ご飯をください、悪魔さま!
こうしてアルフとエレオス、僕たち二人の三日間は始まった。
「じゃあ、手始めに何がしたいかな?」
僕が聞くと彼は不思議そうに目をぱちくりした。それから目を伏せて、顎に手を当てて考え込んだ。
「うぅ〜ん……」
アルフくんはとても悩んでいる。まあ突然何でもできるようになったら何をしたらいいか悩んじゃうよね。
普段はあれが欲しいこれがほしいと言っているのに、いざという時にはこうやって悩んでしまう。人間たちのこういうところも可愛いと思う。
「いいよ、ゆっくり考えて。僕はそんなにせっかちじゃないから」
僕への返答のつもりなのか、彼は三回くらい頷きながら考え続けている様子だった。
五分くらい経ったあと、アルフくんは顔を上げた。僕はその決意に満ちた顔を見つめてにっこりと微笑んだ。何でも聞くという意思表示だ。
「腹が減った」
「うん、そうなんだ」
「だから!食事が食べたい!」
「どんなのがいい?」
「アフタヌーンティー!」
なるほど、アフタヌーンティーか。たしかに最近上流階級では流行り始めている。けれど彼はどの角度から見てもバリバリの平民だし、そういう文化との関わりはないんだろう。お腹がいっぱいになるまで食べさせてあげよう。そう思って僕は頷いた。
「それならまずは会場から整えなくちゃね」
そう言いながら、タクトでも振るように指で視界をなぞる。
「上流階級のアフタヌーンティーは完璧な環境と、完璧な紅茶と、完璧な食べ物がなくっちゃ」
僕がそう言ったのより、アルフくんの気は美しくなっていく部屋に惹かれているらしい。表情を輝かせて部屋の中を眺める彼が微笑ましい。
少しするうちにアルフの部屋は美しい上流階級好みの部屋になり、完璧な支度ができた。
僕は最後の仕上げに上品な白木のテーブルを指先でトントンと叩いた。すると綺麗な金細工のティースタンドが蔓でも伸ばすようにするすると出来上がり、実でもつけるようにスコーンやサンドイッチ、ケーキなどがその上に載る。
もう一度テーブルをトントンと叩くと、今度は陶器のティーポットとティーカップが現れる。
「すっげぇ……」
アルフはきらきらした目で出来上がったアフタヌーンティーを見つめていた。
ティーポットを手に取り、紅茶を彼のティーカップにこぽこぽと注ぎ入れる。
「どうぞ、召し上がれ」
彼はアフタヌーンティーに相応しくないような慌ただしい動きで猫足の椅子に腰を投げ落とし、サンドイッチを手にとって貪り始めた。
ひとくち食べた瞬間に目をまん丸くして、むしゃむしゃとそれを口に運ぶ。挟んだサラダと肉が溢れ落ちそうだ。
サンドイッチを食べ終えるとクリームをたっぷりつけてスコーンを口に運び、これまたあからさまに美味しそうな顔をする。頬にクリームがつくのも気にしない。
「美味い……!金持ちはいつもこんなの食べてるのかよ、羨ましいな……!」
彼はスコーンで乾いた口に紅茶を流し込む。しかし熱かったらしい。少し口に紅茶を含んでからじんわりと目に涙をにじませて、眉をひそめた。どうにか紅茶を飲み干すと、彼は舌を出した。
「にっが……!あつっ……!」
そう言って僕に苦笑いをする彼は、どこか楽しげだ。
「ミルクも砂糖もあるよ、好きなだけ入れるといい」
彼は笑って頷き、ミルクを注ぎ込んで砂糖を溶かし込んだ。たっぷりだ。それから少し湯気の減った紅茶をまた喉に流し込む。
「うげぇ、これは甘すぎた」
「あはは、だろうね」
彼は僕に笑い返す。どうやら、少しは仲良くなれたみたいだ。