣にいるシズクに顔を向けながら尋ねた。
「シズクは嫌か?」
シズクは遠慮がちに答えにくそうな表情をしてから答えた。
「は、はい。できれば、スライム系は嫌です」
ゴルドからありがた迷惑アドバイスが届く。
「いや、お前たちはまだFランク冒険者になったばかりだ。本来なら、単純なスライムが一番安全なのだが、お前たちは簡単すぎるよな気がしてな。だから、Dランク相当のビッグスライムにしたのだ。まずはこれを受けると良いぞ、なんならオレたち『ゴールデン』がサポートしてやろう」
俺は、躊躇せず言った。
「断る」
俺もビッグスライムを倒したことはあった。というか、何度か《インヴェーダ》を殲滅するときに、ビッグスライムを含めた魔物は巻き沿いにして倒していいた。
先日の《インヴェーダ》との戦闘によってシズクの実力も知った俺からすると、楽勝すぎる。
できれば俺の使命とも重なる『《インヴェーダ》討伐の応援依頼』を受けたいのだが、どうすればよいか。
俺がそう考えていると、ゴルドから声がかかった。
「強情だな。だが、嫌いじゃないぜ。いやますます気に入った!」
俺はまた面倒な奴に絡まれそうだと思ったので、無視し続けることに決めた。
そして、俺が再度『《インヴェーダ》討伐の応援依頼』の内容を確認していると、例外事項を見つけた。
紙の下の方にこう記載してある。
――ただし、Cランク以下でも『飛行魔法』を使用できるのであれば、参加は可能。だが、クエスト中の死亡および、負傷した場合の治療費用や見舞金は、ギルドは完全に負担しないものとする。
「よし、これにするぞ」
そう言って俺は、『《インヴェーダ》討伐の応援依頼』の受けるため、それを手に取った。
「おい、正気か! 活躍したい気持ちは分かるが、今はまだやめておけって、な? いくら才能があっても、最初からそれはリスキーだぜ?」
俺が無視していたのにも関わらず、ゴルドは気にすることなく話しかけてきた。これ以上、無視するのもかわいそう思えてきたので、返答する。
「気遣いには感謝する。だが俺たちは大丈夫だ」
ゴルドは「はぁ~」ため息を付いて、ドンと己の拳のを自分の胸に当てて、堂々と言ってきた。
「ならば仕方ない! このオレも助太刀するぞ!」
「いや、その必要はない。気持ちだけ受け取っておこう」
「遠慮するな! これも何かの縁だ。オレは勝手に後ろからついていくことにしよう! 気にしなくてて良いぞ」
これ以上してもきりがないと思っていたが、向こうから気にしなくて良いと言ってくれたの助かるな。
これで、気にかけず行動できる。
俺は、その紙を受付のエミリーのところまで持って行った。
エミリーは不安げな表情で俺とシズクに問いかけてくる。
「あの、ロイドさんとシズクさん……」
なんとなく言われそうなことを理解しているが、シズクが相槌を打つ
「やはり、受けられないんでしょうか?」
エミリーは首を横に振り答える
「いえ、受けられますが、いくら何でもこのクエストは……。失礼ですが、お二人は飛行魔法が使えますか?」
「無論だ。何ならここで見せても良いが」
そう言って飛行できるのを見せようとすると、レティシアの声が直接、頭の中に響いた。
『奴らが来るわよ。気をつけなさい!』
その瞬間、冒険者ギルドの中まで
――バァン
という轟音が鳴り響いた。




