愛をください、悪魔さま!
食事を食べ終わると、アルフは満足気に息を吐いた。
「もうさすがに食べれねぇ……」
そういう彼の目の前には、もうあるだけのものをすっかり食べつくされてしまったアフタヌーンティーのセットがある。
そこまで丹精込めて作ったわけじゃないとしても、そうして言ってもらえるのは正直嬉しい。改めて可哀想な人間に尽くす幸せを感じながら、僕はそんな彼の前の椅子に腰を掛けた。
「じゃあ、次のお願いを聞かせてよ。何を叶えてほしい?」
彼は今度は悩まなかった。むしろ僕の質問に表情をきらきらさせて、机に身を乗り出しながら言い始めた。
「女!可愛い恋人がほしいんだ!」
「いいよ、どんな女の子?」
「綺麗な金髪をしてて、鼻が通ってて、肌がきれいな白で……華奢だけど女らしい体の。性格は、そうだなぁ……優しくて尽くしてくれる子がいい!」
僕はすっからかんになったケーキスタンドを指先でつついた。
すると、ケーキスタンドは床に転がり落ちてするすると人の形になっていく。
彼の望み通りの女の子の形をなしたそれは、目を何度かぱちくりさせてからアルフを見遣って、にっこり微笑んだ。
「こんにちは、私はマーガレット」
アルフは女の子を見つめて顔を真っ赤にした。それから肩をこわばらせて、緊張した様子になりながらもじもじと自己紹介をした。
「お、俺は……アルフ・サンダース」
マーガレットはアルフに歩み寄ってその手をとった。
「よろしくね、アルフさん」
アルフは顔を真っ赤にしたまま、しばらく目を泳がせたあとででれっと笑みを浮かべた。
「うん」
照れくさそうな笑みに、マーガレットも笑みを返した。
「僕は……いない方がいいよね」
そう問いかけると、アルフは申し訳無さそうに小さく頷いた。
まあ恋人同士の幸せな風景に悪魔が一人突っ立って見ていたらあまりに異様だ。当然のことだよね。そう思いつつ僕も頷いて、マントを翻して空気に溶け込む。
いない方がいいよねとか確認のために言ったけど、契約者のことはちゃーんと見守らないといけないから身体を透明にしただけ。ばっちり全部見えてるんだよね。ごめんねアルフくん。
とにかく二人は一緒にお花畑を散歩し、
(僕はその間に追っかけてくる借金取りの気をあの手この手で逸らし、)
素敵なドレスとタキシードを買って、
(服屋の主人に催眠魔術をひたすらにかけて服を作らせ、)
夜になるとお洒落なレストランで食事をして、
(そのお金は僕が世界のいろんな富豪から拝借してきて、)
家に帰るとふかふかのベッドで二人で眠った。
朝がくると、アルフは鶏が鳴き始める前に目を覚ました。
「しっ……仕事に行かなきゃ!」
身体を起こして、開口一番に言い出したのはそれだ。マーガレットはそれで目を覚ましてしまって、眠たそうに目を擦りながらアルフに微笑んだ。
「仕事なんてしなくていいでしょ、私とずーっと一緒にいて」
甘えるような彼女の仕草を見て、アルフは寝ぼけているのか少しきょとんとした。けれどすぐにでれっと頬を緩ませた。
「うん、そうだな」
二人は幸せそうに微笑み合ってキスをした。