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第21話:魔石の声の主とこれから

いよいよ第2章が本格的に開始します。


「本当にここにあるんでしょうか? 魔王様」


 巨大な魔法陣が描かれた中心に存在する(ホコラ)の中をシズクが覗いていた。右手で可愛らしく単眼鏡のようなものを作り、右目に当てている。

 さらに祠の角に至る所まで見ようとし、その角度を変えるたび、黒みがかった茶髪がふわりと揺れる。

 正直そこまでしなくても十分に見えると思うが、シズクには、魔石そのものが見えないらしい。


「シズク、やはりお前にはそこにある魔石が見えないのか?」


 シズクがこちらを振り向いて聞いてくる。


「魔王様こそ、お見えになるんですか? 魔王様のお言葉を疑うつもりはありませんが、私には魔石が見えません……」


 そう言いながらシズクが落ち込む。やはり見えないのはショックなのだろう。触るかどうか悩んだが、大勇者たちと戦う前に魔石から声を聴いたのを思い出した。今回も答えてくれるか分からないが、試しに祠の中心にあるピンク色の魔石に向かって話しかけた。


「なあ、この中央にある魔石をこの子に触らせてあげたいんだが、触るだけならいいか?」


 俺を見ながらシズクはきょとんとしている。まあ、仕方ない。はた目から見れば、俺は何もない祠に向かって1人で話しかけているからな。そう思っていると、俺にしか見えていない魔石が少し輝きだした。よりきれいなプラチナピンクの光沢を放っており、それを眺めていると、魔石から声がした。


『ダメよ』


 俺は再び、この魔石の声の主と会話できたことに喜んだ。これで、シズクに魔石があることを信じてもらえるかも知れない。さらには、当初の目的でもある、怪しいフードをまとった魔族らしい連中についての情報も得られるかもしれない。


 まずは、シズクにここに魔石があることを信じてもらうことが先決だ。俺はシズクに少しここで待機してもらうように告げた後、魔石に対して話しかけた。


「なあ、そこを何とかお願いできないか? 俺としては、ここに魔石があることをこの子に教えたいんだ。俺は見えているが、この子は魔石が見えないようでな……」


 俺は、そうはいってみたが駄目だった。


『ダメなものはダメよ。だけど……』


 そこで、魔石の声の主が黙り込んだ。


「だけど……?」


 俺は続きを促すように、復唱した。


『私のお願いを聞いてくれるなら、その小さくて可愛い子に私の声を聴かせてあげてもいいわよ』


 なるほど……というか今更ながら疑問に思った。この魔石の声の主は、俺やシズクの姿が見えるのだろうか? いや見えるからこそ、俺がこの魔石を取ろうとしたときに『とっちゃダメ!』と言ってきたはずなのだが、気になってしまった。気になったことはすぐに聞いておくに限る。


 ちなみにシズクは今でも不思議そうに、彼女にとっては何も見えないはずの魔石がある場所と俺を交互に見ている。


「そのお願いの内容次第だな。今更だが、俺はロードだ。この子はシズクだ。俺たちはある目的で旅をしている」


 そのまま、半ば一方的に先ほどの疑問に思ったことを尋ねる。


「それで、お前は俺たちの姿が見えるのか?」

『ええ……見えるわよ。ついでに、あなたが復活した魔王であることも私は知っているわ』


 その言葉を聞いた瞬間、俺は反射的に身構えた。俺の雰囲気が変わったのを見たシズクも心配そうに、首を振って周囲を確認する。俺たちの態度はお構いなしに、魔石の声の主が先ほどよりも明るいトーンで俺に話しかけてくる。


『大丈夫よ。私はあなたと敵対する気はないわ。だからそんなに身構えないで頂戴』

「だからといって、その言葉を信用できると思うか?」

『それこそよ。私とあなたはそれぞれ本当の目的も姿も(サラ)していない。私はその通りの意味だし、あなたは魔法で人間に変装している。だから、まずはお互いに歩み寄ることから始めるべきでしょ?』


 俺はその言葉を聞いて、納得した。確かにこいつの言う通り、お互い本当の姿は見せていないし、目的も明かしていない。俺としては、魔王であることやソラリスに蘇生してもらったことまで把握されているのは、驚くほかない。だが、こいつがここまでの情報を得ているなら、俺の知りたいことも知っている可能性は十分にあるだろう。俺は戦闘態勢を解除して、改めて自己紹介した。本当の姿と名前で。


 俺が、急に戦闘態勢から平時の状態に戻ったことに加えて、本当の魔王としての姿に戻ったことに対してシズクが驚く。


「変装魔法を解除して大丈夫なんですか? 魔王様」


 俺は彼女を安心させるように、シズクの頭をなでながら、答えた。


「ああ、大丈夫だ。驚かせてしまって済まなかったな、シズク。どうやら今のところ俺にしか見えていない魔石の声の主は、俺の正体を知っていたようだ。だからこそ、変装を解いた」

「わかりました」


 シズクが首肯したのを確認して、俺は魔石のほうを振り向いた。


「改めて、自己紹介をさせてほしい。俺の本当の名前はロードだ。お前が言った通り、俺は魔王として復活した。お前についても教えてほしい」


 魔石の声の主は気分がよいらしく、明るい声で答える。


『いいわ、教えてあげる! 私はこの星の守り神みたいなものよ。もっと言えば、この星は私そのものなのよ!』


 また凄いことを言われた。正直ここまで驚いたのは、俺がソラリスと出会ったとき以来だ。俺がどう答えるか考えていると、魔石の声の主が俺の心を見透かしたように、話しかけてきた。


『なに、やっぱり私のことを怪しいと思っているのかしら? まあ、姿も見せていないんだから、そうかもしれないけどね。でも、私の言ってることは本当なのよ?』


 蘇生する前の俺であれば、本気にしなかっただろう。せいぜい話半分にしか聞かなかったはずだ。だが俺はソラリスと出会い、蘇生させてもらったときに並行世界の存在を教えられた。それゆえに、「このような話もあり得るのだろう」と信じることにそこまで違和感を覚えなかった。俺は、ありのまま思ったことを告げた。


「なるほどな、俺も蘇生させてもらったときに、自分の常識が狭いことを深く理解した。だから、お前の言っていることももしかしたらそうかもしれない。だから、俺はお前の言っていることを信じることにする」


 魔石の声の主は嬉しそうに弾んだ声で礼を言ってきた。


『信じてくれて嬉しいわ、ありがと! でもね、「そうかもしれない」じゃなくて、「そうなのよ」。私の言ってることは全部ホントなんだからね!』


 ほんの少しだけトゲトゲしたように言ってきたので、俺は思わず苦笑した。そして、魔石の声の主が最初のほうに話していた条件について確認する。


「それで、お前のお願いとはなんだ? その内容を教えてもらわなければ、俺は答えられない」

『いいわよ。教えてあげる』


 楽しそうな声で、条件を教えてくれた。その条件とは次のものだった。

 ――この魔石を声の主を祭っている一族が《インヴェーダ》の襲撃を受けてその数を減らしている。彼らは、現在この魔石の声の主を復活させるべく大規模な魔方陣を構築しているが、少し厳しい。このままいけばさらになくなる人が多くなりそうだから、彼らを助けてほしい。


 まずこれが、1つ目の彼女の依頼だった。そして2つ目の依頼は次の内容だった。

 ――この魔石の声の主の顕現(ケンゲン)に協力すること。


 俺はその2つの内容を理解したので、勘違いを防ぐために確認する。


「つまり、お前を復活させるために儀式をしている連中への協力と、お前の復活に俺が手を貸せばいいのだな。もっとシンプルにいうと、お前を祭っている一族を助けつつお前を復活させる、ということで合っているな?」

『合ってるわ。その通りよ』




 この魔石の声の主からの依頼を受けたから、こっちの願いも聞いてくれるだろう。俺はそう思いつつ、まずはシズクの件についてお願いした。


「こちらは、お前からの依頼を引き受けたんだ。だからこちらの要望も聞いてほしい」

『ええ、いいわよ。なんだったかしら?』


 俺はシズクを示しながら、答えた。


「この子に、実際に魔石があることを証明したい」


 そういうと魔石の声の主は、悩みだした。


『ウーン、それって私が彼女と話すだけでもいいかしら? 何なら、特別に彼女にも私のこと、というかこの魔石を見えるようにしてあげてもいいわよ? でもね、その場合は、絶対に触らないようにしてね。この魔石の位置がずれると魔方陣を一から組みなおさないといけないから、絶対ダメよ? それでもいい?』


 俺は首肯した。


「ああ、それでいい。できれば、お前の声もこの子の聞かせてあげて欲しい」

『お安い御用よ』




『私の声が聞こえるかしら?』

「えっ!?」


 シズクが混乱しながら、あたりをキョロキョロ見渡す。しまいには、俺のほうを見てくるが、俺ではなないと首を振った。


『混乱させてごめんね! 実はこの魔王様があなたに話しかけろっていうから話しているのよ』


 この魔石の声の主がいたずらっぽい声の調子で言うので、俺はシズクが誤解をしないように補足した。


「これは、魔石の声の主だ。俺ではない。ついでに、俺はお前をからかうように話しかけろとこいつには頼んでいないからな」


 俺はシズクに対して告げた後、祠の中央に置かれているプラチナピンクの魔石に向かって告げる。


「お前も誤解を招くような言い方はよしてくれ。俺も困るが、シズクだって困る」


『なによ、私だけ仲間外れで酷いじゃない』


 いきなり責められたので、俺は何の話かわからなかった。


「仲間外れとはどういう意味だ?」

『そのままの意味よ。その子のことはシズクって呼び捨てだけど、私については「魔石の声の主」とかあまりにも酷くないかしら? 何より可愛さのかけらもないわ、0点よ』

「仕方がないだろう。俺は名乗ったにも関わらず、お前は自分の名前を言ってないではないか? だから言いたくないのかと思ったぞ」

『酷いわ! 言いたくないんじゃなくて、聞かれなかったから言わなかったのよ! 聞いてくれれば、名乗ったわよ』


 あまりにも酷い言い訳に思えたが、仮にもこいつは「自分はこの星そのもの」とか言うから、偉いのだろう。少なくとも、俺の正体を見破っていたことと、蘇生していたのを知っていたことから、控えめに言っても只者ではない。それほどの実力があるものだから、多少偉そうに言うのも理解できないことはなかった。少なくとも俺はこいつが強者であると本能的に悟っていた。だから、クソみたい勇者と違って偉そうにしていても、まあ許せた。俺は改めて、この者の名前を聞くことにした。


「そうか、では改めてお前の名前を教えてほしい」

『ふっふっふっ、いいわ! 教えてあげる! 私はレティスよ。でもあんまり可愛くないから、私のことは「レティシア」と呼んでちょうだいね』


 このレティシアと名乗った奴は、今までで一番嬉しそうな声で自らの名前を言った。もしかして、言いたかったのだろうか? それであればもっと早く聞いてあげたほうが良かったなと思った。さらに言えば、俺は、ずいぶんとこのレティシアは可愛いものが好きなのだなと思いながら、頷いた。


「なるほど、教えてくれて感謝する。それでは、レティシア、俺のこともロードと呼んでくれて構わないぞ」

「私もシズクと呼び捨てにして頂いて構いません」


 俺の言葉に続いて、シズクも答えた。そういえば彼女はもう魔石が見えているのだろうか? 俺はシズクの方を向いて尋ねた。


「シズク、もう魔石は見えるのか?」


 俺は魔石がある場所に向かって、指をさした。そうするとシズクは嬉しそうに返事をした。


「はい、見えます! ピンク色の魔石ですか! 初めて見ますが、とってもきれいですね」

『さすがね、やっぱり女の子ならわかってくれるわよね、この魔石は私の魔力がごく一部反映されているのよ。だから、きれいなピンク色なのよ、当然私も美人だけどね』


 すごい自信家だな、と俺は感心していた。こいつの言い分はまるで、魔石が綺麗なのは本体の自分が綺麗だから言っているようなものだ。ここまで堂々と言っていれば、嫌味を通り越して、気になるな。


「ほう、そこまで言うのか? ならば、お前はそれほどまでに綺麗なのか?」


 レティシアは朗らかに即答する。


『当然よ、見たらきっと感動するわ』


 レティシアは怖いもの知らずなのか、自ら俺に対する期待値を高めるような発言を連発するな。それほどまでに綺麗であるなら、見てみたいな。やはりルシアのように美人なのだろうか? それともシズクのように小柄なのだろうか? 俺は、自然とそんな期待に胸を膨らませていると、シズクからの突っ込まれる。


「魔王様、本来の目的を忘れていませんか?」


 俺は咳払いをして答えた。


「ああ、すまん。話がそれてしまいそうだったな。レティシア、俺はもう一つお前に尋ねたいことがある」


 レティシアはシズクから褒められたのが嬉しいようで、はしゃいだような声で答える。


『何かしら? 今は気分が良いから聞いてあげるわ。聞きたいことがあるなら、遠慮せずに言っていいわよ』


 ありがたくその言葉を受け入れ、俺は遠慮せず聞いた。


「そうか、感謝するぞ、レティシア。では単刀直入に尋ねる」

『いいわよ』


 俺はそのまま旅に出た当初の目的であった事柄について質問した。


「俺たちは、《迷いの霧》の中で何かしらの怪しい儀式を行っている、魔族のようなフードを被った怪しい連中を探している。それについて、何でもいいから、関係がありそうな情報を持っていたら、俺たちに教えてほしい」


 レティシアはほんの少し黙った後、告げてきた。


『わかったわ。100%の断言はできないけれど、おそらくこれじゃないかなっていうのは、思いつくわ。それを踏まえたうえで、聞いてくれるかしら?』


 その言葉を聞き、俺とシズクが顔を見合わせて頷いた。シズクは笑顔だった。おそらく俺も笑顔になっているだろう。当然、聞くことにした。


「ああ、わかった。それを承知のうえで聞く。だから教えてほしい」

『わかったわ。おそらくだけど、それは私を祭っている一族よ』


 その言葉を聞いた瞬間俺は疑問に思ったが、シズクがさきに口を開いた。


「えっと、それじゃあレティシアさんは、レティシアさんを祭っている一族というかお仲間さんが、私たちの探している怪しいフードを被った人たちということですか?」


 俺も同じことを聞こうと思っていたので、レティシアの返答を待つことにした。


『ええ、私はそう思っているわ』

「つまり、お前の依頼である、その一族の手助けをすることになれば、おのずと巡り合えるのだな?」


 俺は確認すべく、レティシアに尋ねた。彼女はまたも即答する。


『ええ、そうよ。その一族を助けてくれれば、自然と出会えるわ。だから、あの子たちを救ってちょうだい。今の私では、まだ覚醒してないから、助けてあげられないの。だからお願い』


 レティシアがまじめな口調で言ってきたので、俺もそれ合わせて真剣に答える。


「当然だ、俺はお前と約束をした。だから、その約束は全力で守ることを誓う。当然、それには、レティシアの顕現とそれを行おうとしているお前にとって大切なその一族への手助けも含まれる。だから安心してくれ」


 レティシアが安心したような口調で、礼を言ってくる。


『ありがとう、感謝するわ。魔王ロード』

「それはお互い様だ、レティシア。俺もお前から情報を聞けて大いに助かっている」


 取り敢えず、怪しいフードを被った連中については、おそらくレティシアを復活させようとしている一族だと推測はついた。だがこの後は僧ればよいか俺は悩んだので、俺は彼女に聞いてみた。


「レティシア、もう一つ聞きたいことがある。その一族の居場所についてだ」


 レティシアが意地の悪い声で、からかうように言ってきた。


『ああ、それね。それなら大体分かるけど、とりあえず冒険者になって頂戴。もし冒険者が嫌なら、勇者になってもらってもいいわよ?』


 まさかの冒険者登録どころか、勇者になれというのは俺は混乱した。だが、俺たちの旅の目的は、ようやく兆しが見えてきた。


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