第23話:次の大陸へ
「それじゃ、魔石を取るからな。本当にいいんだな?」
『ええ、いいわよ』
確認して、俺は魔石を手に取った。するとシズクがはしゃいだように言ってくる。今にすぐでも飛び跳ねそうな勢いだ。
「あ、あの! 私も触っても良いですか?」
『ええ、いいわよ』
レティシアが返答したので、俺がプラチナピンクに発光する魔石をシズクの掌に置いた。シズクがさらに目を輝かせる。
「わぁ~」
俺はしばらくシズクが落ち着くのを待ってから、魔石を返してもらった。
そして魔石をどうやって保管するか、レティシアに確認した。
「なあ、魔石の保管はどうすれば良い? 異空間に収納するか、直接俺が物理的に持つか?」
レティシアは驚いた様子もなく、しばし考えた後で答えた。
『そうね……直接あなたが持っていて頂戴。異空間に収納されたら、今みたいに会話できないかもしれないから』
「分かった、ではそうしよう」
そうして、俺は旅人用の灰色の服の内側の胸ポケットに、魔石を入れた。
「では、まずはエイラ辺境伯領にあるノースガリア城塞都市に戻るか? あそこなら、ここから近いだろう」
レティシアは悩みながら、
『ウーン、どうしましょうか? 私としては、東大陸にあるローゼン王国からの方がいいと思うのよね』
ローゼン王国か。たしか金山や銀山などの高価な金属や宝石を多く産出する国だな。
国家としては極めて珍しく、王家直属の親衛隊しか持たない国家だ。軍隊はその莫大な富を使って、周辺国から多数の傭兵を雇っていたはずだ。
「なぜ、ローゼン王国なんだ?」
俺は、なぜこの北大陸から東大陸にまで移動しなければならないかが気になった。幸い、魔王覚醒試練の一環で、俺は各大陸を訪れていた。その際は、各大陸の主要国に足を運んだことがあったので、テレポートで一瞬で大陸間の移動は可能だ。
『恐らく、あの場所が冒険者じゃなくても簡単に立ち入れそうだからよ』
「そこは冒険者でなければ、入れないのか? 俺ならばバレずに侵入できると思うが?」
『違うのよ。でもね……』
そこで、魔石からの声が途切れ、やがて再開する。どうやら、レティシアは言いにくいようだ。
「気にせずに言ってくれ」
『そ、わかったわ!』
あっけらかんとした声で、先ほどの続きを言う。
『今回はあなたに、魔石を持って行ってもらうことにしたけど、本当はあまり移動したくないのよ』
「ならば、やはりおいていくか?」
俺が魔石を取り出そうとすると、少しだけ声を荒げて、レティシアが言う。
『大丈夫よ! 私も行くから』
行くと言っても、手のひらサイズの魔石なんだが、そこは指摘しない方がいいだろう。これも優しさのはずだ。うん。
「そうか、わかった」
俺がそう答えると、レティシアは理由を言ってきた。
『今は、東側がそこまで大きなダメージは受けていないと思うわ。だから、余裕があるうちに先に準備を済ませておくのよ』
「準備というのは、この巨大な魔法陣と関係があるのか?」
『ええ、そうよ。これを各大陸ごとに1つずつ刻むわ』
俺は考えながら、尋ねた。
「ということは、ここを含めて5つの魔法陣を構築するのか?」
レティシアは嬉々とした声で答える。
『正解よ、100点ね。褒めてあげるわ、ヨシヨシ』
ただの石が――まだ肉体を得ていないレティシアが、まるで頭を撫でているかのような擬音だけを言ってくる。俺は、それを一蹴して尋ねた。
「そんなことは不要だ。それよりも次はローゼン王国といったな? 今から移動しても大丈夫か?」
レティシアは、まるでそっぽを向いたかのように、若干不機嫌になりつつ答える。
『可愛くないわね! もっと、かわいらしくしなさいよ」
俺は少しだけ面倒と思いつつ、手を顔に当てて答えた。
「俺は魔王だぞ」
間髪入れず、魔石から声が響く。
『魔王が可愛くちゃいけないっていうルールなんてないわよ。シズクちゃんを見習いなさい! 目がクリクリしてて全体的に柔らかそうで、背も小さくて可愛いじゃない!』
その言葉を受けて、俺とレティシアの会話を聞いていたシズクが困惑していた。
「ふぇッ! レティシア様、私が可愛いなんて大袈裟です」
『いえ、私の目に狂いはないわ! 誰が何と言おうと、可愛いわ!』
今まで以上に、力を込めて断言している。こいつはかなりの可愛いもの好きらしい。
「まあ、確かにシズクは可愛いと思うが、そこまでにしてやってくれ。かわいい子を困らせるのは、お前の趣味なのか?」
『いえ、趣味じゃないわ。まあ、ちょっと残念だけど、お楽しみは私が顕現してからにしましょうか』
レティシアが「フフフッ」と弾んだ声を魔石から響かせている。対照的にシズクは「ふぇぇ」と困っているような声を出していた。
俺は場の雰囲気を少しだけでも、切り替えるべく、咳払いをした。そして、これか行く場所について確認した。
「お前の魔石も含めて、一緒にテレポートで東大陸の中央国家、ローゼン王国に転移するが問題ないか?」
俺は、レティシアから肯定の返事が来ることを予想しつつ、シズクの肩に手を触れた。テレポートで転移するためだ。
『ええ、問題ないわ! それじゃ行きましょうか、一獲千金を狙い世界各地から人が集結してくる、そんな夢の国《ローゼン王国》に!』
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