助けてください、悪魔さま!
「あのね、アルフさん。明日の夜は山でお祭りがあるの、一緒に来て」
マーガレットは目をきらきらさせて言った。アルフは嬉しそうににっこりしてすぐに頷いた。
「マーガレットが行きたいんならどこでも連れてってやるよ」
山の祭り?そんなものはあったっけ。少なくとも人間の行うそれは予定されてなかったはずだけれど……。
そう思うものの、あくまで口にはできない。
「でもね……お母様とお兄様はきっと駄目って言うわ」
「そうなのか?」
アルフは眉を下げる。僕も眉を下げる。
「うん……だから二人でこっそり抜け出しましょう」
アルフは少し不思議そうにしてから、任せろとばかりに微笑んで頷いた。
「じゃあその前に二人で朝ご飯を食べような」
僕はその言葉を聞き、透明な姿のまま指を振るって食卓に朝ごはんを用意した。
ほかほかのパンと牛乳、その他に肉や野菜。僕もお腹が空いた。後で血をもらおう。
「あなたって素敵ね、まるで魔法みたいに料理を出しちゃうんだから……!」
アルフは得意げだ。マーガレットも楽しそうだ。
二人は幸せそうなお喋りをしながら食事をあっという間に平らげて、それから街へ出た。
残念なことに、僕が血を飲むタイミングは無かった。さすがにロマンチックな展開を止めちゃうのは申し訳ないから自重していたんだけど、正直お腹が鳴りそう。
すると、二人が少し人気のない道を歩いていたところに若くガタイのいい……身体の表面積が広くて、食べがいのありそうな感じの男性が現れた。
「マーガレット!お前というやつは……!何をしているんだ!」
あれ、こんな人僕の予定にないんだけど……。
とにかく僕は事の成り行きを見守った。
「お兄様……!」
マーガレットは怯えた様子でアルフの後ろに隠れる。
「お兄様?」
アルフは反射的になのかマーガレットを守り隠すように手を広げながらも、困惑がちに問いかける。
「そうだ、オレはマーガレットの兄貴だよ。オレの妹に手を出してんのか!お前!」
そう喧嘩を吹っ掛けられて、アルフは縮み上がった。そして追い打ちをかけるように、その男は彼に手を上げた。
「たっ……助けてくれ、エレオス……!」
僕はその言葉を聞くと一つ指を鳴らした。
「……えっ?」
幸せそうな二人の前に出て邪魔をするわけには行かない。僕は彼の手にナイフを持たせ、手を振り上げてきた男の心臓目掛けて突き刺させた。
その瞬間、血がポタポタと落ち、男は倒れた。
マーガレットは目をまん丸くして、口元に両手を当てながら顎を上下に震わせていた。
まるで何かー恐怖だろうかーを噛みしめるように。
マーガレットもアルフもしばらくそうして硬直していた。けれどマーガレットは、しばらくしてからアルフに抱き着いた。
「愛してるわ、アルフさん……!あの人を殺してくれてありがとう!私は、あの人にずっと縛り付けられるところだった……」
そんなことを言うマーガレットを、彼は面食らった様子になりながらも抱きしめ返した。
「ああ……」
ぼんやりとそう答えながら、彼はマーガレットの髪を撫でた。
「あなたの幸せが私の幸せよ、アルフさん。……私の幸せもあなたの幸せであってほしいわ」
甘えるようなその口ぶりに、僕は眉をひそめた。アルフは、困ったように眉を下げて微笑む。
「うん、そうだな……マーガレットの幸せが俺の幸せだよ」
これは参ったことになったなぁ。そう思いながら僕は指を振って、彼の服を綺麗にした。