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第24話:初めての冒険者ギルド

「シズク。それでは転移するぞ」


 シズクは俺を見るように顔を上げて、笑顔で


「わかりました! ローゼン王国は行ったことないので、楽しみです!」


 俺もシズクの肩に手を乗せたまま、笑顔で答える。


「そうか、ならばお前にとってはかなりいい場所かも知れんぞ。大量の宝石が取れるからな。お前の魔法にも役立つかも知れない」


 シズクは宝石魔法が得意らしい。先日の《インヴェーダ》に放った大規模な魔術には魔法陣を宝石を使用して描いていた。


 俺の希望としては、将来的にシズクにも俺と同じかそれ以上の高みに来て欲しいを思っている。具体的には、俺が「コキュートス」と氷属性広範囲魔法の名前をつぶやくだけで発動できるようなレベルだ。


 シズクには、それだけの才能があると俺は予想している。とにかく、シズクの成長が楽しみだ。そんなことを考えながら、俺はかつて訪れた事のある、レイホー鉱山都市に移動した。そのレイホー鉱山都市は、東大陸中央部にあるローゼン王国の東側に位置している。


「テレポート」


 俺たちが転移した先は、レイホー鉱山都市の正門だった。壁で(オオ)われており、中が見えなかったので、そのまま解放されている正門をくぐると、町全体を見渡した。幸いにして、高さのある建物はなく、見晴らしがよい。




 このレイホー鉱山都市は、俺が以前訪れた時とは、様変わりしていた。


「鉱山とその周辺のこの町ごと、壁を構築したようだな」


 前はこの都市を囲む壁がなかったが、今は出入り口を除いて、全周囲隙間なく高さ5メートルほどの石壁でモンスターのいる高原と隔離されている。


 山の中腹より高い場所に作られたこの町では、見晴らしがよく、魔物の接近などすぐに確認できたはずだが、あえて壁を作ったとは、やはり《インヴェーダ》の影響だろうか? かなり金がかかっただろうが、この町ではすぐに費用の捻出(ネンシュツ)はできただろう。


 俺がそう思っていると、レティシアも感想を漏らした。


『ずいぶん人が増えたのね』


 その言い方には、まるで昔この場所を訪れたことがあるように聞こえた。


『レティシア、お前もここに来たことがあるのか?』

「あると言えばあるわね。でもその時はまるで違うわ。昔よりたくさん人が増えているわね』


 この東大陸は、特有の気候でかなりジメジメしている。しかも、気温が高いため長居をすればそれだけで体力を削られるほどだ。俺は手で顔だけでも日陰を作りながらシズクを見ると彼女はそんなことは気にしてなかった。


「すごいですね、みんな、ツルハシばっかり持っていますね」


 シズクは、きょろきょろと周囲の歩いている人々をせわしなく見ていた。それもそのはずだ。俺が転移した場所は、鉱山都市なのだ。しかもこの大陸でもっとも宝石が採掘できると世界中で有名な都市なのだ。


 だからこそ、一獲千金を夢見て、その身一つで高い船代を支払ってこの大陸まで人生を賭けてやってくる男たちが多い。そのため、このレンホー鉱山都市では、貧困気味かつ肉体を酷使するための者たち向けの施設が多い。当然、富裕層向けの施設も町の中心にあるが、極めて高額だ。


「まあな、ここは多種多様な宝石が産出される大陸だからな。噂では、世界の6割の宝石はこの東大陸で採掘されるそうだぞ」


 俺の説明にシズクは嬉しそうに言葉を漏らした。


「なら、ここなら宝石も安く手に入るかもしれませんね」

「ああ、そうだな」


 俺たちがそんなことを会話していると、レティシアからの声が響いた。


『ほら、観察するのも悪くないけど、今はやることがあるでしょ?』


「やることですか?」


 俺ではなく、シズクが答えた。どうやらシズクにも聞こえているようだ。その答えの前に、レティシアからの忠告が入った。


『二人とも、いい? 私は今、直接思念通話としてあなたたちに語りかけているのよ。だから、貴方たちもそうして頂戴。そうしないと、独り言を言っているような変な人に勘違いされかねないわよ』

「は、はい」


 シズクが少しだけ恥ずかしそうに、小さい声で呟いた。俺を軽くフォローするつもりで、あえて軽い感じで言った。


「そこまで気にするな。次回から気を付ければ良い。それだけのことだ」

「あ、ありがとうございます。ロイド様」


 こんな時でも、俺の偽名を忘れないとは助かるな。話の区切りをついたの見計らってか、タイミングよくレティシアの思念通話が再開する。


『それじゃ、改めて言わせてもらうわ! ここに来た目的は、魔王が勇者になるためよ!』

『絶対にならんぞ』


 俺は口に出さず、思ったことをそのまま念じて伝えた。今ので伝わったはずだ。


『もう、強情ね、いいじゃない勇者になってみても。案外面白いかもしれないわよ』


 絶対にこいつが面白がっているだけに違いない。少なくとも俺は面白くないのだ。


『絶対にならない』

『そこまで言うなら仕方ないわね。まあ、私としてはどっちでも良いけど、できれば勇者の方が楽しそうだから気が向いたらでいいから、勇者になってね』


 このままでは、いつまでたってもレティシアのペースだと思った俺は、主導権を得るべく話を進めた。


『それでは、このまま冒険者ギルドに行こうと思うのだが、問題ないか?』


『はい。私は大丈夫です。魔王様』

『ええ、問題ないわよ。でも冒険者ギルドの場所なんで知っているの?』


 シズクとレティシアが各々の言葉を思念通話で返してくる。俺は、レティシアの疑問に口を開かずに答えた。


『当然だ。俺は魔王だからな。まともな敵になりそうな人間達の集まる場所については最低限の情報収集はしていた』


 答えながら、俺は冒険者ギルドがある場所に向かって歩き出した。といってもここからでは、数分もかからないだろう。


『へぇ~。マメね。いったいいつ集めたのよ?』


 思いのほかレティシアが尋ねてくる。そこまで気になることでもあったのだろうか? 深く気にせず、俺は教えた。


『なに、俺が魔王覚醒試練を挑んでいる時に、知っただけだ。魔王が唯一気にすべき人間は、《勇者》くらいだったからな。当然、それらしき組織はある程度知っている。内部事情までは知らんがな』


 レティシアは、なにやら考えているかのような声で、「ふーん」といった。俺は上手く言葉にできないがその声の調子に違和感を覚え、尋ねた。


『レティシア。なにか、思うところでもあるのか?』


 すると、あっけらかんとした調子で思念を返してきた。


『いえ、そういう者なのかと思っただけよ。気にしないで頂戴。私はあなたを含め、この世界を人々の在り方について理解している最中なの。だから、変なことを言ってもあまり気にしなくていいわよ』


 俺はレティシアの腹の内が探れて、ほんの少しだけ安心感を得た。やはり、相手の目的が垣間見えるとそれだけで信用度合いは増すな。正直俺はレティシアの目的がわからない。いや、彼女自身の復活と彼女を(マツ)る一族を助けるたいという事はレティシアから聞いているが、本当にそれだけなのだろうか? 


 俺は自分だけ一方的に聞くのは申し訳ないと感じたので、自分の目的を告げてから尋ねることにした。


『レティシア、突然で申し訳ないがお前の本当の目的を教えて欲しい』


 レティシアは軽く苦笑を漏らしたようだ。思念通話でも、それがよく伝わる。俺は気にせず、そのまま尋ねた。


『俺の目的は《インヴェーダ》の侵攻からこの世界を守ることだ。お前の本当の目的はなんだ?』


 レティシアはそれまでのふざけたような声を完全に消して、固い口調で答えた。


『私も同じよ。私も異世界からやって来る連中にこの星を荒らされたくないだけ。だから私はこの世界にとって害を与える異世界からの侵入者は許さない。それが今回はあなたたちの言うところの《インヴェーダ》よ。だから、私の目的はあなたと一致する』


 そこまで言い切った後、彼女は少しだけ声の調子を明るくし


『どう? 満足のいく回答をしてあげられたかしら?』

『ああ……それが嘘だとは思えんが、本当ならば、俺は満足したな』


『そ、それは良かったわ』


 そうしているうちに、俺とシズクは冒険者ギルドについた。

 俺は、ほんの少しの緊張を残しつつ、金色を基本色に建造されている、数々の宝石で彩られた成金仕様の冒険ギルドの扉を押し開けた。


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