お勉強だよエーヴァちゃん
歴史を感じさせる高級な机と椅子に座るエーヴァが紙にペンを走らせる。
人形のような外見で優雅にペンを走らせるだけでも一枚の絵になりそうなその姿にそれを見守る女性はうっとりと眺めてしまう。
そんな視線は気にせずエーヴァはスッと紙に書く平仮名の『う』続けて『た』字を見て満足気に頷くと紙を手にとって女性の方へ向ける。
「先生これで『うた』と読むので合っていますかしら?」
エーヴァに声をかけられ先生と呼ばれた女性は慌てて近付き紙を見る。
「ええ合っています。流石エヴァンジェリーナお嬢様! 字も美しくお上手ですし『うた』を選ばれるのも音楽の才能に溢れるお嬢様らしいです」
「お世辞はいいのよ。わたくしは日本語を覚えたいの。覚えて日本の文化に触れてみたいの」
先生の「お世辞じゃないです」と言う言葉は聞いておらずエーヴァは自分の書いた文字を見る。
(これが『うた』あたしが倒すべき相手の名前!)
自分の書いた文字を真剣に見つめる姿は『うた』という言葉の向こうに日本の音楽に想い馳せている様である。そう勘違いしたままの先生はエーヴァをうっとり見つめる。
「先生質問よろしいかしら?」
「え、ええはい。なんでしょうお嬢様?」
見とれていたところを声をかけられしどろもどろになる先生にエーヴァが真剣な表情で質問してくる。。
その真剣な表情が見せる美しさに思わず唾を呑み込む先生。
「相手を威圧または牽制する言葉って日本語でなんて言うのかしら? なんでしたら絶望させるような言葉とかでもいいのですけど」
「はい?」
真剣なお嬢様から発せられる質問に頭がついてこない先生は混乱する。なんでお嬢様が相手を牽制する必要があるのだろうかと。
「も、申し訳ありません質問の意味が分かりかねるのですが」
「意味なんてそのままですわ。相手に嘗められないためにはまず牽制すべき、基本ではないのかしら?」
お嬢様の意図の読めない先生の困惑は加速する。それでも必死に考えて意図を図ろうとする。
「あ、あの、失礼ですがお嬢様。お嬢様が相手を威圧する必要はないと思うのですが」
「いいえ、わたくしは日本へしばらく滞在しようと思いますの。そのときに頼れるのは己の力のみではなくて?」
エーヴァの言葉を受け先生は思考を巡らせ思案する。
(お嬢様は日本に興味をもたれ将来の為に留学しようとお考えなのでしょう。とすると学校へいかれるわけですから今のクルバトフ家の力も行使しても効果が薄い……!?
なるほどお嬢様は自分の力だけで学校へ行くために相手に隙を与えるわけにはいかない。つまりは頂点に立たれる。そういうわけですね!)
先生は咳払いをするとエーヴァが期待に満ちた目で見つめてくる。その目にドキドキしながら先生は口を開く。
「良いですかお嬢様。基本は相手を威圧するのではなく友達になって頂きたいですので『お友達になりませんか?』と言って頂きたいです」
先生がチラッと見ると求める答えじゃなかったからなのか残念そうな表情をするエーヴァ。その表情ですらドキドキしてまう。
「ただ、ただです。もしも威圧する必要があるのなら、万が一ですけど──」
エーヴァの表情がぱあーっと明るくなる。それを見るだけで先生も幸せな気分になる。
そんなお嬢様の求める答えの為にコホンっと咳払いをして口を開く。
「相手を牽制する言葉は色々ありますがお嬢様にピッタリな言葉は『地獄に堕として差し上げます』などと上品に言うのが宜しいかと思います。
お嬢様のような方が上品に相手を貶すというのは破壊力があると私は思います」
先生の言葉に考えるエーヴァはぶつぶつと「地獄に堕として差し上げます」を咀嚼する。なにか納得したようにパアッと明るい笑みを見せ先生をドキリとさせると
「先生ありがとうございます。わたくし日本でやっていけそうですわ」
エーヴァに感謝されご満悦な先生だがその目的を知ることはない。心の中でニヤリと笑うエーヴァ。
(待ってろよ詩! お前を地獄へ落として差し上げますわ! くっくっくっく)
エーヴァ勉強中。日本はもう少しだ!
* * *
色鮮やかな羽を羽ばたかせ飛ぶオルドはぐるぐる目玉を下に向け目に入った木に止まる。そのまま毛繕いを始め羽を整える。
「オルド~目的地に着きそうっすか?」
タイミングよく話しかけてくるシルマに自分の居場所を知らせる為に周囲を見渡すが何かを思い出したように羽をバタバタ振る。
「居場所把握してるだろうって? よく覚えていたっすね。そう私はオルドの位置を完璧に把握してるっす。つまりプライベートはないっす!」
がーん! と効果音が聞こえてきそうな感じで頭を抱えるオルド。
「はっはっは、私が把握しようと思ったときしか分からないから大丈夫っす」
ホッとしたように胸を撫で下ろすオルド。
「さてと、今回はエーヴァさんより性格はいいはずっすけど逆に心配っすね」
コクコクと頷くオルド。
「なんで転生者ってみんな何か抱えてるというか心に秘めたものがあるっすかね? 5星勇者と呼ばれ活躍したというのに……本当はそんな人生望んじゃいなかったということっすかね」
オルドが翼を広げる。
「ほうほう、望んだ人生を歩める人は少ないっすか。なかなか哲学的なことを言うっすね。今回も望んだものじゃないかもしれないっすけど協力を要請してみるっす。後少しっすから任せたっすよオルド」
シルマの言葉にオルドが頷いて大きく羽ばたき始める。




