第25話:魔王様、Fランク冒険者になる!
そこは、なんというか金ぴかだった。
「ここが、冒険者ギルドなのか?」
俺は思わず言葉を漏らしてしまった。シズクに至っては、驚きのあまり、目を丸くしている。
「すごいですね。扉とか外観だけかと思いましたが、中はもっと、目が痛くなるくらい装飾されていますね」
「ここって、どこかの王族の部屋に思えてくるわね』
レティシアまでこの反応だとするならば、きっとこの冒険者ギルドだけが以上に豪華なのだろうと俺は思い込むことにした。
俺とシズクが呆然としていた間に近づいてきた受付の女性が声をかけてきた。赤い宝石で彩られた髪留めで、ウェーブのかかった長い金髪をまとめた女性だ。香水なのか、甘い香りを漂わせてくるが、ギルドの受付女性だったらしく業務的な口調で聞いてきた。
「いらっしゃいませ、本日はどのような依頼でしょうか?」
俺は、首を左右に振って答えた。一応初対面なので、最低限丁寧には受け答えしようと心得ながら返答した。
「いえ、俺は冒険者登録をしようと思ったのですが、可能ですか?」
その瞬間、その金髪の女性が頭を下げた。その反動で髪と胸を揺れたが、俺はそこまで気にならなった。この一年近くある意味で、ルシアによって精神的に鍛えられたおかげだろう。
「申し訳ございません。そのお姿を見て、てっきりギルドに依頼をしに来た方だとばかり思いこんでしまいました。改めて、申し訳ございません」
やはり、鎧ではなく旅人風の布地の服装ではそれっぽく見えなかったのかもしないな。俺は手を左右に振りながら答える。
「いえいえ。気にしないでください」
『まあ、確かにその恰好じゃ、仕方ないわよね』
レティシアが思念通話でそんなことをつぶやくように言ったが、俺はその通りだと思った。
さらに言えば、ここは冒険者ギルドのはずだが全くそうは見えないのだ。冒険者特有の土臭さとか、血生臭さとかそういうのをまるで感じられない。その代わりに、酒臭さが漂ってくる。
改めて見渡すと、受付から離れた隅の方で、堂々と丸テーブルに座っている親父の二人組がいた。彼らは腹が出で髭も生やしており、双子のようにそっくりだ。奴らは、ギルドの中にあるテーブルに腰かけて、酒を飲んでいる。
本当にここは、冒険者の集まりなのか疑問に思う。
「プハァー! やっぱり稼いだ金で飲む酒は最高だな!」
「そうだな! ハハッ」
『ここって冒険者ギルドよね?』
俺はレティシアが言いたい気持ちは良く理解できた。
『そのはずだ。ここは、冒険者ギルドのはずだが』
シズクが相槌を打つように答えた。
『でも、酒場みたいですね』
『ああ、そのようだな』
改めて受け付け嬢に確認した。
「ここは冒険者ギルドであっているのですか?」
「……ええ。そうです。一応、彼らも冒険者なのですが……。申し訳ございません」
とても、気まずそうに金髪の受付嬢は背中を小さく丸めて、俺に謝ってきた。
「なぜ、恥ずかしそうに謝るのだ! エミリー!」
酒を飲んでいた双子らしき片割れの1人が勢いよく立ち上がった。その勢いでギルドの床がこぼれた酒で汚れる。
奴は床を汚したことなど気にせずに、いきなり名乗りだした。手の親指を自分の胸元にクイクイと向けながら存在感をよりアピールしてくる。
「このオレ、ゴルドは立派な冒険者なのだ! きちんと受けた依頼は達成しているぞ!」
そのタイミングで、交代するかのように顔の似ているもう一人も立ち上がった。
「おうともさ! この我、デンも立派な冒険者なのだぞ! だからこそ酒を飲んでも許されるのだ!」
最初に立ち上がったゴルドが代わって開き直る。
「むしろ、いつでも緊急依頼を受けられるように待機していると思って感謝してほしいくらいだ! そうであるな! 弟よ!」
やはり双子と思ったやつらは兄弟だったようだ。そしてこいつらはかなり太々しい性格をしている。
「うむ、我らはいつでも準備万全だ!」
俺は、思わず声をかけてしまった。
「それで、お前たちは冒険者というのは本当なのか?」
「「当然! そしてっ……!」」
奴らは寸分のズレなく同時に答えた。そのまま兄弟同士で手をつなぎ、大きな腹を揺らしながら、もう片方の手と両足を大きく広げた。
「「オイラたちは! 二人合わせて、『ゴールデン』だ! ……ハァ~、ハァ~」」
名前からとったのだろうが、2人の装備も金色の鎖帷子のようなものを装着していて、名前も装備も派手に感じる。
そして、奴らなりのポーズが決まったあと、息切れしていた。息切れまで完全ぴったりだった。ここまで息の合う双子もいないだろうと逆に感心していた。
俺が視線をそらし、さっさと冒険者登録しようと思ったのだが、奴らはそれを許さなかった。二人は別々に左右から俺に近づてきて、なれなれしく声をかけてきた。
「話は聞かせてもらったぜ! 俺に任せな!」
何を任せればよいのだろうか? 正直不安しかないが、上機嫌ならいろいろと有益な情報を教えてくれるかもしれないので尋ねてみるか。
「では、俺も冒険者になりたいのが、どうやってなるのか教えて欲しい」
すると、双子のおっさん2人ではなく、目の保養ににもなる受付嬢が率先して答えてくれた。
「それは私がお答えします!」
話す機会を奪われた双子のおっさん冒険者たちは不満そうだ。
「せっかく話そうと思っていたのに」
「せっかく冒険者仲間かつ飲み仲間が増えると思ったのが」
金髪の受付嬢エミリーが口をとがらせてゴルドに注意する。
「ゴルドさん! あなたは最近飲みすぎはありませんか! しかも冒険者ギルドで飲むのは止めてくださいとさんざん言っているではありませんか!」
今までのストレスを発散するかのように、すごい剣幕でまくし立てていた。それには、さすがに二人は反省したようだ。飲み終えた空の容器をテーブルに置いてから、兄のゴルドがエミリーに向かって頭を下げていた。
「すまぬ。今後しばらくの間は気を付けよう」
「しばらくじゃなくて、ずっと! 気を付けてください」
正直なのか、豪胆なのか、はたまた誠実なのかはイマイチ掴めないが、その答えにさらにエミリーが厳しく言った。
「「はい」」
そうして、エミリーに叱られた二人は自ら進んで、酒で汚したテーブルや床を掃除していた。
「それでは改めてまして! ようこそ冒険者ギルドへ!」
場を仕切り直すために、わざわざ受付のカウンターまで移動した後にエミリーが明るく言った。俺もようやく冒険者登録が完了できると内心喜びつつ、それを顔に出さず丁寧に答えた。
「ありがとうございます。それでは、具体的に何をすればよいのしょうか?」
エミリーは笑顔で「少々お待ちください」良い、カウンターの下から水晶を取り出した。透き通っていてかなり綺麗だ。
「それでは、この水晶に触れて頂けますか? 保有できる魔力量に応じて、水晶の色が変化しますんで、暫定的に冒険者の素質を判断できます」
なるほど、水晶によって魔力を可視化できるのは便利そうだな。今度、魔王城でも配下の者たちに使わせてみよう。俺はそう思った後、シズクから先に触れるように告げた。彼女の目がいつものように、興味津々なものとなっていたからだ。
「シズク、お前から先に試してもいいぞ」
「いいんですか! ありがとうございます。ロイド様」
俺たちのやり取りを見ていたエミリがシズクに向かって水晶を差し出す。
「それでは、まずはあなたからですね。失礼ですが、先にお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あっ、はい。私はシズクと申します。よろしくお願いします」
そう言って慌てながらシズクが頭を下げた。それに優しい笑顔のまま。エミリーは対応して、水晶に手を触れるように促す。正直、水晶は小さく、一口で食べられそうなほどの大きさだった。握りしめることも可能だが、シズクはそうせずに、水晶を手の平にのせた。そして、目を瞑りしばらく経つと、水晶に変化が訪れた。
「すごいですね。きれいな虹色ですね」
この状態が冒険者の中ではどの程度のものなのか気になりエミリ―に質問した。
「この虹色だた、冒険者の中でどの程度の位置づけなのですか?」
「はい、このサイズの虹色ですと冒険者ランクの中では、Aランクです」
俺は、Aランクというのがわからなかったので、それついても確認してみた。
「Aランクでは冒険者ギルドの中では、どの程度ですか?」
エミリーは一瞬、驚いた表情になったが、すぐに笑顔に戻して答えてくれた。
「はい。Aランクというのは、冒険者ギルドにおいては最高位の証です。これは補足ですが、Aランク以上の冒険者のみが《見習い勇者》として、勇者ギルドへの入会が認められます」
予想以上の答えが返ってきたので、もう少し聞いてみることにした。
「勇者ギルドには、Aランク以上の冒険者しかなれないのですか?」
『なに、やっぱり勇者になりたくなっちゃったの? 魔王様?』
俺がエミリーに詳細を聞こうとしていると、思念通話でレティシアがちょっかいを出してきた。
俺は一言「なりたくない」とだけ返答して、エミリーの話を聞いた。
「はい、勇者は極めて優れた実力者しかなれません。その為の判断材料としては、平時では冒険者ランクが活用されています」
「つまり、普段は冒険者ランクが高いAランク以上が勇者になれるということですか?」
エミリーが首をように振り
「いえ、そうではありません。仮にAランク以上でも、その挑戦資格を得るだけです。勇者ギルドに《見習い勇者》登録を済ませたうえで、それ相応の実績を出して初めて、《勇者》とみなされます」
俺は満足して笑顔で礼を言った。
「教えてくれてありがとうございます。よく理解でました」
エミリーも笑顔で返答した。
「いえいえ。とりあえず、シズクさんの才能はAランク以上ということがわかりました。続いてあなたの測定をしたいのですが、まずはお名前を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
俺は、当然を偽名を名乗った。
「ええ、もちろんです。ロイドと言います」
「それではロイド様、こちらをどうぞ」
そう言ってエミリーがシズクから回収した水晶を俺の手の平に乗せた。俺もシズクと同じように、魔力を込めた。
「やっ、やめてください」
そう言われて、水晶を確認すると推奨が完全に白く発行してヒビが入っていた。俺は申し訳ないと思いつつ謝罪した。
「すみません。どうやら壊してしまったみたいです」
エミリーは顔を青くして答える。
「いえ、それは大丈夫です。しかし、このままでは、水晶が爆発しかねないので、ゆっくりと水晶に込めた魔力を減らしていってもらえますか?」
俺は首肯して取り掛かる。
「わかりました。こんな感じですか?」
俺が魔力を込めるのをやめると、徐々に水晶が本来の透明な状態に戻っていった。それを確認したエミリーが「はあ」と安堵した声を漏らした。
そうして完全に水晶が元の状態に戻った後、ヒビの入った水晶が回収された。
「これはこちらで処分します。それにしても、途轍もない魔力を扱えるのですね」
褒められたので、とりあえず礼を言っておこう。
「ありがとうございます。昔から魔力だけはそれなりに自信があるんです」
エミリーは関心したように頷きながら俺たちを見た後、笑顔で告げたきた。
「そうですか。今後が楽しみですね。それだけの才能があればすぐにでも《勇者》になれるかもしれません」
俺は、ぎこちなくならないように意識しながら笑顔で答えた。
「ありがとうございます」
「それでは冒険者登録しますので、少々お待ちください」
そう言うと、エミリーは金属の板をカウンターから取り出し、俺とシズクの名前を刻み始めた。特殊なペンを使っているようで、金属の板もスラスラと彫刻されていった。初めて見るな。
「すごいですね。それは何ですか?」
エミリーは笑顔で答える。
「はい。これは去年からこのギルドにも導入されたもので、《彫刻ペン》という名前らしいのですが、種類としては《魔道具》らしいです」
魔導具? 初めて聞く言葉だな。
「魔道具とは何でしょうか?」
エミリーは少し困ったような顔をしながらも答えてくれた。
「はい。わたしも詳しくは知らないのですが、魔力を込めるだけで自動で魔法が発動する道具。イメージとしては魔法陣のような術式が刻み込まれた道具でしょうか。それが《魔道具》だそうです」
魔道具か。それについても覚えておこう。何かと便利そうだ。
「教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ。この程度ならお安い御用です」
会話をしているうちにエミリーから銅色のネームタグのようなプレートのネックレスを渡された。そこには、俺の名前と冒険者ランクが刻まれているとても簡素な金属板だった。
基本的には、首からかけるのがいパン的なのかもしれないな。先ほどの『ゴールデン』とか言っていた双子のおっさんも首からぶら下げていたからな。それが主流なのだろう。
俺が首に冒険者プレートをかけるのを見たシズクも真似をする。
そうして、俺とシズクが首から冒険者の証であるネームプレートを書けたのを確認して、エミリーが満面の笑みで告げてきた。
「最初はFランク冒険者からのスタートですが、お二人ならばすぐにAランク冒険どころかそれ以上の《勇者》にもなれると思います!」
俺はどう返すか反応に困った。だが、困るどころか怒りを我慢することになった。
「私は初めて水晶にヒビが入るほどの新人冒険者さんを見ました!」
エミリーは興奮冷めやらぬ中、続けていった。
「シズクさんもすごいですが、ロイドさんなら、魔王を倒せる《大勇者》以上にもなれるかもしれません! 頑張って魔王を倒してください! わたし、とっても期待してます!」
(魔王たる俺に魔王を倒せだと? 本気で言ってるのか?)
『どうやら本気で言ってるみたいよ』
『レティシア、俺は何も念じていないはずだが?』
レティシアはあっけらかんとした声で言ってきた。
『でも、無意識に魔力が漏れてたわよ。感情の制御がまだまだ甘いようね。だから自然と、思念通話として私にも聞こえてきちゃったのよ』
俺は内心で大きくため息を付いた。対照的に、レティシアはすごく楽しそうだ。
「じゃあ、魔王を倒して勇者になってみましょうか? Fランク冒険者の魔王様……フフフッ』
そうして、俺の心は荒れながらも、Fランク冒険者の登録が出来たのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
と思ったら
下にある ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでOKです!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。




