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一目惚れって傍若無人!ーその後ー

一目惚れって傍若無人!

のその後の物語です。

主人公は、シャロンの妹のガーベラ。

前作での馬車襲撃事件で犯人は捕まったけど? 

…。


前作の主要登場人物が大半出てきます。

あと数作、続編を書く予定です。


是非読んでくださいね!



それはいつも突然やってくる…。


私の気持ちなんて無視して、冷酷にやってくる…。





今日は楽しみにしていたガーデンパーティー!

2日前からワクワクしていた。

昨日は忘れ物がないか3回も確認した!!!


なんたって、シャロン姉様が王都の中心にある公園の一角にあるバラ園を貸切にしてくれたのだ!

広大な公園にはバラ園の他にも芝生の広場や噴水や池などがある。


その中のバラ園は大変素晴らしくて、一度でいいからバラ園を貸切にしてお茶会をしたいってずっと思ってたから。

私の夢が叶う!


今日はこのバラ園で王立学園の刺繍クラブのみんなとお茶会。


「ガーベラ様、本日はお招きありがとうございます」


「ガーベラ様、まさかこのバラ園を貸切にできるなんて!すごいですわ」



貸切でお茶会をするという贅沢を少しでも多くの人に体験してもらうために、刺繍クラブに入っていなくても、刺繍クラブの会員と一緒なら参加してもいいことにして今回のお茶会を開催した。


お茶会と言っても、それぞれ少しずつ茶葉やクッキーなどを持ち寄った質素なものだ。


お小遣いの範囲でお茶会をしましょうというのが、「刺繍クラブ」の決まり。

だから基本は質素なお茶会。

だってお茶会のメインイベントはなんたって刺繍の見せ合いっこ。

だから、お茶やお茶菓子よりも、刺繍道具が大切だった。



「5日前から、公園が閉鎖になっているのに公園に入ってバラ園でお茶会なんて!しかも貸切ってすごいですわ!」


「公園が閉鎖になっているのは、詳しく分からないですけど、盗賊が出て馬車が襲われたようですわね」


「でも、これだけ警備隊や騎士様が公園にいらっしゃるなら安心この上ないですわね」




見回すと、バラ園の入り口には騎士様がいて、公園には数人の騎士が何かを探している。


「そうですわね。騎士様がいる中だと悪事は働けませんわね」

私は笑った。


「でも、よくバラ園を貸切にできましたわね?

我が家は、兄が結婚する際にここで結婚式をあげたいと兄嫁が申しまして貸切に出来ないかと役所に掛け合いましたけど、貸切が出来なくて泣く泣く断念致しましたわ」

と、マクベス・カニバル伯爵令嬢。


「本当に。なかなか貸切なんてできませんのに素晴らしいですわ!」

と、マクベス様のお友達のシェラ・ニーム伯爵令嬢。王立学園より花嫁修行に重きを置いたデラルーナ女子学園に通っているそうだ。

今日初めてお会いしたマクベス様のお友達。



と、そこへストロベリーブロンドの騎士服を着た甘いお顔の男性が入ってきた。


「お嬢様方、貸切のバラ園はいかがですか?

私はハロルド。ここにいるガーベラ・エドマンズ伯爵令嬢のお姉様のシャロン・エドマンズ嬢の友人です。

お姉様からプレゼントを預かってきました。」


と男性が言うと、男性の後ろから沢山のケーキや焼き菓子を乗せたワゴンを引いた侍女が数名入ってきた。


「さあさあ、お嬢様方、お茶とお菓子を召し上がりください」


「「わぁすごい!素敵だわ!」」

皆、感動している。



今更ながら、シャロン姉様は何をしたのか気になってしょうがない。

姉は、5日前から帰っていない。

家には、盗賊事件で忙しくてしばらく帰れないと通知がきた。


そして二日前、突然、

『ガーベラの夢であるバラ園でのお茶会、2日後に叶えてやる。友達を誘って公園に来い』 

というそっけない手紙が届いた。

どう見ても姉の直筆だ。


そして公園に来たらこうなっていた。



「ガーベラ様のお姉様ってお会いした事ないけど、何している方なの?」

と、聞かれた…。


姉の騎士団勤めは、かっこよくて憧れる。

でも他の兄弟からは『姉様があの乱暴な騎士だってバレたら恥ずかしい』だの、『あんなガサツな姉がいたらせっかくうまくいきそうな令嬢との婚約も無しになるじゃないか』などと口止めされている。


「庁舎勤めですわ」

私は答えた。 


「ガーベラ様のお姉様ってお優しいですわね。こんな素敵なパーティーを開いてくれるだなんて」

マクベス伯爵令嬢はうっとりしている。


そう。姉は優しい。乱暴な言葉遣いと態度でわかりにくいけど。

本当なら今日は姉と2人でショッピングの約束をしていた。

騎士団のお仕事は不規則で、なかなか一緒にお買い物に行く時間がないから…。


約束していたのに、仕事でキャンセルはよくあること。

でも、騎士団という名誉なお仕事をしている姉はすごくカッコいいから、いつも文句は言わない。


「ええ!姉は世界一優しい自慢の姉ですわ!」

私は笑顔で答えた。



今日はなんて素晴らしいんだろう!

だって、参加した方々は皆楽しそうにしている。


今日のお茶会は参加者が多い。

初めてお会いする方も多くて、こんなに刺繍が好きな方が身近にいらっしゃるなんて知らなくて、私はウキウキした。


それにびっくりしたのが、お姉様からのサプライズプレゼント!

沢山の種類のケーキと数種類のお茶!

それが気分を盛り上げる!



ケーキもお茶もすごく美味しい。



「ねぇ、あのハロルド様はお姉様の恋人の方かしら?」

と、アシュレイ様がヒソヒソ声で聞いてきた。


「姉はまだ誰とも婚約しておりませんし、詳しくはわかりませんわ」

と答えると


「ハロルド様って素敵ね。

あのキラキラと輝くストロベリーブロンド!それに騎士様ってエリートなのよね?」


「でも、騎士団の方って危険な仕事よ?私は危険がない内勤の方がいいわ。

だって毎日、無事を祈るのは嫌ですわ」


「確かに。それに、駐屯先によっては辺境にもついていかないといけないんですわよね?私は王都から出たくありませんわ」


と婚約者のいない方々は、理想を言っていた。

婚約者のいる方は概ね満足しているのか、


「領地に行くのが楽しみですわ」

などと意見は様々。


私は、何も言わずに「うんうん」と聞いていたら


「ガーベラ様はどうですの?」

と聞かれたので


「私は、どんな場所に行こうと楽しく過ごせればいいですわ。」


「辺境でも?」


「ええ。構いませんわ。そこで刺繍ができれば」


私の答えに皆、フフフと笑って、確かに!となった。



そんな話をしていたらケーキを食べ過ぎてしまった!

このケーキ美味しすぎ!



あまりにもケーキが美味しくて、

「これはどちらのパティスリーのですか?」

とハロルド様に聞いている方々がいた。


ハロルド様は

「さぁ?僕は預かってきただけだからね」

と困ったように答える。



お茶会とはいえ、メインは刺繍。

ひとしきりお茶を楽しんだ後は、刺繍をしながらおしゃべりをした。



今日の私はビーズを使った刺繍をするつもりで、沢山のビーズを持って来ていた。


「あら、今から使いたいビーズがカバンの中ですわ。ちょっととって参ります」


と私は言って、バラ園の隅のブナの木陰に向かった。

そこに置いたカバンから、ビーズを入れている大きなお菓子の缶を出した。

この缶は王都では有名な『カメリヤ』というクッキーのお店で、味は王都1番。

お値段は庶民でも手が届くくらいだから、お店はいつも行列だ。


この『カメリヤ』のクッキー店の特大缶が、刺繍道具を持ち運ぶのには便利で私は愛用している。



私は、缶の蓋を開けて、どのビーズを使おうか考えながら歩いた。

チャームとして使いたいから、この3センチくらいの大きな青いガラスのビーズかしら?

それとも、1センチくらいのピンクのビーズを複数付けるとか?…



と、考えながらあるいていると、ブナの木の根に足を取られて派手に転んでしまった。

手に持っていた蓋の空いたビーズ入りの缶が高く飛ぶと、中のビーズがキラキラと輝きながら広範囲に落下した。


その時私は

『沢山のビーズが日の光を浴びてキラキラ綺麗だなぁ』

なんて呑気に考えていたんだけど…。


我にかえると、沢山のビーズが散らばっていた。

薔薇の生垣の根元にも散らばっている。

生垣の下に落ちたのは少しだった!よかったわ。薔薇は棘があるから生垣の下に入るのは大変だから。



しかし恥ずかしい…

でも、幸いにも転んだのは皆からは見えにくい木陰で誰にも気づかれていなかった。


私は芝生に散らばったビーズを拾い集める。

ガラスの容器に入れてあった小さなビーズは、容器が割れずに無事だった!



よかったー。


と、まず缶を拾う。


大きなサイズの透明なビーズは、まるで宝石のようにカットされているので、芝生に反射して更にキラキラしている。


私は一つずつ拾い集めて缶に入れた。


ビーズは小さいので広範囲に落ちていて、拾い集めるのに屈んだり四つん這いになって、あっちこっちと動き回り、缶に戻していった。



薔薇の生垣の前まで来て、生垣の下に落ちたビーズを慎重に拾っては缶に入れ、拾っては缶に入れ…。


と。


「あなたもそれを…」


振り返ると、声の主はシェラ・ニーム伯爵令嬢だった。


私は生垣の下から拾い上げた淡いグリーンの直径5センチにカットされたガラスのビーズを拾い上げて、シェラ嬢に見せるように手のひらに乗せた。


「これですか?フフフ。こんなに大きいの、見たことないですわよね?

でも、これがお気に入りですの。

なかなか売ってないから大切にしていますのよ。

これは姉に貰いましたの」


こんなに大きなガラスのビーズは見たことないので私の宝物だ。



「お姉様が?

やっぱりお仲間なのね。

でも、独り占めはよくないわ。

私もどうしてもバラ園に来たかったのです。

だって、先に見つかってしまったら…って考えると怖くて怖くて!

どうやってバラ園に入ろうか思案しているときに、貸切の話をマクベス様から聞きましたの。

マクベス様にお願いして、今回のお茶会に参加しましたわ。

もしや、先を越されるかもって思ってましたから…。

そしたら、案の定!」


私は話が見えないので黙って様子を伺っていた。


「大きい缶はもう探し当てましたのね。そして、生垣の下に入るってことは…独り占めしようしてるんですわよね?」


私は何も応えない。

なんだか様子がおかしいし、話が見えない。


「その小さい方も探し当てたから、生垣の下に入っていたのでしょ?

そうはさせませんわ!」


いつの間にか後ろに誰かいる事に気づいた。


「アンタが、さっきから四つん這いで石を見ている事に気づいて慌ててきてみたら!」


その声で振り返ると、そこには騎士服を着たみたことのない男性が立っていた。 



前にはシェラ・ニーム伯爵令嬢、後ろには騎士様。

そして、右手には薔薇の生垣がある。


このただならぬ雰囲気…。

空気が張り詰めていた。



そんな時!



グルグルグルグル…



それはいつも突然やってくる…。


私の気持ちなんて無視して、冷酷にやってくる…。



…。

おっ、お腹が…この痛み…




そこに、マクベス・カニバル伯爵令嬢が、左手側に立った。

四方塞がれ、逃げ道が…ない。


逃げられない!!



突然始まった腹痛は、ゆっくりと…でも確実に痛んでいく。

早く…トイレに行きたい…

まだ少しだけ我慢できるけど…。


「何よ!

なんか言ったらどうなの?」

とシェラ嬢。


「私はその宝石が興味があるわ!だって、夜会の後に逢引きするカップルのものでしょ?

馬鹿よね。大体のカップルが、この公園で逢引きするんだから、豪華な馬車が来たら襲えばいいんだものね?

あなたの手の中の宝石。私によこしなさい!」

とシェラ嬢。


「名簿はやらないわ!だって取り分が減るじゃない?」

とマクベス嬢。



…私は宝石なんて持ってないし、名簿も何のことか不明…それよりもなによりもトイレに行きたい!

運良く、トイレはブナの木の横だ。


話し合いなんてする時間の余裕はお腹にはない。

刻一刻と、痛みは酷くなる。


ケーキ食べ過ぎたのかな?

それとも、昨日の夜寝る前に牛乳を沢山飲んだから?

やばい…

もうすぐ限界!


グルルルルルル

…下痢だ!


走ってトイレに行こう!

今ならまだ間に合う!


私はトイレに向かって走ろうと勢いよく一歩踏み出した!


進行方向にはマクベス嬢。


「逃がすか!」

そう言って襲い掛かろうとしたため、屈んで避けたら、シェラ嬢が後ろから殴り掛かろうとしていたので、その手をとり、シェラ嬢をマクベス嬢に向かって放り投げた。


軽々と持ち上がったシェラ嬢はマクベス嬢に向かって飛んでいく!

それから、マクベス嬢の足を払い倒すと、2人とも薔薇の生垣に倒れ込んだ。


傷だらけで立ち上がる…。

次は、騎士服を着た男性が殴りかかってきたので、拳を受け止めて、こちらも殴り返そうとした時、


そこにハロルド様が走ってきた!

「何をしている!」



と言われたが、拳は勢いを緩められず、男性にクリーンヒットした!

ひるむ騎士服の男性!


ハロルド様は、その騎士服の男性を後ろから私の進行方向とは違う方向に蹴り倒してくれた。


私と男性に距離ができたため、私はトイレに向かって再度走り出そうとした!


もう限界!

あと1秒だって待てやしない!


もしもの事があると私の令嬢生命が終わる!

しかもこのイケメンの前で!!!


…でも、このビーズも大事!

せっかく拾って箱に戻したのだから!!!!  


「預かってください」と、ハロルド様に箱を押しつけて後ろは振り返らずにトイレに一目散に向かった。


後ろから争う音がしたが、そんなのは腹痛でトイレしか目に入らずに無視した。



…10分後…なんとかギリギリ間に合って事なきを得た私は顔を緩ませてトイレから出た。


ハロルド様、ありがとうございます!

この御恩は一生わすれません!


と思ってトイレから出てきたら…。

先ほど争っていた場所に、騎士服の男性とマクベス嬢と、シェラ嬢が縛られて座らされていた。

他のご令嬢から影になるように、数人の騎士が立っている。



ハロルド様の手には、私のビーズが入った缶がある。

私はハロルド様に近づいた。


「ありがとうございます」


「この缶、中を見たよ?これ、すごいね?」


と、淡いグリーンの直径5センチにカットされたガラスのビーズをハロルド様は持ち上げて、手の上に乗せると眺めている。


「ええ!シャロン姉様からもらいましたの」

私は笑って答えた。


ハロルド様の目の前の3人は、羨ましそうにハロルド様を見る。

「アンタも共犯か?」

男が小さい声で言った。


「違いますよ?ここにいるガーベラ嬢もね」

ハロルド様は綺麗な笑顔で笑った。


その笑顔に私はドキドキした。

なんてかっこいいのかしら。


でも会話の内容はよくわからない…。


「ガーベラ嬢、最初にこいつらに声をかけられた時、あなたはどこで何をしていました?」

優しく問いかけるハロルド様。


私は薔薇の生垣の下を指差して、

「ここで落としたビーズを拾ってました」

と答えた。


すると、ひとりの騎士が、素手で、薔薇の生垣の下を掘ったら、中から『カメリヤ』の特大缶と小缶が出てきた!


掘り出した騎士が、2つの缶をハロルド様に渡した。


ハロルド様は中を開けると、特大缶には、宝石が詰め込まれていた!

そして小缶にはノートが…。


ハロルド様は満足そうに頷くと、

「他のお嬢様達に気付かれないように3人を連れ出してください。

それから、これは証拠です。証拠はダニエルに渡してください。

私はダニエルから、最後まで立ち会うように言われてますから」

と答えると、私をエスコートする様に、他のお嬢様達のところに連れて行ってくれた。  



「あなたもお強いですね。」

とハロルド様。


「いえ。あの…姉には負けます」


「…お姉様のお仕事の内容はご存知ですか?」


「ええ。騎士団と聞いておりますが、傷一つ付けずにいつも帰ってくるので、広報活動ではないかと思っております」


しばらく沈黙があった。


「…そうなんですね。あなたも将来は騎士団に?」


「姉に歯が立ちませんのに…そんな姉でも広報ですから。私には無理かと思います。」


「あなたなら大丈夫ですよ。

先ほど聞こえましたが、あなたは刺繍さえできれば辺境に嫁いでも良いと?」


「ええ。私を大切にしてくださる方なら」


「…そうなんですね!

しかし、あなたの笑顔は無防備です。殿方にデートに誘われる事が多いでしょ?」


「いえ。それが皆無なんです。何故か皆様、逃げて行かれます。『殺戮の女神の影が見える』なんて言われたこともありますわ!失礼な!」


ハロルド様は笑っていた。


「あなたのお姉様はすごいですね!」

何がすごいのかさっぱりわからないけど、私はお礼を言った。


そして私は皆の元に戻り、元のように刺繍の話を始めた。



次の日、何故か私は王城に呼ばれた。

お城に行くのは実は初めて!

何故呼ばれたかわからない。

しかも、呼び出しは文書室だった。

「就職のお誘いかな?」

と?のんきな父。


呼ばれた文書室に行くと、シャロン姉様と、その横にはクールビューティなクルクルとした巻き毛の女性、それから銀髪の美形な男子と、ハロルド様がいた。


この、美形の集団を直視できない私…。

姉様は、世界一綺麗だと思ってたけど、負けず劣らずみんな綺麗だ…。


「はじめまして。ガーベラ嬢。私はダニエル・ヒュー・ジョンストン。」


銀髪の男性が名乗った。どこかで聞いたことある名前…。


「この度は、ここにいるハロルドが、君を危険に晒したそうで…シャロンが御立腹でね。

ここまで巻き込んでしまったから、君に話せる範囲の事を話そうと…」



ダニエル様の説明は、


「数日前、馬車が襲われた。

襲ったのは盗賊だ。

護衛騎士や偶然居合わせた騎士が盗賊を全滅させた。

そして盗賊を操っていたコックス男爵も捕まえた。

男爵は木陰で馬車に乗っていたのを捕まえたんだ。

しかしコックス男爵は『私も通りかかっただけだ。無罪だ』と言うんだよ。

で、コックス男爵の家を家宅捜索したけど証拠は見つからない。

色々調べると、男爵は普段からあの公園にいる事がわかったんだ。

そして、そのコックス男爵が懇意にしていたのが、カニバル伯爵とニーム伯爵だ。

どちらにも話を聞きに行ったが、コックス男爵を褒めるばかりで埒があかない。

そこで、長女であるマクベス・カニバル伯爵令嬢になんとか話を聞けないかと思っていたところ、ガーベラ嬢のご学友で仲良くしていると聞いてね。

今回のお茶会になったんだ。」



とここでハロルド様が

「当日はカニバル伯爵令嬢がシェラ・ニーム伯爵令嬢とともに来たからね。

これはちょうどいい!2人になんとか話を聞こうと思って様子を伺っていたんだ。

そしたらガーベラ嬢を襲っているじゃないか!

びっくりしたよ。

しかも、あの騎士服を着ていた男は、騎士団員ではなかった。」



「疑問がありますわ。まず、二日前、突然、

『ガーベラの夢であるバラ園でのお茶会、2日後に叶えてやる。友達を誘って公園に来い』 

というそっけない手紙が姉様から届きましたけど、お茶会にマクベス・カニバル様を呼ばないかもしれないって考えなかったのですか?」

と私は質問した。


「ガーベラのお茶会は、いつも刺繍クラブのじゃないか。

ガーベラにお茶会をしろと言ったら、必ず刺繍クラブのお茶会をすると思ったよ」

と、姉様は人前にもかかわらず、いつものガサツな言葉遣いで話した!


「それから、あの2人のご令嬢の言っていた意味がわからなかったのですが?」


「あぁ。あの2人は、コックス男爵と盗賊が隠した、宝石と名簿を探していたんだよ。

コックス男爵は、あの公園が貴族の逢瀬に使われているとこに目をつけた。

逢瀬ってことは、秘密の恋だ。

高位貴族の既婚者同士の逢瀬とか、そういった強請の材料になりそうな時は、盗賊に襲わせた後偶然を装って通りかかり、声をかけるんだ。

『俺は見てしまったよ』ってね。あとは見られた貴族は、口止め料をコックス男爵が請求する。

それと、高位貴族単体で通過しようとした時も盗賊に襲わせて、救出に向かって恩を売る。

名簿はコックス男爵の強請の材料の名簿だよ」

とハロルド様。


「襲った時に奪った宝石はすぐに売れないから、時間が経ってから他国の質屋に持ち込むつもりだったようだ。そのために公園に隠していたようだ」

とダニエル様。


と、ここでクルクルの髪のクールビューティな女性が拍手をした。


「これで上皇后様から言われた結婚の課題が解決したんですね!おめでとうございます!

あっ申し遅れました。私、シーボン・ハウズと言います。お姉様の友達です」

とクールビューティな女性が屈託なく笑った。


「私が、君の姉様に結婚を申し込んだんだ。

君の姉様が私の妻になってくれることは家族は大賛成だった。

でも…まだ私がしっかりしていないと思ったお婆様が、この襲撃事件を解決しないと結婚は認めないってね。」

とダニエル様。


私は話が見えなくて黙っていると、姉様が


「このダニエル・ヒュー・ジョンストンはこの国の第二王子で、私はダニエル様のプロポーズを受けた」

と少し赤くなりながら言う姉様。


「ところで、ハロルド、何か言いたいそうだな?」

とダニエル様。


「ガーベラ嬢、私とお付き合いしてください!」

とハロルド様から交際を申し込まれた!!

もう死んでもいいと思えるくらい心が舞い上がったが…


「同じ事を私にも言ったな?ハロルド殿は強い女性なら誰でもいいのか?」

とお姉様。

…一気に心が萎えた…


「私は将来、辺境伯になってくれという打診が来ている。

もしも私が辺境に行くなら、妻に望むのは自分を守れる強さを持つことだ。

以前は強いだけでいいと思っていたが、今ならそれが間違いだとわかる。

ガーベラ嬢が刺繍をしている様子など見ていたけど、人に気遣いができて、はにかむ笑顔は最高に可愛い。

強いだけじゃない、すごく魅力的な女性だ。

だから、結婚を前提にお付き合いしてほしい!

ガーベラ嬢しか私の相手はいない!」

とハロルド様が言ってくれた。



胸がドキドキして心臓が飛び出すかと思ったら…。



「…それって、真逆な私の事を言っているのか?」

と姉様。


「いや。あの。その。シャロン嬢を見た時は、強さだけに惹かれたが、ガーベラ嬢は人間的に好みのタイプだと…。」

と、フォローになっていない言い訳をするハロルド様。


「なんだか納得出来んが、兄妹の中で1番可愛いガーベラをやるに相応しい男か、私と勝負しないか?」

と、姉様はニヤッと笑った。


「ちょっと待って!

私の気持ちを無視していない?

私は…私は、ハロルド様とお付き合いしたいです。

私、ハロルド様の笑顔を見て…その…」

私は言葉に詰まった。


「一瞬で恋に落ちたと?」

助け舟を出してくれたのはシーボン様だった。


私は頷いた。


「ガーベラがそう言うなら…」

と姉様は認めてくれて、そこからハロルド様とのお付き合いが始まった。





数日後、王室から『第二王子ダニエル・ヒュー・ジョンストン様と、エドマンス伯爵家の長女シャロン・エドマンズ様の婚約』が発表された。


婚約発表の当日は、パルファム公爵家の次男、ハロルド・ペルファム様から、正式にお見合いの申し込みがお父様宛に届いたのでお父様は倒れそうになった!


ペルファム公爵家といえば代々、宰相を務める、御三家の一角!

シャロン姉様は王家、私は宰相様のお家にと。

相次ぐ大物との縁続きに、お父様は胃を悪くしている…。


「頼むから不敬罪だけは受けたくない」

が最近のお父様の口癖だ。




それから季節は目まぐるしく変わっていった。




今日は、立会人の衣装合わせだった。

もちろん、ダニエル第二王子とお姉様の結婚式で着る衣装合わせだ。


「疲れましたね」

とハロルド様。


私達は、今、街中のカフェでお茶をしている。

座っている席からは、騎士団の庁舎の出入り口が見える。


「今日は、シャロン嬢の最後の勤務日だと聞いたのでこのカフェを選びました」

悪戯っぽく笑うハロルド様に対して、私は首を傾げた。


「ほら、出てきた!」


庁舎の出入り口から、騎士服を着たシャロン姉様が出てきた!

髪は無造作に結び、顔はノーメイク。

…ノーメイク?

私もほとんど見たことないシャロンお姉様のノーメイク…。


庁舎から出て行く姉様に、男性騎士が縋り付くように追いかけてきた。

姉様は振り返りざまに蹴りを繰り出し、男性騎士は倒れた。

そして、その倒れている騎士を避けるように後ろからシーボン・ハウズ様が出てきて、お姉様と楽しそうに話しながらどこかに向かった。


「君のお姉さんはね、最後まで自分の本名を明かさなかったんだ。だから、騎士団の連中は騎士団ナンバー2『殺戮の女神』の異名を持つシャロン・ニボア嬢が何故騎士団を辞めるか誰も知らないんだ。

それもこれも、君たち兄弟が素性を明かさないでくれとお願いした事を守っているんだよ。

優しい姉さんだね」


私は今までの姉の優しさを改めて振り返った。


「それに、ダニエルが何故『ジョンストン』を名乗っているか…。それは、兄である現皇太子殿下と王位を争いたくないと言う意思表示なんだ。

本来なら現皇太子が国王になった時に、ダニエルは、初めて『ジョンストン公爵』になるんだけど、ダニエルなりに皇太子殿下の地位を盤石にするために、自分にできる事をしているんだよ。

だから、そんなダニエルのパートナーが、シャロン嬢で良かったと思うよ」

と、紅茶を飲みながら言った後、


「でも、誰よりも、私のガーベラ嬢の優しさには変えられない。

なんたって、学業を頑張り、私の休みの日には我が家に来てくれて…その上、シャロン嬢のウェディングドレスに寝る間を惜しんで刺繍をしている!

こんなに素晴らしい人が私の恋人で、自分の幸せを噛み締めているところだよ」

ととろけそうな笑顔で私を見た後、


ハロルド様は立ち上がり、指輪ケースを出すと跪いて

「ガーベラ・エドマンズ嬢、私と結婚してください」

と言ってくれた。


ハロルド様がサプライズで用意してくれた指輪には、淡いグリーンの宝石が輝いていた。


「はい!」

私は笑顔で返事をした。


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