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第10話:魔王の休暇と遠征準備

「お帰りにゃさいませ! 魔王様!」


 旧シエラ迷宮から、魔王城へ帰還した俺たちを出迎えたのは、俺の世話係をしている執事長のリンカだ。黄色がかった猫耳が特徴の魔族の女性だ。


「わざわざ、出迎えてくれてご苦労だったな。お前に任せた、人間の奴隷たちはどうしている?」


 俺は早速、シエラ迷宮で助けた奴隷たちの処遇を確認した。リンカは猫耳をピクピクさせながら元気よく答える。


「その事にゃんですが、複数人ごとに客室で待機してもらっていいます。当然それぞれに世話係を二人以上配置しています。万が一客人を傷つけたら、魔王様に殺されると脅かしています。だから大丈夫ですニャ」


 奴隷を傷つけたら俺が自分の魔族を殺すというのは、かなり脅しているような気もするが、どう反応すべきか悩むな。

 俺としては、裏切ったやつを許さないつもりであるが、善意で俺を思って暴走するのは少し困るな。簡単に注意しておくか。


「俺が奴隷たちをここに転移させてから戻ってくるまで、30分も経っていないと思うが、この短い時間でよくそこまで対応してくれたな。礼を言う。リンカ」

「ニャ! 魔王様に礼を言われるにゃんて恐れ多いです。でも嬉しいですニャ」


 リンカがしっぽをビクッと伸ばして反応した。俺がここだ、とおもって軽く注意する。


「だが、リンカ。俺は、俺に対する善意で動いてくれた奴に対しては、殺したりはしないぞ。裏切ったやつには容赦しないが。そうでなければ、殺そうと思ったりはしない」


 仮に本当に殺意を抱いたとしても、可能な限り我慢しないといけない。俺のできる範囲で、人間と魔族は可能な限り殺さないことを条件に、俺はソラリスに蘇生させてもらったのだ。当時、魔王でない俺は自力で蘇生できなかったが、今ならば恐らく蘇生できるだろう。まあ、いくら試しだとしても死んでみたいとは微塵も思わないが。


「わかりましたニャ」

「それでは、俺はしばらく、休憩する。できれば、3日程度で、奴隷たちの出身国とその情報をまとめて俺に報告してほしい。なお彼女たち本人が言いたくないのであれば、無理に言わせる必要はない。頼むぞ」


 一方的にリンカに命令すると、彼女は俺に頭を下げてその命令に着手した。ルシアにも命令を出す。


「ルシア。お前も2、3日は自室で休むと良い」


 ルシアも頭を下げる。


「承知しました。何かあれば、すぐにお呼びください」



 そうして、大勇者ブレイズを討伐してから、たった一日でかなり不穏な動きもあった。俺は今日の出来事を振り返る。


 ――大勇者ブレイズの討伐

 ――魔王城周辺に現れた軍団規模の《インヴェーダ》の殲滅

 ――勇者ブリーズの討伐

 ――アプラス王国の国王ウルヴァリオンが持っていた言霊を無効化する首飾り

 ――そしてその首飾りを売ったというフードを被った怪しい者

 ――旧シエラ迷宮にとらわれた奴隷たちの解放


 少しでも《インヴェーダ》について情報を集めて整理しないとな。魔力の消費量は大したことないが、純粋に動き過ぎて疲れた。

 まあ、それは俺の配下たちも同じことだろう。

 そうして俺は、自室に戻り、眠りについた。




 あれから三日がたった。幸い《インヴェーダ》の襲撃はなかった。


 俺の前にはシズクとリンカがいた。俺は玉座に座りつつ目の前に立っている二人と顔を合わせていた。シズクは魔法士のような恰好をしており、その隣には執事服を来たリンカがいた。俺は2人に事情を尋ねる。


「それで、リンカはともかく、なぜシズクがいる?」


 その言葉にシズクがビクッとして、震えている。それを見て、とっさに付け足した。


「いや、別にお前がこの場にいるのを責めているわけじゃない。リンカが報告に来るのは知っていたが、シズクまでここにいるのは聞いていなくてな。どうしてなのか、と気になったからだ」


 リンカが一歩前にでて、俺に告げる。


「その報告のことで、シズク殿に関しては彼女の口より魔王様に報告してもらった方が良いと考え、ここに連れてきましたニャ。にゃので、今回彼女をこの場に連れてきましたニャ」


「なるほどな」


 俺はそう言って、まずはリンカから報告を頼んだ。


「わかりましたニャ」


 そうして、リンカが報告し始める。


 ――まず、奴隷たちのほとんどが、アプラス王国出身であること。それ以外の国に住んでいたことは少ないということ。


 ――だが、数人他の外国から奴隷として売られてきた者たちもいた。


 ――具体的には、クゼ王国と神聖ソラリア帝国。


「ほう、神聖と名の付く国でも奴隷業は行われているのだな」

「それについてもっと詳しく調べましょうかニャ?」


 俺は手を左右に振って答える。


「いやいや、単純にそう思っただけだ。深い意味はない。話を遮って悪かったな。続けてくれ」

「はいニャ」


 そうしてリンカが報告を続ける。


「クゼ王国では、どうやら、いくつか村が滅亡したそうですニャ。異形の化け物に滅ぼされたと言っていました。その結果、消滅した村から都市に移住して、それでも上手くいかず奴隷になってしまったということでしたニャ」


「なるほどな、それで、神聖ソラリア帝国について教えてくれ」


「はいニャ。神聖ソラリア帝国では、常に大勢の軍人が辺境の周辺も含めて巡回しているそうで、滅亡した村や町は1つもないと言ってました。しかし、それでも村や町の犠牲が出ていることは間違いないようですニャ」



 俺は思案しながら、リンカに言った。


「なるほどな、もしかしたら、住んでいる村や町が《インヴェーダ》の襲撃によって壊滅し、生きていくために奴隷になるしかなかった人間達もいるかもしれないな。リンカ、お前の部下たちを使ってもう少し人間達の国家の情報を探ってくれ」


 リンカは頭を垂れて答える。さすがに耳までは垂れないようだ。


「承知致しましたニャ。化けるのが得意な者たちを人間社会に送り込んでおきますニャ」


 俺は頷いて、もう一つ尋ねる。


「頼んだぞ。それでアプラス王国の被害についてはどの程度把握できた?」

「はいニャ。アプラス王国では、いくつかの辺境の村が滅びたそうですニャ。それで、貴族たちが騒いでいると聞きました。元貴族の奴隷がいましたのニャ」


 貴族から奴隷落ちするのは精神的に計り知れないショックだろうと感じた。


「まあ、その元貴族から奴隷に落ちた者たちの心の傷も大変だろうからな。少しだけ、気を配ってやれ」

「わかりましたニャ」


 まだ他にも報告はあるのかと聞いたが、ないと言われたので、俺はシズクの方を向いた。


「シズク、俺にそこまで気を遣う必要はない。楽に話してくれ」


 シズクは視線を左右に揺らして小さい声で答える。


「ですが、それは失礼になるのではないでしょうか?」


 俺は首を横に振る。


「大丈夫だ。隣のリンカは語尾とかに「ニャ」をつけたりするだろう。だからお前もそこまで気にしなくていい」


 シズクは小さく拳を握りしめて答える。


「わかりました。頑張ります!」


 俺は苦笑しながら言った。


「いや、そこまで気合を入れなくていいぞ。気軽に話してくれ。それじゃ、早速で悪いがお前の話を聞かせてくれ」


 俺は気になっていたシズクの話を聞くことにした。シズクは緊張しながらも必死に答える。


「はい。私はもともと流浪の民として、生活していたんです。魔族ですが、力は強くないですし、人間社会では上手くなじめるか心配だったので、比較的安全な森の近くで住んでいました。ですが、1年くらい前から気持ちの悪い化け物が現れ始めました。なので、私は人間の国に行くことにしました。この見た目なので、人間社会にも十分溶け込めると思ったんです」


 俺は相槌を打つ。


「確かにな。お前の見た目であれば、人間にしか見えないからな。魔族と言われなければ気づかれることも少ないだろう。それから、恐らくだがお前の言う気持ち悪い化け物は《インヴェーダ》と呼ばれる存在だ」


 シズクは少しだけ目を輝かせる。


「そうなんですね! その化物は《インヴェーダ》って言うんですね」

「どうした、嬉しそうだな」


 俺がそういうとシズクは耳まで真っ赤にして、小さく答える。


「すみません。私、知らないことを知るのが好きなので、その化物の名前がわかって嬉しくなったんです。これでも、いろいろな魔法を研究していたりするので」


 この子は研究者に向いているかもしれないなと思いつつ。シズクに話してもらうように促す。


「なるほどな、その後は何かあるのかな?」


 シズクはこくりと頷く。


「はい。その人間の国はアプラス王国ですが、そのアプラス王国に移動する途中の出来事なんです。なんか、あやしいフードを被った魔族っぽい人たちが、円状の魔法陣の中心にかがり火を灯して祈りのような儀式をしていたんです。それで、気になって見続けたんですが、ばれそうになったので逃げました。私が気になったのは、《インヴェーダ》の襲撃があるのに、人の目から隠れるように何かの儀式をしている人たちがいた事です」


 フードを被った魔族っぽい連中か。

 もしかしたら、アプラス王国の国王ウルヴァリオンに首飾りを渡した連中と何か接点があるかもしれぬな。探ってみるか。


「わかった。教えてくれて感謝する。それで、シズク。その場所がどこにあるか分かるか?」


 シズクが俯く。


「ごめんなさい。わからないんです。アプラス王国の近くの森だとは思いますが、私は《迷いの霧》に飲み込まれてしまっていて、その最中での出来事なんです」


 俺はため息を我慢して、シズクに問いかける。


「なるほどな。《迷いの霧》か、それは厄介だな。という事はお前のいた森はもしかしたらアプラス王国の近く()()()()可能性もあるのだな。だが、よくそこから無事に出てこれたな。迷いの森に飲み込まれた者は、そのまま行方不明になるということも珍しくない」


 しかし厄介だと内心で毒づいた。


 迷いの霧は、別名《迷いの森》とも呼ばれる。山の中でしか発生しない霧だ。運が良くその霧から出られても、自分が元いた森に出られるとは限らない。幸い、迷いの霧は噂としてすぐに広がる。人間達が迷い込まないにするために、その情報は噂であっても拡散される。となると、やることは1つだ。


「シズク、そのフードの奴らの服装や雰囲気は覚えているのだな?」


 シズクはしっかりと答える。


「はい。覚えています」


 俺は今決めたことを、ここで宣言する。


「なら、俺はそのフードの連中を探しに行く。そいつらには聞かなければいけないことがある。シズクできればお前も一緒に来て欲しい。いやであれば無理強いはしない」


 シズクは大きな声で言う。


「いえ、私も連れて行ってください。せめて助けてもらったお返しがしたいんです」

「わかった。それでは明日の朝、日の出と共に出発する。それまでお前は旅の準備をしてくれ。必要があれば、遠慮なくそこにいるリンカに言って欲しい。恐らく長旅になる。そのつもりでいてくれ」


 俺は視線をリンカに向ける。


「リンカ、さらにお前の仕事を増やして申し訳ないが、シズクの面倒も見て欲しい。頼むぞ」


 リンカは尻尾を左右に振って答える。


「お任せくださいニャ」


 その返事に頷いて視線を2人に向ける。


「他に何かあるか? なければこれで終了だ。それぞれ準備や仕事に取り掛かってほしい」

「は、はい。わかりました」

「承知しましたニャ」


 そして、俺の前から二人は下がり、俺も自分の準備に取り掛かるのだった。


 ルシアについては今回は、残ってもらおう。彼女がいた方がこの魔王城の守りも安全だ。ルシアは嫌がるだろうが仕方ない。


 何より人間達の元奴隷もいるしな。彼女たちに何かあったら、身の安全を守ると言った約束も破ることになってしまう。


 重い足取りで、俺はルシアの部屋に行くのだった。



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