第299話 まっしぐら理論
意を決した私は天に手を掲げる。前世からどんなピンチも乗り越えてきた私にできないことなどないのだ! ちょっとはずかしいけど。
「今、スピカ様の力を借りて私は新たな力を手に入れるの! 世界で一番可愛い詩ちゃんにな~れ!」
うわぁあ~やっぱり恥ずかしいぃ! そんな気持ちをまわりに悟られないようにセリフを言い終えた私はキリっとした顔を意識して変身のときを待つ。
「あれ? なにも起こらない。セリフ間違えたとか?」
心配になった私がチラッとシシャモを見ると、シシャモは自分の手を舐め毛づくろいしている。
そしてその後ろにいる、口を押え今にも吹き出しそうなエーヴァと、ニマニマ笑うスーに、満足そうに笑みを浮かべるシュナイダーの視線を受け私は体の芯から熱くなるのを感じてしまう。
毛づくろいが終わったのか、シシャモが姿勢を正すと前足をぐーっと伸ばして伸びをし、恥ずかしがる私目がけ走ってくる。
【別に言わなくてもいいんだけどニャ】
「だ、騙したな!」
駆け寄ってきてぴょんとジャンプして、私にぶつかりながらシシャモが語る真実に憤慨する私だがとき既に遅しってやつである。
光に包まれた私はテレビとかで見たことのある魔法少女だか、フラプリだかさながらの変身バンクを……なんてことはなくすぐに光は消えて終る。
「はて? なにか変わったかにゃ?」
そこまで言って私は慌てて口を押さえる。
「今私、語尾に変なものが付いていた気がするにゃ」
慌てて再び口を押さえた私は、エーヴァたちの視線を感じて恐る恐る顔を上げる。
「ぷっ……ぷはははははっ!」
お腹を押さえて笑い出すエーヴァ。対照的にスーが目を輝かせてキラキラした視線を向けてくる。
「うた、可愛いのです!」
両手の拳をグッと握って熱のこもった言葉を伝えてくるスーから下にいるシュナイダーに視線を移す。
「ふむふむ。オレとしては犬の方が嬉しいが猫も好きだ。つまりは詩、似合っているぞ!」
歯をキラリンと輝かせ、フンフンと鼻息荒く語るシュナイダーから目を逸し未だ笑うエーヴァに目を向ける。
イラッとした私は毛を逆立てた尻尾をペシッと……いや待て尻尾?
無意識に振った尻尾の感覚を感じ、恐る恐る腰の辺りに視線を向けると、白くて長い尻尾がそこにはあった。
先端丸い上品な尻尾がゆらゆら揺れていて、試しに先端だけをちょこんと曲げてみようと思ったら、普通に思い通りに曲がってしまう。
「に、にゃんじゃこれは!? なんで私に尻尾があるにゃ!」
頭を抱えた私はさらなる違和感を感じる。その違和感になんとなく嫌な予感を感じそっと頭の上を押さえると、今までなかったはずの感覚が手に伝わってくる。
「ま、まさかこの形、この肌触り……ネコ耳……とかじゃにゃいよね?」
おそらく目を丸くして驚いて間抜けな顔をしているであろう私を、エーヴァが指さして笑い、興奮気味のスーが何度も頷く。
エーヴァが笑って出た涙を指で拭いながら、自分の持っている折りたたみの鏡を私に向け投げる。
受け取った私が急いで顔を確認すると、頭の上に可愛らしい白い毛の猫耳が二つ生えていた。
「にゃんで私がこんな格好に!? しかも語尾がおかしいにゃん」
【シシャモと詩の相性はバッチリだったニャ。ここまで完璧に融合できる人間はいないニャ。語尾が変わるのは、想定外ニャ。でも可愛いくていいと思うニャ】
「勝手なことを言ってくれるにゃ!」
シシャモに文句を言うが締まらない語尾のせいで、喋る度に恥ずかしさが込み上げてくる。
「まあ、格好と喋り方はとにかく、肝心なのは空間転移が使えるかどうかだろ? 試しに使ってみて、使えるならゴールデンパー君とやらを早いとこ倒そうぜ」
「そうにゃ! さすがエーヴァ、良いことを言うにゃ!」
エーヴァの一言で私は本来の目的を思い出し、指をパチンと鳴らしながら言った言葉は締まらないもので、エーヴァは口を押さえて必死に笑いを堪えている。頬を膨らませ吹き出すのを堪える姿ですら可愛いエーヴァと、私をキラキラした目で見るスーの視線にこの場から逃げ出したい気持ちになる。
【いいニャ、いいニャその感じ。詩、シシャモの空間転移の範囲は約6キロニャ。チャージに必要な時間は僅か0.5秒と破格の性能を誇るこの力を使うには、今いる場所から飛んでそこへ行きたい気持ちが必要ニャ。つまり猫まっしぐらニャ】
「全然意味の分からない説明をありがとにゃ。でも、ここから飛んでいきたい気持ちだけはあるにゃ」
拳をグッと握った私は、はるか先の地点に視線を向ける。シシャモと同化しているからこそ分かる感覚なのかもしれないが、自分でも一瞬で遠くへ行ける、それができて当たり前だと思える。
「いくにゃ!」
私が声を上げるとエーヴァの吹き出す声と、周囲の風景に線が入る。例えるなら自分の目の周囲の空間が切り取られた感覚。そして遠くの空間と、切り取った空間が繋がる。それは飛んだとかじゃなくて、一歩前に出た場所がそこだと言えばいいだろうか。
一歩で目的地に着く感覚……つまり、猫まっしぐらってことにゃ。
「にゃんとぉおお~っ⁉」
一歩足を前に出したら空中にいた私は、浮遊感を感じた瞬間反射的に朧を振りビルの壁に突き立て、それをブレーキにして壁を滑り下りる。
【やっぱり詩はすごいニャ。空間転移を、しかも一発で使える人間はいないニャ。スピカ様の見立ては間違ってなかったニャ】
「お褒めいただき嬉しいにゃぁぁぁ~!!」
火花を散らしながら壁を滑り下りながら叫ぶ私だが、この力に確かな可能性を感じるのである。




