エレノア転生!
かつて魔王の脅威から聖なる国エウロパを救った5人の勇者がいた。
国に伝わる5つの星が魔を滅する物語になぞらえ、5星勇者と呼ばれていた彼らは魔王討伐後、その栄誉を称えられ祝福されながら、生涯を終えたといわれている。
だがよく考えて欲しい。魔王軍は総勢100万はいたといわれている。
いくら力があるとはいえ5人で立ち向かい、まして全ての人を守りながら討伐出来るわけがない。
そう、その裏には多くの一般兵と冒険者、そして勇者たちと同等の力を持ちながらも、目立つことなく戦ってきた者たちがいるのだ。
その中の1人、エレノア・ルンヴィクは魔法とも違う変わった術を操り、人々を救い魔王軍討伐に貢献してきた。
だがそれも一部の人の記憶にしか残らず、一切の記録もなく報酬も微々たるものだった彼女は5人の勇者が称えられる中、そっと姿を消し、山の奥で生涯1人で過ごし、誰に看取られるわけなく天寿を全うした。
これがエレノア・ルンヴィクの生涯である。
* * *
「で? 結局どうなの? 出来るの? 出来ないの?」
「ん~、ムリっす!」
私は頭を抱える。目の前には自称女神のロリっ子が悪びれた様子もなく、棒付き飴を口に咥え両手で大きくバツをつくっている。
私の名前はエレノア・ルンヴィク、どうやらさっき天寿を全うしたらしく、天使に運ばれ天に召された。そしてこのロリっ子女神の前に連れてこられたのだ。
今の私の姿は72歳の私ではなく、10代の私になっている。気持ちも若返ったのか記憶はあれども、若い頃の私に戻ってる。何でも出来そうな感じだ!
ロリっ子女神は火のように赤く燃える髪の毛を腰まで垂らし、頭上のアホ毛がピョコピョコと存在を主張してくる。鬱陶しいから切ってやろうかそんなことを思ってしまう。
顔立ちは幼いのに美しさも感じさせる神々しさを合わせ持っているのに、残念なくらいのやる気のなさが、美貌を台無しにしている。
このロリっ子女神が言うには生前の私の功績を称え、転生の条件を選ばせてくれるらしい。
私の出した条件は『魔物や魔族と戦わなくてもいい世界』『前世の記憶持ち越すこと』の2つ。
これらはそんなに難しくないらしいのだが問題は私の能力。
「それがっすねー、この力って魂にこびりついてて剥がせないっすよ。無理矢理やってもいいけど、精神不安定な人になっちゃうっす。それでも良いっすか?」
「い、いえやめとくわ。まあ平和な世界なら力があっても使うことないし、前世の記憶持ちなら力の制御も問題ないからまあいいわ」
ロリっ子女神が口から出した棒付き飴で私を差してくる。ちょっと汚いなー、とか思いながらも口を閉ざす。
「お、じゃあいっちゃうっすか?」
非常に軽い感じでロリっ子女神は私を促してくる。
「ええ、私は違った生き方をしてみたい。人並みに遊んで恋をしてそして死んでみたい」
「うんうん、本当に欲のない人っす。今から転生する世界の国は、平和でいいとこっすよ。記憶は3歳のときに戻る様にしておくっすよ」
「あれ? 記憶戻るのにタイムラグでもあるの?」
「別に赤ん坊のときから記憶持てるっすけど、羞恥心とかないっすか? オムツにドバーって出来るっすか?」
「うっ……そ、そうねじゃあそれでお願いするわ」
私の答えに嬉しそうに頷くと、飴を咥え両手を上に上げる。
さっきまでの軽い感じが消え、神々しさが増し辺りを威圧するぐらいの力を感じる。青いオーラがほとばしり周囲明るく照らす。流石は女神、飴は咥えてるけど。
『『我が名はシルマ。我が声に応えよ、かのものエレノアを、穢れ無き無垢な魂へ返したまえ。これをもちて転生となしえ──』』
ああこのロリっ子の名前シルマだったんだぁ、とか思いながら青い光に包まれた私の意識は遠くなっていく。魂だから意識ってのも変な話だけど。
でも安らかに意識が遠くなるってのは悪くない……
* * *
とまあこれが私、鞘野 詩の前世の記憶である。女神シルマの言う通り、3歳の誕生日に私の記憶は戻った。
3歳までの記憶なんて曖昧だし、別に無くても問題ないんだけど突然前世の記憶が戻って3歳児から72歳の記憶持ちになったギャップでかなり驚いた。
特に「パパだよー」とか「おいちいでちゅねー」とか言われる中、3歳児を演じてご飯を食べさせられたり、欲しくもない玩具で遊ばされ、引きつった笑顔で両親の機嫌を取ったりするのには苦労した。
自我が目覚めた私は他の子より成長が早いといわれ、天才だって言われることもあったが、前世で学校に行ったことなんてないし、こっちの文字とか計算なんて初めて触れたから別段頭が良いわけでもない。ちょっぴり優秀なくらいだ。
ただ運動神経は抜群に良いので、周囲からプロの道を進められたりしたが、好き勝手に生きたい私は全て断り、部活に入らなくてもいい高校へ進学したのである。
そんな私は現在15歳の女子高生なわけだ。あの女神が言った通りこの世界、地球の日本という国は本当に平和で良いところだ。
沢山の娯楽で溢れているし、食べ物も美味しい。友達も出来たし毎日が幸せいっぱいだ!
ここに私が前世の記憶を持ち越したかった理由がある。単純なことだが、前世と現世の比較をして幸せを噛み締めたかったのだ。
だって記憶無かったら幸せかどうかなんて分からないし。
そうそう、私の能力だが一度試す機会があったので試してみたが不発に終わった。
元の世界と文字も違うし、上手く発動しない感じだった。まあ、使うことないしどうでも良いんだけど。
「うたー、今日暇? 寄り道しようよ!」
明るく声をかけてくるのは友達の米口 美心だ。幼稚園からの友達、いわゆる親友だ。
「ひまだよー、どこ寄ってく?」
「アイス食べようよ! 新作の味が出たんだって!」
「アイスかー。うん! いいね行こう」
私は鞄に急いで教科書を詰め込むと美心と一緒に教室を出る。
なんて楽しい日々だろうか。前世が嘘のような楽しい生活。幸せ過ぎて不安になってしまう。
でも、あんなに頑張ったんだから良いよね。
* * *
地球。青い水の星。争いが無いわけではない。それでも宙から見れば綺麗な星。
悪意は突然に、そして暴力的にやってくる。
夜更けの上空に、一際明るい星がジグザグと蛇行しながら飛んでいる。
この様子は数人の人が目撃しておりSNSや動画サイトに上がり、一部でUFOだと話題になるが、世間一般ではたいした噂にはならなかった。
ましてこの光から放たれ、地上に落ちた物体があったことなど誰も知らない。