第五話 オーガの肉は加熱しろ
「ええと……要約すると、キサラのお父上は剣聖と呼ばれるほどの剣の達人で」
もぐもぐ……
「冒険者としてたくさんの功績を挙げて、『最高の冒険者』と称せられていたくらいに有名人でシャイナ様が一目惚れして、結婚して婿養子にされた」
クチャックチャッ……
「元々、男児の居なかった先々代のアニエス男爵は一人娘の婿である冒険者に家を継がせると同時に足を洗わせて貴族としての仕事に専念させた」
はふっはふっ……
「だけど、慣れない貴族暮らしの気分転換ということでお庭で剣を振るってらっしゃった。
それをあなたは赤子の頃から見ていて、その動きを覚えていた」
うまうま……
「お父様が亡くなられた後も、その動きを思い出しながら庭で剣を振るっていたことにより、その技を継承し、オーガを瞬殺できるほどの力を手に入れた……と」
「おいしーーーい♪」
私の説明した内容を反芻するアクヤちゃんを横目に私はオーガの肉の丸焼きを食べています。
「もぐもぐクッチャクッチャ、うるっさいですわ!!
てか、なんでオーガ食ってるんですの!?」
「ごめんね……『モンスターのお肉って美味しい』って亡くなられたお父様の口癖で……」
「くぅっ……! ズルイですわよ!
切ないエピソードを出して同情を買うのは!」
目の端に涙を溜めているあたり、アクヤちゃんは優しい子です。
「お嬢様、たしかにモンスターの肉を食うのは魔除けになって良いのですよ。
向こうからすると捕食される相手だと警戒するみたいでして」
御者さんがそう言うとアクヤちゃんは嫌そうな顔をして私に尋ねます。
「う……毒とか入ってないでしょうね?」
「焼けばだいたいのもの食べられるよー。
ネズミとかカエルとか」
「あなた基準でモノを言わないでくださいまし!!
というか、アニエス家そこまで没落していたの!?
日雇い人夫の方がまだマシなもの食べてるわよ!!」
ひどい言われようです。
もしかすると、我が家の食卓事情を明かしておけば援助していただけていたかもしれません。
侍女さんがアクヤちゃんを宥めます。
「まあまあ。でもよかったではないですか。
キサラ様がこれほどに強いのであれば、きっとどこでもやっていけますよ」
御者さんが賛同するようにうなづきます。
「そうですなあ。
オーガをあんなにあっさり倒せるのなんて、騎士団にもどれくらいいるか。
お父上のような立派な冒険者になられるのも良いかもしれませんな」
「冒険者かー」
ぼんやりと自分が武具を身につけてモンスターをバッタバッタと倒している姿を想像します。
たしかに痛快です。
「それはそうと、食事はそろそろ切り上げてフェブリアルに向かいませんこと?」
「ええっ!? まだ腕を少し食べただけなのに!?」
「一頭まるまる食べるまでここにいるつもりっ!?
何日かかるのよ!!
早く行かないとまたオーガがやってきて、それを倒して食べて、またオーガがやってきて……アアアアアアアアあっッッ!!!」
「アクヤちゃん。
大声出して取り乱してるとモンスター呼び寄せるよ」
私がアクヤちゃんを諫めると御者さんは笑います。
「なーに。モンスターに出くわすなんて滅多にない話ですぜ。
しかもオーガみたいなヤベエモンスターは滅多にあるわけ————」
『BIGYAAAAAAAAA!!!』
耳をつんざくような甲高い咆哮を竜車の竜が上げます。
何かに怯えているようです。
ふと空の向こうに目をやると、
「あ……ワイバーン?」
竜族に属するモンスターです。
空を自由に飛びながら地上の獲物を虫を食べるかのようにあっさり仕留める、つまり強力なモンスターです。
「やっぱり私の言ったとおりでしょおおおおおお!!」
アクヤちゃんが泣き叫びます。
結局、オーガのお肉は置いて逃げ出しました。
逃げながら応戦してワイバーンを仕留めることに成功しましたが、倒しても倒しても次々と強力なモンスターが湧いて出ます。
それでもなんとか誰も怪我せず、竜車も壊されることなくフェブリアルにたどり着いたのでした。