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第18話:仮初の勇者の国 ~中~

 子供たちの声が聞こえるな。シズクの方を見ると俺と同じことを思ったらしく、軽く頷いている。


「子供たちの声が聞こえますね! シェーレさんから頼まれた子供たちは無事かもしれません!」


 シズクが嬉しそうに言って、走りだした。静止しようと思ったが、一歩遅かった。まあ、昨日からシズクは《インヴェーダ》の死骸などを見たのだ。今日くらいは大目に見ておこう。何かあれば、俺が彼女を守ってやれば良い。それだけだ。そう考え、彼女の後をついていった。


 50メートルくらい先で、シズクは子供たちに囲まれていた。

 俺がシズクに向かって声をかける。正直もうめんどくさいので、下手にした手に出るのはやめた。相手の気もちは組むことを努力するが、少なくとも俺には下手な丁寧語は合わない。変えるのは見た目と名前だけだ。それ以外は基本的に普段通りにするか。


 正直、シズクも子供だと思うが、周りの子供たちがそれ以上に幼いのだ。シズクは14歳くらいに見えるが、実際の年齢は不明だ。


「シズク、この子達は誰なんだ?」


 シズクと彼女の周りにいる10歳くらいの子供たちが一斉に俺の方に振り向く。黒みがかった茶髪のシズクを中心を取り囲むように、銀髪、金髪、茶髪、黒髪などをはじめとして、それぞれ色の異なる少年・少女たちがいる。瞳の色もそれぞれ違っている。赤みがかった茶髪の少年が俺の腕をつかんで無邪気に尋ねてくる。


「お兄さんは誰? シズクお姉ちゃんの兄貴?」


 シズクは俺にため口を聞いた少年に対しておどおどしているが、俺は「大丈夫だ」というつもりで頷いた。どうやら通じたらしく、彼女も頷いて他の子供たちの頭を撫でていたりした。


「まあ、そんなところだ」


 俺ははぐらかしつつ曖昧に答えた。するとその赤茶色の髪の少年が俺の腕をより強く引っ張っりながら誘ってきた。


「なら、特別にお前も秘密の場所に連れててってやるよ! 特別編だからな! 嬉しいだろ!」


 俺ずいぶん元気な少年だなと思いますながら、返事をした。


「ああ、そんな秘密の場所に連れて行って貰えるとは光栄だ。楽しみにしてるぞ」


 シズクは俺にタメ口で会話している男の子が心配なのか、青い顔をしている。だが対照的に彼女を取り囲んでいる子供たちは全員、目を輝かせている。そんなはしゃいだ彼らが声を上げて、シズクと俺を連れて行こうとするので、ついていった。銀髪の女の子が声を上げる。


「お兄さんは誰ですか? 私は、リアです。よろしくおねがいします」


 小さいのに、ずいぶん礼儀正しいな俺は感心しながら堂々と偽名を答えた。


「俺はロイドだ。よろしくな」


 俺はこの話の流れに乗って、子供たち全員の名前を聞き出すことにした。どうやら、右から順番にリア、ウェンディ、アーリャ、メイ、アレック、ノルン、ゼタ、シャルロット、アギ、そしてマイアだ。シスター・シェーレの言っていた子供は全員いるな。この子達で問題ないだろうと俺は胸をなでおろした。


そうしてしばらくの間、俺は子供たちを親交を深めるべく、少しづつ他愛もない話から始めた。




「今はシズクと2人で旅をしている」


俺がそんなことを話したとき、一人だけすごいはしゃいだ。アレックだった。


「おお! すげー! 旅人なのか? 旅の話を聞かせてくれよ」


 アレックは子供たちの中でもさらに一回り小さい黒髪の少年だ。俺はその子の頭を撫でながら答えた。


「ああ、いいだろう。秘密の場所にたどり着くまで存分に語ってやろう」


 そう言って俺は、道案内をする子供たちに道中での出来事を語った。




「ここか?」


 俺が連れてこられたのは、洞窟内にある、石造りの小さい祠だった。

 しかもその洞窟には、明らかに人が住む環境が整っていた。

 俺は、子供たちに「普段からここで暮らしているのか」と確認したが、「違う」と答えられた。

 その返答を聞き俺もシズクも危機感を募らせた。シズクが口を開いた。


「ロイド様、なんか嫌な感じがしますね」


 俺は注意を振りまきながら言葉を返した。


「ああ、子供たちはかなりはしゃいでいるが、俺もお前と同じ意見だ」


 その洞窟の道半ばに、半径20メートルほどの大きな広間があった。中心にある祠から、壁までの距離が均等になっていた。まるで横だけは円柱を再現したみたいだ。俺は横を見ていたが、シズクは地面を見ていた。何かに気づいたのか、シズクが小さく声を漏らす。


「あ……」

「どうしたのだ? シズク」


 俺は気になって視線をシズクに向けた。シズクが洞窟の地面を指さして答える。


「これを見て下さい。ここです!」

「なるほど……」


 そこには巨大な魔方陣が彫り込まれていた。中央の祠から放射線状に広がっており、それが横に伸びいくつもの円を描いていた。それが魔法陣であることまで把握したが、それ以上のことは分からなかったので、シズクに尋ねた。


「俺には、縦棒と円を描くための曲線しか使用されていない比較的単調な規模の大きい魔方陣にしか見えないが、大きさ以外で何かすごいのか?」

「すごいですよ!」


 シズクが食いつくように言ってきた。それでもイマイチわからないので、また尋ねた。


「どこが凄いんだ?」


 シズクがかがんで足元にあるその彫り込まれた魔方陣に手の指を這わせながら答える。


「見る分には全くゆがみのない魔法陣です。この巨大な魔方陣を全くゆがみ無く描き切るのもとてもすごいですが、それだけではありません。ロイド様も触ってみて下さい」


 そう言われ、おれもしゃがんで彫り込まれた魔方陣に触れたが、やっぱりわからない。俺の反応を確認したシズクが補足してくれる。


「張り込みの深さも横幅も完全に(ソロ)っているんです。幅の太さが一致することは多々ありますが、深さまで完全に一致させることなどほぼありません」


 なるほどな。確かに魔方陣を書くにもいろんな方法があるが、石のように固い地面に彫り込むなど相当に大変だ。しかも深さまでそろえるなど、そこまで神経質になる魔法が存在するのだろうか。確かに魔法の精度を向上には期待できるだろうが、それでもやりすぎだと俺は思っていた。


「シズク、そこまでしなければ発動できない魔法はあると思うか?」


 俺が悩みながら問いかけると彼女はかわいらしく首を傾げた。


「うーん。どうなんでしょう。わたしの知る限り、ここまで大規模かつシンプルな魔法で丁寧に魔方陣が描かれているのは、初めて見ます。なので、正直に言えば判りませんが、恐らく次のどちらかになると思います」


 シズクは小さい拳を俺に向けて、人差し指をまっすぐ天に向けて伸ばした。


「まず一つ目ですが、術者の魔力に余裕が無いため、この魔法陣に魔法を発動させる処理を肩代わりさせているだけかと思います」


 俺は頷いて答えた。


「確かにな。魔法の発動には、魔力とそれを操るための技術両方が必要だからな。魔力だけあっても技術力が無ければ、威力だけは大きい雑な魔法しか発動できないからな」


 シズクが「うんうん」としきりに首を振る。そうして、次に中指を立てた。


「それで2つ目なんですが、私としてはこちらの可能性が高いと思います」

「ほう、聞かせてくれ」

「はい! 恐らく、極めて繊細な魔法だと思います。少しのゆがみや揺らぎでも、発生したら失敗すると思われます。それを防ぐために、緻密に魔方陣を描いていると思います」


 俺はあらためて、地面に描かれている魔法陣を見つめた。中心に祠がありそこを中点として、まるで蛛の巣ように、放射線状の縦棒と等間隔で円が描かれている。気になったので中心まで歩いていき祠の中身を確認した。そこには、かなりの魔力を秘めた魔石があった。


「魔石か…」


 そう言って手を伸ばそうとしたが、その瞬間、俺の脳内に直接声が響いた。


『とっちゃダメ!』


 突然、甲高い声で叫ばれ、頭の奥底から痛くなった。思わず、俺はその手を引いて、未だにズキズキと痛む頭に手を当てた。


「ロイド様、大丈夫ですか!」


 遠くから、シズクが大声を出して駆け寄ってくる。


「ああ、急に俺の頭に女性のような甲高い声が響いてな」

「脳に直接ですか……?」


 シズクは視線をやや斜め上にむけて、考え始めたが、俺は目の前の魔石について確認する。


「なあ、シズクにはこの魔石はどう思う? やはり40メートル近くあるこの巨大な魔法陣の核だと思うか?」


 そう質問をしたのだが、シズクの本能は鈍かった。


「あの、魔石とはどこにあるのでしょうか? 失礼ですが、ロイド様が指さしている場所には、何もないですが……もしかして祠そのものを指さしてますか?」

「いや違う」


 俺は首を横に振って答えた。そして改めて確認する。


「ここの目の前に魔石があるのだが、お前には見えないか?」


 シズクが手を伸ばし、取ろうとするが、俺がその手を掴んだ。


「悪いが、だめだ。とっちゃダメとしか言われてないが、かなり必死に言ってたように思う。お前の好奇心を押さえつけのは、俺としても心が痛むが我慢してくれ」


 シズクは名残惜しそうに、俺が指さした場所を見つめながら、その手を引いた。


「はい。でも、やっぱりこの場所は特別みたいですね」


 すると、シズクの後を追ってきた子供たちが声を口を開く。


「ちょっとシズクお姉ちゃんまでいきなり走り出して俺たちをおいていくなんてひどいよ~~」


「ごめんね」

「ああ、俺からも詫びよう。すまなかった」


 そう言って、俺も頭を下げて謝罪した。


 するとアギという坊主頭の少年が首を横に振る。


「いや、そこまでじゃないんで、大丈夫ですよ」


 そう言って俺が頭を上げたのと同じタイミングで野太い男の声が響いた。


「おい! ガキども! この洞窟でなに呑気(ノンキ)に遊んでやがる!」


 子供たちが焦りだし、軽いパニックが起きる。


「やばい!」

「どうしよ」

「怒られる!」

「どっかに隠れないと!」


 何人かの子供たちが混乱しながら声をあげ、さらに洞窟の深奥に向かって走り出そうとしたので、俺が少し厳しめに言葉を出した。


「待て!」


 すると主に少女たちが悲鳴を上げた。


「ひゃ!」

「きゃ!」


 その悲鳴につられて、少年たちも足を止めてこちらを振り返った。俺が、近くにいた少女と少年の頭をそれぞれ撫で出て、安心させるように言う。


「怖がらせてすまなかった。だが、大丈夫だ。俺がおまえたちを守ってやる。だから俺とシズクのそばから離れないでくれ」


 シズクも子供たちを勇気づけるように言った。


「大丈夫です。私も皆と一緒にいますし、ロイド様はとっても強いんです。だから安心してください」


 茶髪の女の子が短く答えた。


「わかりました」


 たしか、この子はウェンディという名前だったな。

 俺はウェンディの頭を撫でつつ全員を見て、告げた。


「これから、この洞窟を出るぞ。外には、男がいるようだが、気にするな。俺がおまえたちを守ってやる」

「大丈夫ですか? 外には、勇者様がいるんですよ?」


 心配な顔つきで、ウェンディが俺に尋ねた。


「ああ、勇者だろうが俺が勝つさ。だから心配するな」


 そうして、俺は落ち着きを取り戻した子供たちをシズクと共に歩き出した。

 子供たちを大声で脅かした勇者がいる出口に向かって。

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