第15話:冒険者の真似事
俺とシズクはログリッド村から、エイラ辺境伯領にあるノースガリア城塞都市まで飛んできていた。ログリッド村はアプラス王国の南東に存在する村だが、そこからさらに、北上した。シズクの体調に気を配りつつ、可能な限り速く移動した。だがそれでも、半日以上かかってしまった。
「さて、シズク。今日は昨日よりもかなり遅い時間に着いたな。どこかの宿で泊まっていこう」
「わかりました」
俺の提案にシズクは、少しだけ元気が無いように答えた。恐らく、近くで《インヴェーダ》を見たり、俺がその習性について話したからだろう。さらには、今日一日ろくな休息も取らずに移動したことも原因だろう。大きな人口を抱えているはずの都市でも、深夜はかなり人通りが少ない。明かりがついている宿屋を探し出し、俺たちは早く寝ることにした。
「今日もいい朝だな」
俺は窓から差し込む陽の光で目を覚ました。今日はこの城塞都市で、《迷いの霧》について聞き込み調査をする。ログリッド村では、村の住民が消えたくらいしかまともな情報を得られなかった。むしろ、本当に知りたかった、《迷いの霧》とそこでシズクが見たというフードを被った魔族っぽい連中についても、情報を知りたい。だが前提として、《迷いの霧》を知っていなければ、フードを被った魔族っぽい連中について聞くのは、リスクだろう。人間達の土地で、魔族という単語はかなり敏感な話題だ。
とりあえず、俺は果物屋に行って、ゴリンという赤い果物を買った。手の平サイズの大きさで、水瑞しくて、甘く、程よい酸味で美味しい果物だ。俺は、銅貨2枚を支払いながら、果物屋の店主に質問をした。
「あの、1つお聞きしてもよろしいですか?」
なるべく、魔王だとバレないように、少し丁寧な言い方をした。果物屋の店主は愛想よく答えてくれた。
「ああ、なんだい? お客さんの頼みだからな。聞きたいことがあったら何でも言ってくれ。答えられるものであれば、教えるさ。それから、茶髪の可愛い妹さんには、もう一つゴリンをサービスだ」
そう言って、気前よく果物屋の店主がシズクに美味しそうなゴリンを手渡した。
「ありがとうございます!」
シズクはその見た目通り可愛く、お礼を言っている。俺はその光景に心を和ませながら、店主に質問を投げかけた。
「《迷いの霧》について何か知っていませんか? 知っていたら教えて欲しいんですが」
店主は白髪の混ざり始めた頭をかきながら、答えた。
「悪い、《迷いの霧》自体は知っているが、それ以上のことは分からないな。お前さん、もしかしてとは思うが、《迷いの霧》を探しているのか? 誰か、知り合いでも捕らわれちまったか?」
俺はログリッド村での対応と同じ反応をする。シズクの頭を優しくなでながら、シズクに顔を向けたまま、店主に答えた。
「ええ、シズクの知り合いが、《迷いの霧》に飲み込まれてしまったようなのです。それで、今は少しでも、情報を集めるべく、この周辺で聞き込みをしています」
店主は「なるほどなぁ」とつぶやいて、俺に助言をくれた。
「それなら、この町の中心部にある、教会に行くと良い。あそこは、身寄りのない人や子供を世話してるから、多くの人から支援をしてもらっている。そこのシスターなら、きっと情報を知っているはずだ」
店主が思わぬ情報をくれたので、ありがたいと思いつつ、念のためもう一つ聞いた。
「ありがとうございます。因みにその教会は何という名前でしょうか? 生憎、この町に来たのは最近で、詳しくないんです」
「ああ、その教会なら、ソレイジア教会だ」
俺とシズクはそれぞれ頭を下げてお礼を告げた。
「「ありがとうございます」」
店主は気前よく手を振りながら朗らかにしゃべった。さらにシズクを励ますように笑顔になった。
「良いってことよ。お嬢ちゃんも元気出せよ。友達が《迷いの霧》に捕らわれちまったのは、つらいだろうが、きっとまた会えるさ」
シズクが再度頭を下げた。
「ありがとうございます」
そうして俺たちは、ソレイジア教会へと足を運んだ。その途中にも大きな屋台通りがあり、町中が人でにぎわっていた。中には、武装した兵士や冒険者らしき人物がいた。この町は城塞都市だから、他の町に比べて、武双した人間が多いのかもしれない。
しばらく人通りの多い大通りを歩いたあと、教会らしい建物が見えた。全体的に、白く塗装されており、屋根はオレンジ色のやや目立つ色で塗られていた。そして、その屋根の頂点には、その教会のシンボルらしい紋章が備え付けられていた。
「やっぱり、教会は大きいですね! 」
そうシズクが興奮気味に言ったので、俺も首肯した。
「ああ、そうだな。宗教は多くの人の心の拠り所になるからな。だから、教会もその分立派なのだろう」
俺は、目の前にある大きな門を押した。ギ―、という音を響かせながら、教会の門が開く。
俺とシズクが中に入ると、そこには、シスターと子供たちがいた。シスターの周りのは、10人くらいの8歳前後の子供たちがいた。子供たちの数人はシスターにしがみついたり、彼女の後ろに隠れたりしている。それほど彼女から子供たちから信頼さえているのが見てわかった。
修道服を来た金髪のシスターが落ち着いた声で、俺たちに問いかける。その見た目は、全体的にふわっとした感じで体の線が分かりにくいが、きちんと協会の文様が縫い込まれた質の良い修道服を着ていた。
「ようこそ、教会においで下さいました。私はこの教会のシスター・シェーレと申します。差し支えなければ、貴方がたのお名前をお聞かせいただけませんか?」
俺とシズクはそのシスターの雰囲気に影響され、普段より落ち着いた口調で自己紹介をした。まずは俺から自己紹介を行った。こういう事態に備えて偽名も考えていてよかったと感じている。
「これはこれは。ご丁寧にごあいさついただきありがとうございます。私の名はロイドと申します。見ての通り、現在、この子と二人で旅をしております」
そう言って俺は、視線でシズクに挨拶をするように伝えた。シズクも俺と同様に頭を下げて挨拶をする。
「私の名はシズクと申します。改めてよろしくお願いします」
シスターのシェーレは俺たちに向かって、穏やかな笑みを浮かべて軽く頭を下げた。
「よろしくお願いいたしますね、ロイドさん、シズクさん」
そのまま俺たちに訪問の目的を訪ねてきた。
「それで、此度はこの教会にどのような御用でしょうか?」
俺は早速質問をした。
「それでは、早速ですが1つ質問をさせてもらえませんか?」
シスターのシェーレが優しい笑みを浮かべたまま、頷いた。
「ええ、かまいません。わたくしでお役に立てることがあれば、喜んで答えましょう」
俺も軽く頷く。
「ありがとうございます。お聞きししたいのは、《迷いの霧》についてです。この城塞都市の周辺で、最近《迷いの霧》についての噂をお聞きになったことはないでしょうか?」
シスターのシェーレが困った顔をして俺に言った。
「ええ、あります」
しかし、何かをためらっているのか、それ以上口を開こうとしない。それを見かねてなのか、彼女の服を掴んでいた栗色の髪をした小さい男の子が大きな声で俺に向かって言った。
「俺、知ってるぞ!」
その言葉に俺は思わず、目を見開いた。ようやく、知りたい情報が手に入るかもしれないとお持つつ慎重に聞くことにした。だが、シスターのシェーレが、遮るように言った。
「あなたは、黙っていなさい。モルト。私が答えますから。いいですね」
どうやら、栗色の小さい少年はモルトという名前らしいな。シスターのシェーレがモルトと呼んだ少年の背の高さまで、しゃがみ込み、彼を抱きしめた。モルトは抵抗せずそれを受け入れている。「わかったよ」とモルトが言葉を漏らし、再度シェーレが俺に向かって立ちあがった。
「ロイド様、これから私がお話しします」
シェーレは神妙な顔つきでそう前置きして、説明を続けた。
「あれは、2週間ほど前の出来事でございます。ここにいるモルトたちをはじめ、20人近い子供たちが、城塞都市のすぐ近くの森で遊んでいました。最近は、正体不明の化け物共が頻発し、危険でしたが、勇者様やこの国の兵士たちが見張りをしてくださったので、いつも以上に城塞都市の外も含めて治安が良かったのです」
そこで言葉を区切り、間をおいてからシェーレが言葉を紡いだ。
「ですが、2週間前、勇者の1人とこの場にいない子供たち10人ほどが、行方不明になってしまったのです」
再び、シェーレの言葉を遮るようにモルトが声を上げた。
「良くわからない……白い霧にゼタとノルンが飲み込まれたんだ! それで、俺も他の奴らも後を追いかけようとしたけど、勇者がきて、俺の手を掴んだんだ。そのあと、兵士がきて、俺たちはこの教会まで戻って来れたけど、その勇者とノルン達が戻って来ないんだ……」
最後には、泣きそうになりながらモルトが言い切った。シェーレはモルトの頭を撫でながら、「大丈夫ですよ」と声をかけている。そして、そのまま、モルトの頭を撫でたまま、俺たちに懇願してきた。
「ロイド様、ご無礼を承知で申し上げます。もしも余裕がございましたら、その勇者とノルン達を子供たちを探し出してはいただけませんでしょうか?」
俺は悩むこともなく即決した。今回は特に断る理由もほとんどなかった。久々というか、初めて良い勇者の話を聞いた気がする。
「わかりました。私たちの目的は、その《迷いの霧》の調査です。なので、余裕があれば、できるだけ、その勇者と子供たちを探しましょう」
シスターのシェーレが驚いた顔をしている。俺が気になって聞いてみる。
「驚かれれているようですが、なにかありましたか?」
シェーレは、首を左右に振って答えた。
「いいえ、そうではないのです。ただ、報酬の話もしてないのにも関わらず、快諾されるとは思いませんでした」
彼女は申し訳なさそうな表情をしながら、告げてきた。
「私達教会は大金を持っていないので、その調査に見合うお礼は支払えません」
「構いません」
俺は躊躇せず言い切った。シェーレが改めて、確認してくる。
「本当によろしいのですか?」
俺は、嘘ではないということを強調するために、はっきりと告げた。
「はい。たとえお礼を頂けなくても、《迷いの霧》にとらわれた子供たちと勇者は探します。それに最初から、私とシズクの目的は、《迷いの霧》を見つけることです。ですから、そこに入って、子供たちや勇者を探すことは十分に可能です。だから、任せてください」
シェーレは深く頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「わかりました」
そうして、俺は《迷いの霧》のより正確な場所や行方不明となった勇者と子供たちについてシスターのシェーレたちと詳しく話しあった。
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