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第16話:インタールード3 ~勇者としての在り方~

 魔王ロード達が探している別名《迷いの霧》とも呼ばれる《迷いの森》の中には、行方不明となった人たちがいる集団があった。


「お前たち! 今日もきちんと働いているか? ここは安全だ! だが、安全は無料で手に入るものではない! ゆえに、この俺の庇護が欲しければ、その身でこの国の発展に貢献するのだ!」


 銀色のフルプレートアーマーを着た大男が、大きな平屋の屋根の上に立ち、両手を天に掲げて、日課の演説をしている。その男の鎧には、勇者ギルドの紋章が彫り込まれている。勇者について少しでも詳しい者がいれば、その紋章だけで、彼が勇者ギルドに所属している《大勇者》であることまで分かるだろう。そして、彼の隣にいる別の男が補足する。


「大勇者ビクトル殿と勇者である私、ゼストが僅か100人にも満たない集団のおまえたちを守ってやるのだ。大した実力も権力も持たない平々凡々な貴様らを勇者が2人も付きっ切りで日ごろから守ってやるのだ。その対価が日々の肉体労働で済むなど、破格だぞ。我々勇者に感謝して、労働に励むのだ!」


 そうしてジークがもう一人の勇者を屋根の上から探し出し、声をかける。この集団の中では、実質的な長が大勇者ビクトルであり、その次に力があるのは、ゼストだった。そして


「おい! 見習い勇者のジーク! 貴様は何を呑気(ノンキ)にガキどもと戯れているのだ! お前もこっちにこい!」


 ゼストから呼ばれたジークが2人がいる方向を見て、「わかりました」と短く答える。大勇者ビクトルと勇者ゼストは勇者ギルドのそれぞれの階級にふさわしい紋章を身に付けている。だが見習い勇者であるジークに紋章は与えられていない。


 本来、紋章は勇者ギルド側が認めた者にしか与えられない。しかし多少の自由はあるので、それを直接身に付けなくても、その紋章さえ示せばよいのだ。ビクトルがそれにあたる。つまり、ジークは正式には勇者ギルドから1人前の勇者として認められていないのである。だからこそ、見習いなのだ。




 ゼストから名前を呼ばれたジークが近くにいた子供たちに申し訳なさそうに、彼女たちと同じ視線になるようにかがんでから、声をかける。


「ごめんね。リア、ウェンディ、シャルロット、少し向こうに行ってくるからここで、いつも通り木の実を集めていてね。無理はしなくていいからね」


 声をかけられた3人は全員女の子で外見は10才に届かないくらいだ。リアは銀色のボブのショートカットで、ウェンディはセミロングの茶髪だ。シャルロットは少しパーマが混じった金髪のロングだ。それぞれが心配そうに小さい声で答える。


「わかった」

「わかりました」

「ハイです」


 まだ不安は残りながらも、ジークは彼女たちに伝言をする。


「ゼタやノルン、アレック達にも無理しないように言っといてね」


 そうジークが告げ、大勇者ビクトルと勇者ゼストの元へ向かった。


「ただいま到着しました。大勇者ビクトル様、勇者ゼスト様!」


 2人に対する不満を飲み込んだうえで、見習い勇者ジークがハキハキと告げた。ゼストが「よろしい」と気障っぽく言いながら、本題に入った。


「ジーク、お前は自分の役目を理解しているのか?」


 眼孔を鋭くしながら、ゼストが尋ねた。ジークはその目を見返したまま、答える。


「はい。理解しています。私はまだ見習い勇者でありながら、お2人からは同じ勇者の仲間として扱っていただいています」


 本当は小間使いのような仕事を与えられているが、ここにいる人たちよりは遥かに良い待遇だった。ジークはビクトルとゼストが勇者らしいことを何もしていないことに不満を抱いていた。しかしながら、彼自身も勇者らしいことはできているとは思ってなかった。だからこそジークは子供や老人などを中心に手助けしたり、気を配っていたりもしていた。それについて度々、この2人から指摘されることもあり、毎回似たような会話をしていた。


 ジークよりも社会的地位も実力もあるこの2人がしているのは、《迷いの霧》という外界から襲われにくいという特殊な環境を利用して自分たちが頂点の組織を作ることだった。


 そんな2人にジークは辟易(ヘキエキ)していた。そのジークの理解を確認するために、大きなハルバードを背負ったビクトルから質問が放たれた。


「では、ジーク。なぜ、お前は働けなくなった弱者にまで寄り添う。100歩譲って子供たちに目をかけることまでは理解しよう。今はまだ使えないが、大人になればそれだけ働ける。若いからこそ、今後彼らが次世代の子孫を残すことにも期待できよう。そうすれば我々の組織も国として繁栄していく。だが、なぜまともに働けない老人にまで世話をするのだ? この国は、そこまでの余裕がないのだぞ」


 少しだけ息を深く吸ってから、ジークが口を開いた。


「それでは、先に私からの疑問に答えて頂いてもよろしいですか?」


 ビクトルは大仰に頷いて答える。


「良いとも。お前からの質問に答えよう」


 ジークは軽く頭を下げる。


「ありがとうございます。それでは、率直にお聞きします。2人にとって《勇者》とは何ですか?」


 ビクトルは堂々と仁王立ちしており、ゼストは顎に手をあてて考えている。ビクトルは一切の迷いなく答える。


「簡単だとも。《勇者》とは、強者の総称である。弱者はその名を歴史に遺すことなく、消えていく。学者や研究者も名を残すかもしれないが、それは学問においてだ。一部の博識の者たちにしか広まらない。だが、勇者は分かりやすい《強者の象徴》だ。だからこそ、勇者とは強き者のことを指すのだ」


 ゼストは少し悩んだ後、答えた。


「私の考える《勇者》とは当然、ビクトル殿と同じく強者であることが前提ですが、もう1つ付け足したいことがあります」


 ビクトルはゼストの話に興味を持ち横目で、観察をする。ゼストはそれに気づきながらも、言葉を続ける。そしてまだ正式な勇者に成れていない、見習い勇者のジークもゼストの声により耳を傾ける。


「勇者とは、社会的地位の高さの象徴です。勇者、しかもその頂点である《大英雄》であれば、そこらの小国の王よりその権威ははるかに上でしょう」


 熱が入ってきたのか、ゼストが饒舌に話を続ける。


「当然、冒険者ギルドなんて下っ端のような存在です。彼らは、冒険者でありながら、勇者にすら届かない」


 ゼストは「ああ」と言って、ニヤリとバカにするような笑みを浮かべながら、ジークに心の(コモ)っていない謝罪をする。


「確かに、貴方はまだ弱いですが、それなりに見どころがありますよ。なにせ、冒険者ギルドの中では最高ランクのAランクという地位を捨ててまで、私たちの勇者ギルドへ仮勇者登録したのですから」


 そして、彼なりの答えの最後の口上として、嫌みをたっぷりと混ぜてその話を締めくくった。


「まあ、勇者として結果を残せなければ、Aランク冒険者という一般人の中ではそれなりに高い地位を捨てた愚か者になるでしょうがね」


 ゼストがいやらしい笑みを浮かべて、ジークに問いかける。


「それで、私たちからの答えには納得していただけましたか?」


 勇者として、ジークはこの2人と自分の目的が異なると理解した。この2人と自分の求める勇者像が違うと知ったおかげか、無意識に明るい声で答える。


「はい。ありがとうございます。納得いたしました」


 その返事を聞いたビクトルが先ほどと同じ問いを繰り返す。


「では、改めて尋ねよう、ジーク。なぜおまえは、働けない老人にまで寄り添うのだ?」


 晴れ晴れとしたした表情で、ジークは堂々と言った。


「それは、私が目指す勇者の在り方だからです」


 ビクトルはその答えで、自分たちとジークが相容れないと理解した。

 そうして、彼は目を細めつつも大きく納得したような表情で、ジークに最終通告をした。


「お前の気持ちは分かった。ジーク。そこまで、堂々と自分の本音を正直に言ったことに免じて、忠告してやろう」


 その雰囲気が殺気すら(マト)っているようにジークは感じられた。体の芯から震えそうになるが、気合でそれを押さえる。


「俺の目的は、この《迷いの森》の中で俺が頂点の国家を作ることだ。今はその真っ最中だ。常に人手が足りない。食料も余裕があるとは言えない」


 ビクトルがさらに眼孔を細めながら、にらみつけるように言い続ける。


「だからこそ、働けない者たちは何もできない代償として勝手に死んでもらう。お前の食料をその使えない老人共に分け与えるのは目を瞑ってやっても良いと考えていたが、ここでハッキリと告げておく。これ以上、組織に貢献できず、将来にも期待できない連中に食料を与えるな。それをすると言うのならば、俺はお前を敵として扱うことも考えるぞ」


 一方で、ゼストは完全に気分を悪くし、表面上の笑みすら消して、ジークを見下し、言い放った。


「そうですか。それは残念ですね。いろいろと、貴方はバカですか? 私やビクトル殿ほどの実力も実績もなく、挙句の果てには弱者を救いたいなど」


 ジークはゼストやビクトル程の実力も実績がないことを指摘され、反論できなかった。元からそれが原因で、《迷いの森》の中で子供たちと一緒に、この2人と初めて出会った時から逆らえなかったのだ。だからこそ、今まで子供たちが無事でいられるようにジークは我慢してきた。ゼストは怒りが収まらないのか、その口撃は続いていく。


「だいたい、貴方はそれを言うだけの力がないでしょう。ましてや、今の世の中は、魔王が呼び出したとされる《インヴェーダ》で、人類全体の危機なのですよ。《インヴェーダ》の出現前であれば、まだ可能性は少しはあったでしょうが、今の状況では、真っ先にその《インヴェーダ》に殺されますよ、貴方」


 ジークはその答えに我慢できず、2人に聞いた。自分が言える立場でないことも理解しているが、尋ねずにはいられなかった。


「なぜ……、なぜお2人は立ち上がらないのですか? 私よりも強い大勇者と勇者でしょう! そんなお2人がなぜ、魔族の《インヴェーダ》を討伐なさらないのですか?」


 大勇者ビクトルと勇者ゼストはそれぞれ押し黙り、やがて口を開く。


「俺が戦わないのは、まだその時ではないからだ。《インヴェーダ》との闘いはすでに1年以上経過しているが、奴らの勢いは衰えない。俺が動くのは、《インヴェーダ》そのものにとどめを刺す時だ。俺はその時をもって、《英雄》へと昇格すると決めているのだ。だから今は温存のときだ」


「私の場合は、ビクトル殿と同じです。あまりにも《インヴェーダ》の情報が少ない。弱点らしきものは頭部への致命傷を与える程度しかなく、空を飛べないとその数に圧倒されて大抵が負ける」


 平屋の屋根の上に仁王立ちしていたビクトルが、地面に飛び降りる。ガシャンとした音を響かせながら着地した。そのまま、ジークの元まで歩いていき、底冷えするような声で言った。


「ジーク。だからお前も俺たちの邪魔をするなよ。俺たちは将来、《インヴェーダ》に止めを刺すためにこの国を作っているのだ。だからこそ、働けない奴に与える慈悲も余裕もない。お前もそれを胸に刻んで、ここでの身の振り方を考えるのだぞ」


 ジークは頭を下げながら、言葉を返した。


「承知しました」


 そうして、ジークは子供たちの元へ戻っていった。

 万が一に備えて、子供たちを教会もしくは、各国首都にある各勇者ギルドの信頼できるマスターの誰かに送り届けなければならないという覚悟を決めて。

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