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第19話:仮初の勇者の国 ~下~

「ほう。大人しく外に出て来るとは見上げたものだな」


 俺はシズクと子供たちを背後に引き連れて洞窟の入り口までまで戻って来ると、銀色のフルプレートアーマーと紫色の巨大なハルバードで武装した大男がいた。そいつが威勢よく名乗る。


「俺は大勇者ビクトルだ。ビクトル様と呼ぶことを許してやろう」


 それを聞いた俺は心の中でため息を吐いた。俺がわざわざ勇者を様付けするなど有り得ない。同格と認めてやることが最大限の譲歩だ。まして俺がこんな子供たちを脅かすクソ勇者を様付けするなど、天地がひっくり返ってもありえない。隠さずに思ったことを伝えた。


「俺がお前を様付けするなどありえん。そう言うならば、最低限俺より強いことを証明して見せろ」


 そう言った瞬間、勇者の余裕の笑みが消え、怒り出した。


「なんだと! どう言う意味か理解して言っているのか!」


 それを見た子供たちがますます怖がり、殿(シンガリ)としてに一番後ろにいたシズクに子供たちが逃げるようにして集まった。俺は態度を崩さず、答える。


「当然理解して言っているとも。貴様こそ少しは身の程を知れ」


 怒っている大勇者ビクトルにそう告げ、さらに俺がここにきた表向きの理由も伝える。


「俺は、シスターから頼まれて《迷いの霧》に取り込まれてしまった子供たちを助けに来た。悪いが、この子たちは森の外まで連れていく」


 さっきまで怒っていた大勇者がほんの少しだけ、冷静さを取り戻し、俺に質問してきた。


「いきなり現れた奴が俺に挨拶もせず、ましてや子供を連れて帰ろうなど、本気で言っているのか?」


 俺は態度を変えず躊躇(タメラ)わず言った。


「ああ、本気だ。元々この子たちは教会の子だ。そして、シスターからも救助依頼を受けている」


 俺は返事を待たず言葉を続ける。


「だから先ほども言った通り、お前には悪いがこの子たちは連れ帰る。俺からは以上だ」


 大柄な大勇者ビクトルは背負ったハルバードを軽々と右手で掴み上げ、地面に突き刺した。それを見た子供たちがさらに縮こまり、何人かがシズクに抱きつく。


「俺はこれでも大勇者だからな。今からでもお前が改心するなら、俺も考えを改めてやろう」


 勇者が威圧するようにハルバードを見せつけながら言ってきたが、大したことはない。

 俺は特に怯えずその答えを返した。


「たかだか、勇者如きに俺が()(ヘツラ)うとでも思っているのか?」


 俺がそう答えると、ほんの少しだけ冷静になっていた大勇者がまた怒り出した。


「貴様……無事でいられると思うなよ」


 先ほどよりも勇者が(ウナ)るように言ってくる。俺自身は勇者と争う気はない。本当は、《インヴェーダ》との戦いに全力を注ぎたい。そのために、シズクからの情報で得た怪しい儀式をしている連中をについて調査をし始めたのだ。正直、俺に戦いばかり吹っ掛けてくる勇者は面倒な連中ばかりだ。だからこそ、俺はさっさとこの勇者への対応も終わらせたかった。


 そして改めて今の状況を俺なりに思い返してみると、一つの疑問にたどり着いた。


 そもそもなぜ、こいつが俺に関わってくるのか疑問だ。子供たちを勝手に俺に連れ戻されるのが気に食わないはずだが、念のため確認しておこう。もしかしたら丸く収まるかもしれない。俺はそんな淡い期待と共に確認した。


「1つ確認させてくれ。なぜ、お前は俺と敵対しようとする。この子供たちをこの場所から、連れ去ることがお前にとって困ることだからか? だが心配しないで欲しい。俺が責任を持ってこの子供たちは、ノースガリア城塞都市にあるソレイジア教会に送り届ける」


 大勇者は呆れたような顔で俺の問いに答えた。


「だめだな。俺の目的は俺の国を作ることだ。この混乱する世の中で、勇者が統治する国家を、だ」


 俺が怪訝な顔をすると勇者は言葉を紡いだ。今では最初のころのように余裕のある対応ではなくなった。ある意味、素の対応かもしれない。俺が疑問を口にする。


「つまり、お前の作り上げる国の人口が減るから連れ帰るのは良くないと。お前はそう言いたいのか?」


 勇者は少しだけ笑みを受けべて答えた。


「ああ、そうだ」


 そして地面に突き刺したハルバードを手に持ち、戦闘のための構えをとる。


「本当に最後通達だ。そのガキどもを開放しろ。俺の国から勝手に人をさらっていくなど許せぬ。だからこそ、ここで俺の軍門に下るならば、特別にお前の命も保障してやろう」


 先ほどよりも勇者の言葉が汚くなっているような気がする。どちらにせよ、俺が子供たちをシスター・シェーレのもとまで連れて帰ることには変わらない。俺は背後のシズクと子供たちを一瞥(イチベツ)した後、一言で答えた。


「ありえん」


 その瞬間、大勇者ビクトルが殺気立って一呼吸もしない内に、俺に迫った。人間にしては大したものだが、俺からすれば造作もないことだ。いや、もっと言えば、足を動かす必要すらない。


 俺は余裕の笑みを浮かべつつ、真正面から大勇者に攻撃を受け止めた。

 ――ガギンという音をたて、俺が無詠唱で展開した魔法陣と勇者のハルバードの一撃が触れ合う。

 大勇者がノックバックし、数メートル先に着地した。


「なんだと、貴様! 正体は何だ! 冒険者ランクはいくつだ? 其れとも勇者か!」


 驚きを隠さないまま、大勇者ビクトルが俺に問いかける。


「俺は、ただの旅人だ」

「そんなことが信じられるものか!」


 まあ、確かにそうだろうな。冒険者と言った方がそれらしくなるかもしれんが、今は旅人の設定なのだ。シスターにも俺は旅人だと告げているからな。今さら変えるわけにもいかないだろう。


「そう言われても、俺は冒険者だと証明できなくてな」


 そう言って、勇者が嫌らしい笑みを浮かべて俺に聞いてきた。


「なら、俺様の手下になれば、お前を冒険者どころか勇者に推薦してやってもいいぜ。大勇者である俺様が推薦すれば、冒険者でなくとも勇者くらいにはなれるかもしれないぜ」

「俺が勇者に? なんの冗談だ?」


 俺が苦笑いしながら聞くと奴はノリノリで言ってきた。


「俺としてはありかと思ったんだが、残念だ。それじゃこの話もなかったことにしてくれ」


 奴が嫌らしい笑みを浮かべながらそう言い終える直前、後ろから刺突武器が俺の心臓を狙い飛んできた。


「周辺の景色と同化した程度で俺から隠れられるとでも思ったのか?」


 俺はあらかじめ練っておいた魔法を自動発動させ、その攻撃を防ぐ。


「バカな……私の隠形が見破られるなど。呼吸さえ止めていたのに」


 隠形をしているつもりだったらしい眼鏡をかけた細い男が驚きの声を漏らしていた。俺はくだらないと思いつつ、教えてやった。


「お前は魔力を纏っていた。周囲の景色と同化した程度では話にならん。最低限、周囲の魔素に己の魔力を同化させよ。それすらできないとは、隠形などと言うのはやめたほうが良いぞ」


 そう言いながら、またも懲りずに正面から馬鹿正直に突っ込んでくる大勇者の攻撃を俺が魔力で身体強化した左手でハルバードを掴み上げる。


「畜生が! ゼスト、呆けるな! お前も早くこいつに攻撃しろ」


 その言葉に俺を後ろから狙っていた男が反応して再度俺の心臓目掛けて襲ってくる。なるほど、この眼鏡をかけた男はゼストという名なのか。そして俺は先ほどと同じ魔法を発動し、先ほどと同じゼストの攻撃も防ぐ。防ぎ切った後、振り返らずに目の前の大勇者ビクトルを見ながら背後にいるゼストにも言った。


「おい、完全に見えた状態で、先ほどと同じ攻撃とは少しは落ち着いたらどうだ?」

「何を偉そうに!」


 俺は魔王なのだから偉くて当然だろう。偉くない魔王などいるはずがないと思う。まあ、俺としては仲間から慕われる魔王になることが目標だからな。偉くても必要以上に無駄に偉そうには振舞わないつもりではいる。むろんそういうことが必要なら、傲岸不遜(ゴウガンフソン)に偉そうに振舞っても良いがな。


大勇者たちのあまりにもつまらない攻撃に飽き始めつつも、目の前のビクトルにも告げる。


「お前もそうだ。先ほどより動きが単調だぞ」

「貴様ァ!」


 俺の指摘が気に食わないのか、大勇者の眉間にしわが寄るが全然威力が上がらない。俺は目の前のハルバードを掴んだ大勇者から倒すことにした。そのまま、目の前の奴に告げる。


「まずはお前からだ。国家運営したいのならば、人を拐うようなやり方はよせ。少なくともあそこにいる子供たちの保護者であるシスターはあの子たちが無事に戻ってくることを願っている」


 そうして俺は一瞬集中して、大勇者の後方に人がいないことを確認した。少しだけ力を込めて、ハルバードごと後方へ投げた。


「グハァァァァ!」


 大勇者がハルバードを離さないまま、後ろの木々を100本ほどなぎ倒したところで止まった。俺が後ろを振り向くと、眼鏡の男がシズクと子供たちを人質にしていた。しかもシズクの首元にいつのまにか取り出していた短剣を当てている。


「あなたは強いようです。私としてあなたがこの場から去ってくれるのであれば、この子たちには危害は加えないことを約束しましょう」


 いきなりの行動に俺は驚いていた。まさか、この程度のことで人質を取られるなど予想していなかった。

 加えて、俺は自分に対しては怒りが湧いていた。自重するように呟いた。


「まさかこの程度のことで、俺の注意が離れた瞬間に人質を取るとは。そこまで考えていなかった俺に腹が立つな」


 どうするか俺が悩んでいると冒険者風の若者が走ってきた。走ってきたそいつが、人質を取っている奴に大声で言う。


「何をされているのですか! ゼスト様!」


 ゼストはニヤリと悪い笑みを浮かべて、その若者に告げた。


「実に良いところに来ましたね、ジーク。あなたに頼みたいことがあります」


 シズクの首に刃を当てたまま、顎で俺を示しながらジークと呼ばれた男に言った。


「そこにいる自称旅人を殺してください。そうすれば、あなたを勇者に強く推薦して差し上げます」


 ジークが叫ぶ。


「何を仰っているのですか! なぜそこの武装もしていない人を殺さなければならないのです! それよりも、ゼスト様こそ、その少女を開放して下さい!」


 興奮したまま、さらにジークが言葉を繋げる。


「なぜ、勇者が人質のようなことをしているのですか! それが勇者のすることですか!」


 その言葉に俺は思わず頷いてしまった。


(そうだよな。勇者が人間の人質を取るなど全く勇者らしくない。俺の感情は別として、勇者が魔族を人質に取る方がまだあり得る。いや、その場合、即刻始末されるかもしれんな)


 しかも驚いた。もしやとは思ったが、このような奴が勇者などため息が出そうだ。俺自身、よくわからない希望にすがるようにその勇者らしきゼストに質問した。


「おまえ本当に勇者なのか?」

「当然です。私はこの通り勇者ですよ」


 誇るように何かの紋章を俺に見せつけてくるが、とりあえずこいつが勇者であることは確定した。俺は盛大にため息を吐いた。


「はあぁぁ」


 俺のため息を見たゼストはシズクの首元に短剣の刃を触れさせたまま、先ほどよりも静かな声で言ってきた。


「私に失礼だとは思いませんか?」


 何度このようなクズ勇者を相手にしなければならないのか、俺は途方に暮れた。だが、まずは目の前のクズ勇者を無力化することから始めるべきだと考えをまとめた。奴の質問に答える気も失せたので、俺が短く言葉を告げる。


「勇者ゼスト、貴様はそこで微塵も動くな」


 ゼストが反論しようとしたが無駄だ。すでに奴は俺が言霊(コトダマ)で拘束している。奴の呼吸さえ、強制的に止めている。このまま放置しても良いが、それで奴が死んだ場合、俺はソラリスとの約束を破ることになってしまう。俺は早く奴を解放すべく、次の命令を発した。


「ゼスト、その少女と子供たちを傷つけることなく、貴様は即刻、後ろに下がれ」


 そうして、ゼストは呼吸ができないまま、少し苦しそうになりつつもシズクと子供たちから離れた。


 この場にいる全員の視線が俺に向けられるが気にせず、ゼストに許可を出した。


「その場で(ヒザマズ)きながら、呼吸だけはして良いぞ。ついでに言いたいことがあるなら、口を開くことも許そう」


 その瞬間ゼストは大きく呼吸をしたあと、跪いたまま俺を睨みつけるように見上げてきた。


「貴様! この私を勇者と知っての振舞いか!」


 見下したまま答えた。


「貴様こそ、人間を人質にとるなど勇者のすることか? 生憎と俺はそんなクズ勇者にかけてやる情けなど持ち合わせてはいない」

「ふざけるな、私は勇者だぞ! 私を殺せばお前は人類の敵だ! そうなってもいいのか!」


 俺は近づきながら答えた。


「安心しろ、俺はお前を殺さないでやろう。俺を蘇生させたソラリスに感謝しろ」


 言うや否やゼストは少しだけ安堵した表情になるが、甘い。俺は跪いているゼストの頭を掴み上げた。そしてそのまま、大勇者ビクトルを放り投げた場所へゼストも投げ飛ばした。ついでに、言霊も条件付きで解除の許しを与える。


「ゼスト、俺がこの《迷いの霧》を去ったら、自由にしてよいぞ。それまでは大人しく地面にひれ伏していろ」


 ゼストを投げた後、俺はシズクと子供たちの方へ向かって歩いて行った。だが、俺が近づくだけで、子供たちが怖がっている。俺は近くを見ると、ジークと呼ばれた男がまだいるのを見つけた、年齢は17歳くらいだろうか。俺がそいつに向かって歩いていくと、彼も俺の方に向かって進んできた。そして、手を伸ばせは届きそうな距離になって、奴は立ち止まり、俺に頭を下げてきた。


「子供たちを救って下さりありがとうございます。私は、勇者ギルド所属の《見習い勇者》のジークと申します」

「俺は、旅人のロイドだ。信じてもらえないだろうが、子供たちを傷つける意図はない。教会のシスター・シェーレから依頼を受けて子供隊を探しに来た」


 そうして、言葉を区切り俺はシズクにしがみついている子供たちを見た。それにつられて、ジークも彼らを見る。


「だが、俺は彼らを怖がらせてしまってな。悪いがお前に、教会のシスターの元に子供たちを送り届けてくれないか?」


 俺は、シスターとの約束を反故にすることは気が引けたが、仕方がないと思った。俺は彼らを怖がらせてしまっている。だが、幸運なことに子供たちの身を心配していた、ジークという人もいる。彼ならば、信用しても良いと俺は考えた。なぜなら、子供たちはシズクにしがみつきながらこのジークに救いの眼差しを向けているからだ。さっきのビクトルとゼストとも違う信頼の眼差しだ。


 彼らにとっては、俺よりもこのジークと一緒いる方が安心できるだろう。そう考えての俺からのお願いだった。ジークは迷わず即答した。


「ああ、わかった。子供たちは俺が責任をもって、送り届ける。改めて、子供たちを守ってくれてありがとう」


 再度、お礼を言われて気になったので率直に質問してみた。


「お前は俺が怖くないのか? 怪しいと思わないのか? 同じギルドの仲間を俺に倒されて憎いとは思わないのか?」


 ジークは、逡巡(シュンジュン)しながら答えた。


「確かに、思うところはあります。特に怪しいと思っています。しかし……」

「しかし?」


 俺は続きを促すように質問した。


「失礼を承知で言います。しかし、貴方は子供たちに危害を加えるそぶりはなかった。それどころか守ろうとしていました。だからこそ、貴方は怪しいとは思いますが、あの子たちに危害を加える意思がないということだけは信じられます」


 俺はその言葉に嘘が無いことを感じ、清々しさを覚えた。


「なるほどな。確かにお前の言うことはもっとだ」


 俺は肩を叩きながら、改めてジークに頼んだ。


「それでは、悪いがあの子たちを頼む。俺は、あそこいる仲間をもう少しこの洞窟について調査する」


 見習い勇者ジークが頭を下げて答える。


「はい。お任せください。このご恩は必ず、いつか返します」

「良い、気にするな」


 そう言って、俺は勇者が子供たちを連れて行くのを見送った。その後、シズクと合流し、先ほどの巨大な魔法陣が彫り込まれている(ホコラ)がある広間に向かって戻っていった。


1章最終話までお読みいただきありがとうございます。次回から第2章に突入します!


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでOKです!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします。

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