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こいつは食べれないなぁ

 シュルシュルと戻っていく触手に巻き付けた、土の糸を辿っていくと崖にたどり着く。

 糸を伸ばしつつ、一旦止まると崖の上から下を覗く。


 まあまあの高さ、糸の動きを見ると真下に伸びていっている。


「上手くいけるかな? 久々にやるしなぁ」


 私はその場で軽くピョンピョン飛ぶと、助走をつけて崖を垂直に駆け下りる。崖を床の様にして走るわけだけど、これ結構難しいからね。


 地面より高いところで崖の壁面を蹴り、横へ飛び体を強化した状態で地面に転がりながら受け身をとると、その勢いのまま再び走り始める。


 左腕の傷を開き、流れ出す血を筆で掬う。


 因みに一度切った傷は閉じたり開いたり出来るのだ。でないとその度に切るか、血を流し続けなければいけなくなる。この術を使う上での基本中の基本なのだ。


 戦いが終わった後は塞ぐけどね。


 大きな幹の木の前で立ち止まると、赤くなった筆の毛先で木に円を描き『剣』を描き手のひらで叩く。漢字が光りだし木の一部が割れ、剣が生成される。それを手に持ち土の糸を手繰り再び走る。


「うまく出来た! この術の発動には不安があったけどいけそうだね」


 剣は木で出来ているので、木刀なわけだが見た目は西洋風だ。切ることは出来ないけど、なにも無いよりはましだ。


 ちょっぴり解説、この術は大きく分けて2つあり、円に書いた文字……分かりやすく魔法陣と呼ぶと、魔法陣自体が意味を持つものと魔法陣が描いた場所に影響を与えるものがある。

 前者はこの前描いた『火』みたいに魔法陣自体が燃えそこに触れることで攻撃を発動させることが出来る。描いた場所を中心に攻撃を行う必要がある。


 もう1個は物質に影響を与える術だ。さっきの木に『剣』を描き生成したやつだ。手元に武器がなくても生み出せるし、形を変え地形を変えるなんてことも可能だ。

 ただ質量保存の法則ってやつで、小さな石ころが大きな剣になったりはしない。その質量に見合った剣が生成されてしまう。


 おっと最後に一つ、1度形成した武器には形を保てる制限時間があり、描く物質によっても形を保てる時間が違うのだ。

 石>木>土>水>火>風、ざっとこんな感じで石(鉄も含む)なら30分くらいもつけど風(空気)で作った武器は10秒も、もたない。いざってときには使うけどね。


 と、のんびり説明している場合じゃない。土の糸もそんなにもたないし、急いで後を追う。


「おっとぉ」


 私が加速するのを狙っていたかのように、2本の触手が襲ってきて、攻撃を開始する。そのうち1本には土の糸が巻いたままなので、避けながら木に糸を巻き付けて動きを殺していく。

 身動きのとれなくなった触手を辿って本体へ向かう。それを妨害するもう1本の触手を木刀で払いながら進む。


 切っても良いんだけど結んだ方を千切られたら困るから、こっちの1本を保険で残しておくのだ。私賢い!


「むむっ!?」


 私は土煙を上げながらブレーキをかけると、地面に素早く2つ描くのは『棘』それを木刀で切るように撫でると同時に、木々をなぎ倒しながら突っ込んでくる巨大な物体。それを私は空中に跳んで逃げる。

 そしてそいつが魔法陣の上を通った瞬間、発動する土の棘がそいつを貫く予定だったんだけどね……


「なんなのこいつ、どんだけ体固いのよ」


 私が文句を言いながら睨むのは、全長5メートルはあろうかという猪。体は浅黒く鉄みたいに鈍い輝きを放つ毛に覆われていて、それが土の棘を防いだんだと思う。


 凶悪そうな顔してるし牙も鋭く大きい。そして尻尾が4本に分かれ後ろでニョロニョロとうごめいている。どうやらさっきの突進で糸で縛っていた触手も戻ってきたみたいで、元気にニョロニョロしている。


「う~、ぼたん鍋食べたいからタイムリーといえばタイムリーな素材だけどこいつは食べたくないなぁ」


 そんなボヤキに反応したのかは定かでないが、触手が襲いかかりそれと同時に突進攻撃を仕掛けてくる。

 空中に飛び横回転しながら突進を避け、木刀で触手を弾く。ついでにお尻の辺りを木刀で叩くがダメージは無さそうだ。


 こういう硬い相手には魔法系の技に限る。それも高威力のものを撃ち込むべきだ。


 さて、どうしたものか? 今までは魔法陣に文字を書き連ね文を書き発動させていたが、今は漢字1文字でよくなった分、威力をどうやって上げていいか分からない。


 とりあえず丸を描き『爆』を描くが、宙で赤い霧となり霧散していく。


 うーん、2文字か?


『火』『爆』を円に書き込むが同じく霧散していく。


 あ~難しいなぁ。私は攻撃を避けながら考える。こっちの世界に来て文字の意味が変わったお陰で、術が簡素化され発動しやすくなって喜んだんだけど違う壁にぶち当たる。


『火』を描くと魔法陣を叩く。火花が散り、巨大猪の触手の1本に引火するがバシバシと地面を叩いて鎮火される。

 どうやら本体もダメージは受けていないようだ。


 火はあくまでも火であって、魔法陣を中心に燃えたり火花を散らしたりは出来るが爆発はしない。

 さっきから何がしたいかというと、魔法の威力を上げたいのだ。この巨大猪の頑丈な体を破壊する高威力の魔法を撃ち込みたいんだが、威力を上げる方法が分からないわけである。


「ま、考えても仕方ないや。今出来る範囲で頑張ろうっと」


 宙に『刃』を描き木刀で切るように魔法陣を通すと、風の刃を纏った木刀を巨大猪に斬りつける。


 ガチィーン、と弾かれ風の刃は散り巨大猪の毛先が舞う。切れないこともないけど時間がかかりそうだ。


 風はダメと……水場に連れ込んで溺死させる方が早いのかな?


「めんどくさいや。やっぱ燃やしちゃおうっと。猪の丸焼きってことで」


 私は木刀を構え微笑む。

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